PS09 オジョウサマノオセワ

――PS09 キミのカクセイとカミガミ――


「ばっぶ。おきてください。レイぱーぱ」


 俺の頬を冷たい手がぺちぺちし続ける。

 頬はさぞもみじが赤々としているだろう。

 どんなに叩かれても、まぶたが重い。

 俺は、眠っているが、喧騒が聞こえて来る。

 そうだ、戦場なのだ。

 あの日見ていた数多の怪物と数多の神々の大きな戦なのだ。

 長い長い年月を怪物のはちきれんばかりの肉弾戦に神の自然を司る魔法戦をお互いに倒れても倒れても繰り返して行く。

 今まで、今現在、そしてこれから……。

 この戦は変わらないのだろうか?

 俺は、何か遠くに心を置いて感じ入っていた。


「レイぱーぱ。だいすきです。おきてください」


 ぺちぺちと可愛いむくちゃんのおててがあたり続けていたのにはっと気が付いた。


「ぱーぱ。ひとりにしないでください」


 起きなければ……。

 ぺちっ。

 ぺちぺちっ。

 ぺちぺち。


<オマカセクダサイ・オジョウサマ>


 ん?

 ビシッ!


「たーい! 痛い! 何するんだよ。誰?」

<ゴシュジンサマ・オメザメデスカ>

「おおおお! ハルミ=ピンク? お、俺は幽体なのか?」

「ぱーぱ! レイぱーぱ! しんぱいしました」

「お、俺が見えるのか? むくちゃん。それにハルミ=ピンクも」

「ぱーぱ!」

「むくちゃーん!」

「おおっと、じっと手を見つめると、俺って、俺なんだな」

「すてきなぱーぱです。どんなすがたでもすてきなぱーぱです」

「自分で自分の姿を見るよりも、むくちゃんの瞳にうつる姿が何より嬉しいよ」


 俺は俺に戻れた。

 だが、トラックに影を引いたミマイは、ここにはいない。

 後は、クロスのみ!

 右手の六芒星がぴりりとして、クロスを求めた。


  ***


「どうやらうまく転生したみたいだね……」

「おおおおおっと! クロス、その姿は?」


 むくちゃんとハルミ=ピンクばかり気にしていたが、傍らにクロスとおぼしき少年がいた。


「クロス、マントがぶかぶかだな。転生はしたが、今はいつだろか?」

「それは、おいおい分かるだろう。見ろ! 油断ならないぞ」


 怪物の軍勢が俺に焦点を当てた。

 肉弾戦だ!

 長い爪で頭から掛かって来た。

 右へよけ、むくちゃんとハルミ=ピンクを守ろうと突き飛ばした。

 後ろからは鋭い牙が俺の肩を狙う。

 下から顎へ拳を突き上げる。


「むくちゃん! 逃げろ!」


 同時に俺に強靭な尾を鞭にする怪物を手刀で受けた。


「何の何の。軽いな」


 むくちゃんは、一度天高く飛んだかと思うと、両手を交差させ、五芒星の光を放った。


 カッ。 

 ビュイー!


 神も怪物も区別なくばたりばたりと倒れた。


「ふおおおお! むくちゃん! 赤ちゃんは応戦しなくていいよ」

「がんばります」


 カッ。

 ビュイー!

 俺に向かって来るのを次々と天空から倒して行った。


「娘に頼ってどうする?」


  ***


 俺は……。

 むくちゃんに引き継がれたように俺の本当の力があるはずだ。


「ハルミ=ピンク、俺の果物包丁は持っているか?」

<ゴザイマス>

「やってみるしかないな。渡してくれ」


 このサバイバルに役に立った果物包丁か……。

 ミマイと旅した日々が懐かしいな。

 これは、鍛え抜かれたナイフだ。

 俺の全エナジーを与えるのだ。


「俺の右手の甲にある六芒星よ! 今、光輝け! ナイフに力を注げよ!」


 ナイフを輝ける六芒星の中に刺して行った。

 すうっと掌を抜けたかと思うと、虹色に包まれた。


「はああああ……!」


 グンッ。


 ナイフが一回りも二回りも大きくなり、大剣となった。


「六芒星よ! 大いなる剣に命を授けん」


 俺は、すっと右に一振りした。

 すると、大自然の力の全てを引き受けて、炎や水や雷の力を放った。

 どんな怪物であろうと吹き飛ばし、一面を野原にした。


 ドッ。

 ドドッ。

 ドドドッ。


「……これは、クロスのプラチナトルネードに近いな」

「予想以上だよ。レイ」

「クロス、君の力は?」

「この通り、ただの少年さ。しかも人間の」

「では、もう魔力はないのか?」

「そう……」


 天から応戦していたむくちゃんが降りて来る。


「レイぱーぱ。つよいです」


  ***


「うわっ」


 俺の目の前に、クロスにクロスにクロス?


「あれは、この世界のクロス達だ。レイ」


 クロスと同じ美しい顔、体躯、装備、巨大な所まで全てが同じなのか。

 無数のクロスに俺はゾクリとした。


「レイ。この世界の神は本当は一人だ。だが、その体はいくらでもあるのさ」

「成程ね。しかし、魔法の大剣でプラチナトルネード振りかざすのなら、俺にも考えがある」


 俺は、ふうっと呼吸を整えた。


「守る者があらば……! 六芒星よ!」


 クロスが方々からプラチナトルネードを浴びせて来る中、銀河のきざはしを渡る虹色の六芒星が俺からあふれた。

 魔法戦だ!

 クロスが有利に働いたのは、手にした盾と鎧とで、六芒星の魔法が吸収されていた。


「来た! むくちゃん、ハルミ=ピンクを抱えて飛べ!」

<オジョウサマヲ・ソラカラ・オマモリイタシマス>

「できるのか?」


 その時、ハルミ=ピンクが歌い出した。

 俺が連れて来た時の懐かしい歌だった。


<♪ ワタシハ・カラダガ・ジョウブデス>

「はは。頼もしいなあ」

<ゴシュジンサマノ・メイデ・ワタシハ・シゴトヲエマシタ>


 我が家は、可愛い女の子、むくが生まれたばかり。


「ばーぶっ」

<オジョウサマノ・オセワガ・ワタシノ・オヤクメデス>


 俺は、むくちゃんのガードはハルミ=ピンクに任せることにした。

 だが、一緒に転生した少年クロスがいる。

 庇いながらになるな。

 お互い、魔法剣の戦いだ。

 後は、数が圧倒的に多い。

 俺と少年クロスを大剣を持つクロスが、とうとう取り囲んだ。

 全方位からの一斉プラチナトルネード!


「俺の退路はどこだ!」

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