第7話 週末は蜜の味

寝室の窓から朝日が差し込むと、自然と目が覚めた。


腕の中にいる裸の舞さんは、とても穏やかな表情で眠っている。


そんな彼女の寝顔は綺麗というより、可愛い。


あのあと私も舞さんに服を脱がされたから、今はもうお互い一糸纏わぬ姿で抱き合っている。


女性の体って、こんなに柔らかいんだ……。


正直、私は女性をイカせる自身なんてなかったのだけど、昨晩の舞さんは何度も何度も絶頂を迎えて痙攣していた。


マズイ……。


あの光景を思い出すと、また彼女を鳴かせたくなってしまう。



「んっ……」


「おはようございます」


「おはよう……」


目覚めた舞さんは自分の胸元をチラッと見て、恥ずかしそうに私の肩に顔を埋めた。


彼女のカラダには、あちらこちらに私のキスマークが残っている。


まるで、舞さんは自分のものだと示さんばかりに。


さすがにやり過ぎたかな。


「すみません、昨夜はあんなことを……」


「謝らないで。わたし、すごく嬉しかったの」


目を逸らして謝る私の頬を舞さんは笑いながら撫でた。



「だって薙がすごくいやらしい顔をしながら、あんなに優しく触れるから、その感触から愛情が伝わって来て……って、わたし何か自意識過剰なこと言ってるね」


「いえ、自意識過剰なんかじゃありません。私は舞さんが好きです。でも……あなたの家庭を壊したいとも思っていません」


自分の言葉と、昨夜の行動の矛盾に嫌気がさす。


それなら、どうして抱いたの? って聞かれても仕方ない。


「私の父親、浮気して母親と私を捨ててそのまま相手と再婚しちゃって……。既婚者との浮気なんて、自分が一番嫌悪してたはずなのに」


嘘偽りのない正直な言葉に、舞さんは軽くため息をついてがら口を開いた。



「……実はわたし、本当はレズビアンなの」


「はい?」


「昔から好きになるのは、いつも女の人」


「えっ、でも舞さん結婚して……」


「うん。どうしても子供が欲しかったし、うちの母にはわたしが同性愛者って知られたくなくて、今のヒトと結婚したの。母は同性愛には理解がないから……」


なるほど。


舞さんはいわゆる、既婚ビアンってことか。


「旦那も子供もいるわたしが、こんなこと言うのは間違ってるって、わかってるんだけど……。薙、わたしと……んっ!」


私はまた舞さんの唇を一方的に奪った。


それ以上は、彼女の口からは言わせたくなかった。


多分、この恋も長くは続かない。


普通の恋愛以上に難しいことが沢山あるから。


だけど、生まれて初めて私は人に恋をした。


だからせめて、この恋愛は自分からスタートさせたい。



「舞さん……私と付き合ってください」


「……もう。先に言っちゃダメだよ」


「あの、お返事は……?」


「こちらこそ宜しくお願いします」


そう言って私に抱きつく舞さんの髪を優しく撫でた。


知らなかった。


人を好きになるって、こんなに心が満たされて幸せな気持ちなんだな。



「舞さん、今日はこのあと予定ありますか?」


1つの枕に2人で頭を乗せて、キスできそうな距離でそう尋ねると舞さんは恥ずかしそうに視線を逸らした。


「ううん、夕方息子を迎えに行くまでは何も……」


「じゃあ、私とデートしましょう?」


「えっ?」


ビックリしている舞さんの手を掴んで、私は裸のままベッドから降りた。



----------


舞さんの蜜とお互いの汗にまみれていた私たちは一緒にシャワーを浴びてから軽く朝食を済ませ、スカイツリーのそばにある、すみだ水族館を訪れた。


入場チケットを買って中へ入ると日曜ということもあって、カップルや家族連れで館内はとても混雑している。


手、繋いでも良いかな?


