この世界の秘密
散らかった部屋に佇むその男は、黙々とパソコンと向き合っていた。
机の上にはいくつもの栄養ドリンクが並べられている。
その男の顔色は決して良いとはいえない。
その男は人通りの作業を終え、休憩入ろうとしていた所だった。
その時、部屋中にスマホの着信音が鳴り響いた。その男は、スマホに連絡先の相手を見て絶句する。そこには、『鬼畜編集者』と書かれていた。
「原稿は終わってないが、何か用か?」
「何が終わってないだドアホ!もう締め切り間近だ。分かってるんだよな。鉄棒先生の夢物語はアニメ化も控えている。そんな大事な時期に締め切り間に合いませんでしたじゃ顔が立たん。」
「わかってるわかってる。丁度アニメ化に合わせてドカーンと告白シーン作ってる所だから邪魔しないでくれ。」
「ならいいが。頼んだぞ。」
ペンネーム鉄棒先生と呼ばれたその男は、大きなあくびをしてそのまま力尽いたように倒れた。
「な、なに!?」
「しー、声控えて。」
「あ、悪い。でも、確かに言われてみれば記憶が……。」
衝撃を受けた。変な汗をかいて、周りから冷たい視線をおくられる神木。だが、そんなことはどうでもいい。最初はイズムのは話は、話半分に聞いていたが、妙に説得力があり現実的ではないが根拠は揃っていた。イズムが言うには、作者が描いた場面以外は神木ゆうたやイズムを含め記憶がないのだ。確かに変な話だ。イズムは特に神木ゆうたの事など知りもしなかった相手なのに、突然告白してくるのだ。そんなのご都合主義のラノベぐらいしかありえない話だろう。だとすると……。
「イズム!お前は俺に告白する動機に心当たりがないんだな?」
「えぇ、そうよ」
「つまり、まだこの物語は始まったばかりだ。俺達の過去の紹介などは現段階では済んでないことなる」
「待って。今こうして会話しているのも、もしかしたら。」
「シナリオ通りってわけか?そんなふざけた話があってたまるかよ!?」
「ちょ、シー。落ち着いてゆうた。」
周りの視線を気にするイズム。だが、そんなこと黙ってられるわけがない。この世界がただの物語ってか?周りの人間も物も関係も全て、全部?頭がパンクしそうだ。こうやって信じている神木も変人だと自覚していた。けど、それでも、これが。この世界が嘘だったなんて信じたくない。
「イズム。」
「何よ?」
「何でお前はその事に気づいたのんだ?」
「何でって。うーん。なんか突然頭にその事が浮かんできて。気づいたらゆうたに告白して、気づいたらその事を伝えてた。」
「てことは。この会話も今頃カタカタパソンコで打ち込まれた内容だって事か。」
「ゆうたのそのセリフもね。」
釈然としない。何故かイズムはこの状況を楽しんでいるようだった。神木からすれば全て自分の意思で動いてるつもりだ。しかし、そのやったこと全てがこの世で言う神に等しい人物が設定したものなのだ。今からなにをしようともそれは決まった事であって、神木の意思は関係ない。神木からしたら、己が生きている状況をその神が描き表現したのなら、まだ気は軽い。しかし、それは間違いである。神が描いたシナリオに後から神木達がその通り動いているだけの、まるで傀儡。いや、事実そうなのだろう。こんな馬鹿げている話を信じている自分も大概だが、今はその事は間違いないと確信している神木。コップを手に取り外の景色を眺める神木。こんな美しい世界かニセモノのはずがない。例え、これが小説の中の世界でも、確かに目の前に神木達の世界がある。これは、紛れもなく神木ゆうた達の本物の世界だ。何か吹っ切れた様子の神木。コップのコーヒーを飲み干し、不敵な笑みを浮かべる。やる事は決まった。
「よし、イズム作戦会議といこう!」
「どうしたのよ急に?」
「この世界の脱出口を探そう!きっとあるはずだ。イズムも神なんかの操り人形にはなりたくないだろう?」
「ええ、まぁ。脱出口って、ゲームじゃあるまいし。本当にあるのか分からないのよ?」
「ああ、分かっている。だけど、不可能を可能にしよう。俺達はただの人間じゃないんだ。……そうだ!!」
神木は何かを閃いき、席を立つ。神木は店の天井に顔を向けた。
「お~い!!!!俺達の会話見ている、いや書いているんだろー!」
「ちょ、ゆうた。頭大丈夫?遂に壊れたの?馬鹿なの?」
と馬鹿がなんかいってるが。
「お前に言われたくないっつの。てか、黙って聞けって。」
イズムは観念したかのように黙って神木に耳を貸した。続けて神木は独り言を話す。
「もし、面白い展開を望むのなら。俺達のこの世界の脱出口を設定してくれ!!かー、みー、さー、まーーーー!!!」
「!?」
イズムは神木が何を言おうとしているのか理解したようだった。だが、こうして神木が作者に交渉しているように見えても、実際のこの文を一字一句その神が書いている訳だから。神木も後からそのことに気づき苦笑いを隠せない。
「イズム。よく分からんが。お前と俺は絶対的な運命で繋がっている。ワガママかも知れないが、頼む!俺一人だと心もとないから一緒に付いてきてくれ!」
断られたらどうしよう。なんて思考は神木にはなかった。性格が悪いが。元々こんな美少女と俺をくっつけさせたのは、無論神がそう望んでかいたものだろう。よって、返ってくる返事も当然のように。
「ええ。いいわよ。なんか面白そうだし。クスクス。」
分かっていた神木はあたかも不安を醸し出していたように。
「よ。よかったー。これから宜しくなイズム。さて、神は多分だが、必ず脱出口を用意してくれたはずだ。」
「あんた、バレバレよ。私の曇り無き眼によると、私の返事が分かっていたような態度だったじゃない。棒読みだし。それじゃ、モテないわよ。」
「いいんだよ。実際今だって、お前と付き合ってるだろ。」
「はぁー。何でこんなのと付き合わなきゃならないのよ。」
「お前今こんなのとって言ったか?」
「言ってない。」
神木とイズムはこのやり取りから既にラノベの様になっているとは気づくこともなく。閉店の時間まで作戦会議とやらをした。
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