第16話 何故知ってるし
この場で育成方法を知っているということを問いただせば、自身もレッロも怪しまれるとふんだ天樹姫はあまり使わない力の一つ、テレパシーならぬ天啓によってレッロ語り掛けた。ちなみに違いは、テレパシーは個人が思念を送りあうもので、天啓は神が一方的に思念を送り、対象の人間の思考を読んで会話しているのだ。あとは天啓は頭の中でエコーするくらいだ。
(レッロさん、聞こえますかレッロさん。)
「っ!?」
突然頭の中に響いた声にレッロはビクッと体を震わせた。完璧な不意打ちの上、耳からではなく頭に直接の声なのだから無理もない。
そして驚いたあまり手に持っていたフォークを落としたのだが、とっさに手が滑ってフォークを落として驚いたと嘘をつきその場を逃れた。驚いた後にフォークを落としたはずなのに……疑問に思うものは誰もいなかった。
(変な嘘つきますねぇ、さっきから。)
(いいじゃないですか、切り抜けたんですから!……ってまさか育成法のこと、ですよね?)
(えぇ、そうです。)
天樹姫は天啓を送っているなど一切感じさせないほど自然に、料理を口に運んでいる。口を動かさずとも会話をできる天啓は意外と便利なのだ。神にしか使えないが。
(あなた、前世は農業大学にでも通っていましたか?)
(いいえ)
(では、実家が農家?)
(違います)
(……本の虫)
(ごめんなさい、違います。何故か知っていたんですよね……僕も不思議で不思議で……)
天啓を打ち切り、天樹姫は料理に舌鼓を打ちながら思考をめぐらす。
レッロが嘘をついているようには天樹姫は見えなかった。しかし、普通ではありえないことだ。学んでもない農業がこうも完璧にできてしまうというのは、おかしい。人間が親から教えてもらわずとも歩いたり笑ったりできるのと訳が違うのだ。
となると、天樹姫的に考えられる点は一つ。知識を植え付けられたということだ。
(そうでもしないと、小学校の授業でちらっと教わったくらいの人が完璧に稲作出来るわけないですね。にしても元々米がないはずのに知識ですか。)
思考がそこに行き着いたところで天樹姫は考えるのをやめた。たんに面倒なのもあるが……いや、やっぱり面倒に行き着いた。
とりあえず今は美味しいけどちょっと残念ななんちゃって日本料理を楽しむのであった。
・
・
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「社祠建ててくれません?」
食事を終えた後、ナプキンで口を拭く天樹姫は、ゴルードに提案した。
勿論社祠のことなど知らないゴルードに天樹姫は至極簡単に丁寧に説明した。
曰く、小さい神社で神様の窓みたいなものです。と。本当に簡単すぎるが。
天樹姫の住んでいるところが、神を祀っているらしい建造物と聞いていたゴルードはそれはもう賛成した。もしかしたら更なる恩恵が見込めるのかと思ってのことだ。
天樹姫が急に社祠のことを言い出したのもその恩恵について調べたかったからだ。
レッロが神社で祈っただけで神の力が作用したのであれば社祠を建てればと言うわけだ。
ゴルードの許可をもらった天樹姫は、田んぼの監督を任されているレッロを引き連れ田んぼへ向かった。
「天樹姫さん、社祠ってあれですよね?たまに田んぼで見かけるちっちゃいの。」
「そうですよー」
「……天樹姫さん1人で作るんですか?」
「そんな馬鹿なー」
「でっすよね!あははははは」
いくら規格外な天樹姫でもやれることとやれないことくらいあるだろう。今こうして外に出ているのは明日社祠を作るためにうってつけの場所を探すためであって即座に建てることが目的ではないとレッロは考えていた。いや、勘違いしていた。
「もう出来たものがありますしっと!」
出てきた。立派な社祠が。天樹姫が取り出した小さな小箱から。
レッロは、もはや理解することがかなわなかった。
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実は新作を書き始めましたー
タイトルは「俺の知らないファンタジーを彼女は知ってる」です
異世界と異世界の狭間でそれぞれの異世界作品を書き連ねるトーヤとリューカルは、それぞれの世界のことを話し合う。でも2人の世界は2人の思っていた世界とどこか違って……?
現代ファンタジーです!なろう風で言うと、ローファンタジーの作品となっております!
基本的に1話読み切り型で息抜きにどうぞ!
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