はぐれないように、私はそっと舞さんの右手に自分の左手の指を絡ませた。


細くて柔らかい感触に、自然と顔がほころんでしまう。


「薙……」


「ん? 何です?」


「あまり、ドキドキさせないで」


いわゆる、恋人繋ぎの状態を見つめながら舞さんは顔を真っ赤にしていた。


「あはは……すみません」


まるで付き合いたての女子高校生みたいなリアクションに、なんだかこっちまで恥ずかしくなる。


すれ違う人から時々奇異な視線を向けられることはあったものの、私を男だと勘違いする人が大半だったのかもしれない。


まあ、胸もそんなにないし、普段からイケメン女子って呼ばれるだけあって、どうやら外見はそこら辺の男よりカッコイイらしい。


とは言え、どうしても世間一般では女性同士の恋愛って、そんな簡単には受け入れられないんだろうな……。


テレビの街頭調査とかでも、抵抗感があるとか、気持ち悪いって言ってる人も多かったし。


何より自分自身、同性との恋愛は考えたこともなかった。


恋に落ちた相手が偶然、舞さんだっただけだ。


男でも女でも、誰かを好きになってしまう気持ちは同じはずなのに。


本当に恋愛って、複雑だ……。



「舞さん、少し座りましょうか?」


「そうだね」


一通り回って出口が近付いて来たところで、私たちはベンチに腰掛けながらペンギンを眺めた。


もちろん手は繋いだまま。


「あの……舞さん。旦那さんとはデートとかしてないんですか?」


「うん、旦那とは子供を妊娠してからそういうことしてないなぁ。こうして手を繋ぐことも、昨日の夜……みたいなことも……」


舞さんはそれ以上は言えないと言葉を濁した。


彼女の息子は、確か小学1年生。


昨夜はかれこれ7~8年振りのSEXだったわけだ。


仕事であまり帰って来ないって言っていたし、やっぱり夫婦仲あまり良くないんだろうな……。


まあ、そもそも仲が良かったら、私の気持ちを受け入れたりしてないか。


時折、私たちのそばを子供連れの夫婦が通ると、胸が締め付けられるように痛んだ。


これは、罪悪感なんだろうか。


それとも、幸せな家庭に対する羨望?


いずれにしても、嫌な感覚だな……。


だけど、きっと舞さんとの恋には、この痛みが付いて回るんだろう。



「これから何度でも舞さんを抱いて、私が旦那さんの記憶を上書きしますね」


一抹の不安を拭おうと私が舞さんにそっと耳打ちすると、顔面から火が出るんじゃないかと思うくらいに赤面している。


自分がこんなSっ気のあるセリフを口にしたことにも驚きだけど、とにかく舞さんの反応がいちいち可愛い。


危ない。


ここが公衆の面前じゃなかったら、絶対キスしてた。


もう少し自制しないと……。


「わたしも何も考えず、ずっと薙のそばに居られたら良いのに……。ごめんなさい……」


ため息混じりに呟いた舞さんの言葉が、私の胸に突き刺さる。


そうだ。


どんなに今が幸せな時間でも、このデートが終わったら、舞さんは家庭に戻るんだ。


あまり帰って来ない旦那と、可愛い息子と暮らす家庭に……。


そして、家族のいない私はまたマンションに1人。


昨日から夢のような出来事の連続で、私は何となく現実逃避していた。




夕方には最寄り駅へ戻り舞さんと別れたあと、私は1人当てもなく駅前を歩いて時間を潰し、バーへ向かった。


きっとこのまま帰宅しても、舞さんのことを考えて悶々とするだけ。


何よりこんな精神状態で、家で1人で居るのは嫌だった。


そういえば、ここに来るのも久しぶりだな……。


所々塗装の剥がれている古びた階段を昇って2階に着くと、約2年ぶりに店のドアを開けた。


「いらっしゃいませ」


薄暗くて、穏やかなメロディが流れる空間。


ここのバーには、カウンター席が6つと、テーブル席が2つしかない。


今日は先客がいるらしい。


男女のカップルがカウンター席の奥に座っていたので、私は手前の席に腰掛けた。



「久しぶりね。薙ちゃん」


諒子りょうこさん……。ご無沙汰しちゃって、すみません」


シワひとつない白シャツに身を包み、黒髪を1つに結んだ諒子さんは、このお店のオーナーだ。


「何にする?」


私の前にコースターとおしぼりを置きながら、諒子さんが優しく微笑む。


そう、この笑顔に癒されたくて来たんだ。


「じゃあ、ギネスで……」


「わかったわ。ちょっと待っててね」


諒子さんがグラスに黒ビールを注いでいると、カウンターの奥から1人の若い女性が出て来た。


綺麗に染めた金色のロングヘアー。


あれ? 彼女とは、どこかで会ったような……。


鼻が高く色白で少し日本人離れした美しい顔立ちに、何となく見覚えがあった。


諒子さんとは対象的な黒いシャツを着た金髪女性は、お通しのナッツを手にこちらへ近づいて来る。


「あの、もしかして……浪川なみかわ なぎさんですか?」


「あっ、はい」


やっぱり、前に会ったことがあるんだ。


一体、どこで……?


