第11話 神は見ていました
「いやぁ、本当にアコはお手柄でしたね。この香草はいいものです。」
「キャウン!」
釣りの際、アコが散歩から持ち帰った香草。天樹姫はこれを神の御業にて1つの香草から複数の種を生み出した。元の世界の者にはなかったものということで少々手こずりはしたがそれでも1時間もかからないうちに成功したのだ。
今はその複製し、成長した香草を用い、先日釣った魚の香草焼きを頬張っている。勿論、アコとウスケも同じものを食べており2匹とも満足そうな顔をしている。
特にアコは、天樹姫から褒められたということもあり、尻尾を千切れるほど振りながら香草焼きを楽しんでいる。
――実はこの香草、只者ではないのだが、天樹姫はそのことに触れるつもりはなかった。美味しいからいいじゃないと。
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天樹姫がこの世界に訪れてから3か月ほど経った。
参拝客はレッロ以降、一人としてこなかった。……いや、正確にはたまに森の理性のある魔物が物珍しさにやってきたことはあった。
そのたびに天樹姫は、魔物に神社の参拝方法を教えていた。たまーに、天樹姫が見上げるほどの巨躯をした魔物、具体的には黒い毛皮をした熊も訪れていたがそれにも構わず天樹姫は接していた。知らない人間からしたら異様な光景だろう。
さて、今天樹姫のいるこの世界は、日本でいうところの夏のようだ。
爛々と照りつける陽の光に常人であれば、日陰に隠れ団扇を取り出し扇ぐことだろう。しかし天樹姫は、いつもと変わらぬ巫女装束で神社の境内を掃き清めていた。
「クゥン……」
「ワフゥ……」
天樹姫は平気でも2匹の狛犬はこの暑さは応えているようだ。
本来、農業に使うスキルである水撒きスキルを自らが涼むために使っていた。それほどまでに日陰の多い森の中で暮らしていた犬2匹には、天樹姫の力によって木々が立ち退き、日光が直に当たるこの土地はキツイものがあった。
「あなた達……農家になるというのに暑さ程度で参ってちゃあ困りますよ?」
いや、アコとウスケは農家になるつもりはない。断じて。
そんな2匹を見かねてか、天樹姫は何かを思いついたかのようにポンと手を打つと、拝殿へと入っていった。
数分後、拝殿から出てきた天樹姫のその手には1枚のお盆が。さらにそのお盆の上には3つのガラスの器。さらにさらに、そのガラスの器の上には紅くキラキラと輝く何かがそこにはあった。
アコもウスケも、見たこともない赤い何かに首をかしげていた。しかし、目を離せない謎の魅力がそれにはあった。
天樹姫は石畳の上で伏せる2匹の前にその器を置いた。2匹はその器から冷気を感じた。そして同時に甘い香りも感じ――これは食べ物だと、そう思うや否や、その紅い何かに齧り付いた。
冷たい、頭が痛む。しかし美味い!食べるたびに体の熱が消え去っていく感覚を楽しみながら2匹は山盛りされたそれを喰らった。
「いやー効果てきめんですね。Twitter見ててやりたいっておもってたんですよねー冷凍イチゴのかき氷。」
そうつぶやくと天樹姫は自分用に盛り付けられた冷凍イチゴのかき氷をスプーン一杯に頬張った。しかし、神もツイッターを見ていたようだった。
さて、天樹姫が作ったのは、冷凍イチゴのかき氷。これはこの世界で天樹姫が作ったイチゴを瞬間冷凍し、そのまま氷の代わりにかき氷にしたものだ。その甘さは元の世界のイチゴの糖度を軽く凌駕していた。そのあたりは天樹姫はもうきにしないことにした。
「うん、美味しいですね♪暑い日にはやはりかき氷ですよねーちょっとスペシャルなかき氷ですけどっ」
天樹姫もそのおいしさに満足したようで、その顔から笑顔がほころんでいる。
1人と2匹が冷凍イチゴのかき氷を楽しんでいると、鳥居の奥から人影が見えた。もちろん天樹姫は気づいていたがスルーしていた。知っている人物だったし。
その影は5つあり、みな一様にその額には汗をかいていた。
「あ゛天樹姫さん……それ……何食べてるんですか……」
現れた人影の正体は、レッロとルマダ達冒険者パーティだった。
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