第17話 こうなると思ってました
「あの、天樹姫さん。」
「はい?」
「天樹姫さんのその小箱、何なんですか?」
「神のみぞ知ることです。」
レッロはそれ以上聞くことをやめた。おそらく、天樹姫の持っている小箱は彼の今、生きているファンタジーな世界よりもよっぽどファンタジーな気がしたから……
天樹姫はそんな達観したレッロのことなど放っておいて軽く欠伸をしながらツェルジェノ家の屋敷に戻り即就寝した。
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翌朝、天樹姫はアコとウスケを伴って社祠を建てた傍の水田に赴き、その光景を見た。
「うん!思った通りですね!!」
天樹姫はどこか、諦めたようなそれでいて晴れ晴れとした顔で大きく頷いた。
何が思い通りだったかと言うと……稲穂が輝いていた。比喩ではなく、本当に。
出来ればそんなことはないと思いたかった。天樹姫は日本のようにただの願掛けで終わってほしかった。しかし、異世界の現実はそう甘くなかった。
それもう見るものすべてが水田を二度見した。それはそうだろう。昨日まで夕焼けの光を浴びで黄金に輝いて見えた稲穂が本当に輝いていたのだ。それ自体が光を放っていたら二度見もするだろう。
「間違いなく私の神社の米に近いレベルになりましたよねこれ。……まぁいいでしょう。これを生かすか殺すかはツェルジェノ領の人たちです。素知らぬ顔でいましょう。」
「素知らぬ顔じゃ困るんですけど天樹姫さん!?」
「聞こえませんね。何、悪い物じゃありませんよ。ただ稲穂が加護に過剰に反応しているだけです多分そうです。」
正直、天樹姫からしてもこの事態は想定外だったのでそれらしいことしか言えなかったのだ。実際目の前の光景は神の加護が関係しているのだが。
レッロもレッロで鑑定した結果、稲穂は全くの問題なし。寧ろ品質が最上とまで出ているのだから喜ばないわけには行かない。ただ、その成長が成長ではなく、もはや変異とまで言えるのだから素直に喜べずにいた。そして同時にレッロの頭に一つの疑問が生まれた。
「この稲穂、領地以外で育てたらどうなりますかね……?」
「その場合最初に育てていた稲穂のレベルに戻ると思いますよ。この結果は社祠を建てたことで生まれたみたいですからね。……さて、もういいでしょうかね。」
「え?天樹姫さん、もういいって?」
「いえね、そろそろ戻ろうかと思いまして。それなりに面白かったですし、森から出て街を見るっていう目的も達せましたし。」
大きく伸びをし、天樹姫はおっちにおいっちにと準備運動を始めた。別に変えるためにウォーミングアップが必要という訳ではないのだが、そうしたい気分なのであった。
勿論、いきなり帰るだなんて言い出すとは思いもしなかったレッロは驚愕した。
「え、あのもうちょっとゆっくりしてもいいんじゃ……?」
「んーいえ、帰りたいと思っちゃいましたしね。これは帰っておかないと私の気が済みません。レッロさん、ご両親によろしく伝えておいてください。」
「あ、はい……」
普通であれば、護衛もなしにあの危険な森に帰るなんて正気の沙汰とは思えないのだが、天樹姫の異常さに気付いているレッロは引き留めることを止めた。と言うよりも、止めても無駄と言った方が正しいだろう。
「どーせ、あなたのことでしょうから森を抜けて神社にやってくるのでしょう。その時は歓迎しますよ。……あぁ、あと気を付けてくださいね。」
「へ?」
「邪な考えを持ったもの……盗賊が近づいていますから早めに対処した方がいいかもしれませんね。」
「は!?」
「じゃ、頑張ってください。」
「ちょまっ!」
突然の爆弾発言にレッロは天樹姫に向けて、手を伸ばす。が、その手は空を切ることとなった。既にその先に天樹姫は最初からいなかったかのように消え失せていたのだから。ついでにアコとウスケも。
レッロは、天樹姫がいた空間を茫然と見つめていたがやがて我に返って屋敷に向かって駆け出した。天樹姫はうそをついたとは思えない。であれば、盗賊がこの土地に向かっているということになる。
「何であの人最後の最後に爆弾落としていくかなああああああああああ!?」
天樹姫の警告によりツェルジェノ領は、いち早く防衛体制をとることができ、盗賊を一網打尽することができた。それには領主の小さな息子が活躍したと言い伝えられている。
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「ふぅ、やはり我が家が一番ですねぇ。……ん?どうしたんですかクマさん。え?侵入者?」
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