「あら、薙ちゃんと知り合いなの?」


「ええ」


金髪の女性が頷くと諒子さんはコースターの上にグラスを置き、じゃあここは任せるわと一言残して、カウンターの奥に座るカップルの方へ向かった。



「覚えてますか? あたし、薙さんと同じ高校に通っていた1学年下の藤村ふじむら 胡桃くるみです」


藤村……!?


藤村 胡桃って、私が高校3年生の時バレンタインデーに告白してきた子か!?


「確かチョコケーキと御守り……くれたよね?」


「ええ。覚えて貰えていて、嬉しいです」


もちろん私はその時に彼女をフッたわけで、嬉しいと思ってもらえるような記憶は何もない。


むしろ、再会早々そんな過去話は気不味いだけだ。


「薙さん、高校の頃と全然変わってないですね」


「そうかな? 藤村さんは金髪になってたから、名前を聞くまでわからなかったよ」


私が言うのも何だけど、喜怒哀楽をあまり見せず、客に笑顔を振りまくこともしていない彼女は、正直接客業には向いて無いと思う。


なんでバーで働いてるんだろう?


って……別に私が考えることじゃないか。



「藤村さんは、いつからここで働いてるの?」


「1年くらい前に近所へ引っ越して来て、それからこのお店でお世話になっています」


「へぇ……」


私はビールで喉を潤しながら、相槌を打った。


「誰かの紹介とか?」


「いいえ。諒子さんは、あたしの叔母なんです」


「ああ、なるほどね」


彼女の淡々とした声に耳を傾けながら、ふと高校時代の記憶を辿る。


そういえば、彼女は弓道部に所属していて、細くて背の高い容姿に袴がよく似合ってたっけ。


あの頃は柔道部の男子が、弓道部にすごく綺麗な子がいるって騒いでいたから私も顔と名前は知っていたし、何度か挨拶をされたり言葉を交わすことはあった。


まあ、まさかそんな女の子から、告白されるなんて思ってもいなかったわけだけど……。


当時もあまり顔に出さないタイプだったけど、やっぱり大人になっても変わってないんだな。


ただ、カクテルを作る仕草や、丸氷を作っている彼女の手はなんとも言えないくらい美しい。


元柔道部の男連中が知ったら、この店に入り浸りそう。



「あのさ……ギネスおかわりしたいんだけど、藤村さんも何か飲む?」


「えっ?」


1杯目のギネスを飲み終えたところで発した私の言葉が予想外だったのか、藤村さんは目を丸くしている。


なんだ、そんな表情もするんだ。


単に、人見知りが激しいだけなのか……?


「折角、再会したから1杯ご馳走させてよ」


「ありがとうございます。では、薙さんと同じものを頂いても良いですか?」


「どうぞ……」


そう言って彼女もギネスをグラスに注ぐといただきますと言って、私と乾杯をした。


乾杯したものの、やっぱり藤村さんは一向に口を開く気配がない。


まあ、良いか。


とりあえず、一服しよう。


私はカバンからタバコを取り出して、お店のマッチで火を付けた。


やっぱり、このマッチ特有の香りは好きだな……。


マッチ棒を振って火を消し、灰皿へ放り込む。


深く吸い込んでゆっくり煙を吐き出すと、藤村さんと目が合った。


「薙さん、タバコ吸うんですね」


「あっ! ゴメン、煙かった?」


「いいえ……大丈夫です」


藤村さんはなぜか少し微笑むとまたビールを飲みながら、無表情に戻ってしまった。


接客する気、ゼロだな。


諒子さんもいくら姪っ子だからって、ここまで愛想のない子を店に出して、トラブルとか起きないのか心配になる。



ここは私の方から、何か話題を振るべきか?


ずっとこの沈黙が続くのは……さすがに気不味い。


「藤村さんは、一人暮らし?」


「いいえ。ここから歩いて10分くらいのマンションに、叔母と2人で住んでます」


そっか、割と私の住んでいるマンションと近所なのかもしれない。


「薙さんは……」


「ん?」


「薙さんは、もうご結婚されたんですか?」


「いや、見ての通り独身だよ」


私は何も装飾品を付けていない左手をヒラヒラ動かして、苦笑した。


そもそも結婚してたら、日曜のこんな時間に1人でバーに飲みになんか来ていない。


そう……結婚してたら。


ふと、舞さんの笑顔が頭に浮かぶ。


ああ……やっぱりあの可愛い笑顔が見たい。


舞さんに、会いたい……。



「何か悩み事でも?」


「えっ?」


「薙さん、高校生の頃イケメン女子って話題になっていて人気でしたけど、あたしには普通の女の人に見えるんですよね」


「あはは、誰がどう言おうと私は女だよ」


苦笑する私を藤村さんはじっと見つめている。


その眼差しが何を考えているのか、さっぱりわからない。


「もしかして……恋の悩みですか?」


「ん? まあ、そんなところかな」


この子、意外と鋭いな……。


「あたしで良ければ、相談に乗りますよ」


藤村さんはカウンターから身を乗り出して、顔を近付ける。



彼女に話して何になる?


折角楽しかったデートの後、こんなモヤモヤした気持ちを抱えているのも、舞さんに好意を伝えた自分の責任だっていうのに……。


「薙さん。悩みを溜め込むのは、体に良くないですよ」


心配するような言葉とは裏腹に、藤村さんの瞳は氷のように冷たい。


いいから話せ、ってか?


私はため息をつきながら、タバコを灰皿に押し付けた。


「あのさ、藤村さんは既婚者と付き合ったこと……ある?」


「不倫、ですか?」


ん?


舞さんと私は女同士だけど、この関係って、不倫っていうのか?


定義がよくわからないけど、禁じられた恋愛ってことには違いない。


「まあ、浮気でも良いや」


「あたしは男性に興味がないので、よくわかりません」


じゃあ、なんで相談に乗るとか言ったんだよ?


「相手、女の人……なんだけど」


思わずツッコミたくなる気持ちを堪えて、事実を告げると、藤村さんの目が一瞬驚いたように見開かれた。


「既婚女性との恋愛ですか?」


「うん……」


「それって、悩む必要あります?」


「えっ?」


「相手の方が独身ならともかく、旦那さんのいる人と付き合っても先は無いですし、悩む必要あるんですか?」


舞さんは家庭に入っているし、もちろん私から離婚して欲しいなんて言えるはずもない。


どう考えても、ずっと一緒にいることなんて不可能だ。


改めて突き付けられる、現実。


私は一気にビールを半分くらい流し込んで、席を立った。



「ゴメン、ちょっとお手洗い……」


昨夜、後先考えずに取った自分の浅はかな行動に、ため息が溢れる。


それでも、舞さんを好きだというこの気持ちは本物で。


今も会いたい衝動に駆られているのだから、どうすることもできない。


今更、無かったことになんて……。


はあ……。


この恋は、間違いと矛盾だらけだ。


トイレから出て手を洗うと、鏡に映った自分の姿に苦笑した。


店の奥からは、カップルたちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


良いな……普通の恋愛は。


「薙さんは、どうしてそんな苦しそうな顔をしてるんですか?」


「はっ?」


席へ戻ろうと振り返ると、そこにはなぜか藤村さんが立っていた。


不意に彼女の顔が近づいて、私の唇が奪われる。


まるで昨日の自分を見ているような錯覚。


藤村さんは更に舌をねじ込んで、私の口内を犯していく。



「ちょっと、何して……」


私は咄嗟に、彼女の体を押し返した。


「あたしなら薙さんにそんな顔、させません」


そう言って、もう一度キスしようとする彼女を力一杯押さえつける。


元弓道部の彼女と元柔道部の私では、圧倒的に私の方が力が強い。


「藤村さん、バカなことするなよ。からかうにも限度ってものが……」


「バカはあなたでしょう?」


嫌悪か侮蔑か。


どちらにせよ、藤村さんの瞳はさっきまでより更に冷ややかなものになっている。


「初めて……なんだ」


「えっ?」


「いろんな理屈抜きにして、私がこんなに誰かを好きになったのは初めてなんだよ」


過去に自分を好きだと言ってくれた彼女の前でこのセリフを吐くことが不誠実だってことは、わかってる。


それでも、たった1日で溜まってしまったこのドロドロした行き場のない気持ちは、もう吐き出すしかない。


「彼女のことが好きだから、間違ったこの関係が苦しいんだ。本当に好きじゃなかったら、悩む必要すらない……」


「相手の方にお子さんは?」


「1人、いる」


「それなら、薙さんもあたしと浮気しますか? そうすれば、あなたが悩むことも、罪悪感を抱く必要もない」


「さっきから行動も言動も、滅茶苦茶だな」


「滅茶苦茶なのは薙さんの方です。遊びとも割り切れない、そんな中途半端な恋愛に先はないですよ……。それとも、相手の方が旦那と別れて、薙さんを選んでくれるとでも?」


「…………」


「何かがきっかけで、2人の関係が世間にバレたら? きっと保身に走られて、あなたは捨てられる。浮気なんて、そんなものですよね?」


藤村さんの言葉は、正しい。


散々ワイドショーでも話題になった不倫問題を私も知らないわけじゃない。


彼女の声は怒るでも叫ぶでもなく、冷静にただ諭すように私の心を刺激する。


だからこそ、痛い……。


後輩に説教されるとは……。



「ゴメン、折角再会できたのに不快な思いをさせて……。余計な話をし過ぎたし、今日はもう帰るよ」


私は席に戻って会計を済ませると、逃げるように店を後にした。




----------


舞さんと付き合い始めてから約1ヶ月半。


彼女は必ず土曜の夜は、私の家に泊まるようになっていた。


「ねぇ、薙」


「ん?」


「もう1回、シテ……?」


ベッドの中で抱き合っていると、舞さんが物欲しそうな瞳で見つめてくる。


最近気付いたんだけど、舞さんは結構性欲が強い。


こんなに私を求めてくるのに、本当に旦那とはSEXしてないのか?


聞けるはずもない不安が、一瞬頭を過ぎった。


「好きだよ……」


私は優しく囁いて、ドロドロした自分の感情を洗い流すように、舞さんを抱く。


そして、舞さんの喘ぎ声は甘く艶やかで、それはまるで違法ドラッグみたいだった。


一度味わってしまったら、ダメだと思っても手を出してしまう。


理性が働かない。


味わえば味わった分だけ虜にされて、次が欲しくなるんだ……。



私はゆっくり舞さんの上に被さり、胸の周りにキスの雨を降らせる。


次いで先端には触れないように、焦らしながら舌を這わせると彼女のカラダが熱くなっていった。


「んっ……薙……」


私を呼ぶ声に応えるように舞さんのカラダをそっと抱きしめながら、次第に下腹部の方へ舌を滑らせて行く。


そのまま更に下へは行かずに、突然胸の先端に吸い付くと、彼女の悲鳴にも似た喘ぎ声が鼓膜を震わせた。


「あっ……んん……」


彼女の敏感な場所には手は触れず、唇と舌で快感を演出する。


「おかしくなっちゃう……」


「舞さん。いつもより、感じてるんでしょ?」


わざと彼女の耳元で、意地悪な声で囁く。


舞さんって、究極のMだ。


こんな姿、他の人には見せたくない。


恥ずかしそうに黙って頷く彼女にキスをしてから、私は下へ移動して最も充血している突起を舐めた。


少し舌先が当たっただけで、カラダが飛び跳ねる。



ヤバイ……止まらない。


舞さんの感じる仕草をもっと引き出したくて、私はわざと音が鳴るように蕾に口付けた。


「音……ヤッ……恥ずかしっ、んん!」


「舞さんの音、もっと聴かせて?」


私はわざと彼女に水音を聴かせるように、蜜をすする。


「……あぁ!」


とめどなく溢れてくる蜜を舌で拭った瞬間、舞さんは絶頂を迎えてナカを痙攣させた。


いつもはここで優しく抱きしめるんだけど、今回はまだ終わらせない。


「も……無理……」


「もう1回シテって言ったの、舞さんだよ?」


痙攣しているナカヘ私はそのまま、右手の中指と薬指を同時に挿入した。


すごい……。


濡れてるどころじゃない。


指を伝って手のひらまで、蜜が溢れてくる。


傷付けないように、そっと指を奥へ滑らせナカを擦り上げる。


「もう、ダメっ! 壊れちゃ……」


指が動く度に粘着質な水音が響いて、私の鼓膜を感じさせる。


「薙……ヤッ……!」


逃げようと枕の方へカラダをよじる舞さんを左腕で抱き寄せた。


「好きだよ」


耳元でそう囁くと舞さんは涙を流しながら私にしがみついて、カラダ全体を震わせた。



「わたしも……薙が……好き」


舞さんはかすれた声で呟くと、脱力したまま私の腕の中で寝息を立てた。


10個も歳が離れているはずなのに、そうは思えない。


警戒心のない解放的な寝顔。


舞さんを好きになればなるほど、胸の痛みが強くなる。


離れなきゃいけないのに、離れたくない。


はあ……。


もし、今まで付き合った人にこんな感情を抱くことができていたら、私は幸せな家庭を築いていたんだろうか。


わからない。


本当に、どうしたら良いんだろう……?


少しでも不安な気持ちを和らげたくて、私は眠っている舞さんのカラダを強く抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虹色の性春 海底遺跡 @kaiteiiseki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