PS05 めおと新異世界紀行

――PS05 キミのイセカイとカイコウ――


「むくちゃんを探そう」


 俺とミマイは、つーんと草いきれの痛い漆黒の森を先ずは歩んだ。

 地を踏めば、ざわざわと夜露に濡れた。


 ホッホーッ。

 ホッホーッ。


「レイ、あれは、今は全滅したウオーターバードだ。どうして、こんな所に? まあ、少なくとも水辺は近い」

「鳴き声をたよりに川がないか探そう」


 二人は、耳を澄ましてウオーターバードの集う水辺に辿り着いた。

 その辺りは森の木立がはけて、月明かりもあり、気の弱い鳥たちは別の巣へか飛び立って行った。


「ミマイ、小さな洞もある。来てみてくれ」


  ***


「よし。レイ。今夜はここでキャンプにしよう」

「風をしのげて、水もあるのは好条件だな」


 ミマイは、俺に石を集めて欲しいと頼み、自分はよく燃えるんだとスギボッチや薪になる程度の折れた木をローブを使い上手く運んで来た。


「野営は慣れている」


 ミマイは言葉通りに、焚火をさっと作った。


「レイ。体をあたためて休んでいてくれ」

「ミマイ、俺も何かするよ」


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 ホッホーッ。


「餌場はあっちだな。待っていて、レイ」


 ざぶりざぶりと濡れるのも構わずに月明りの中にミマイはシルエットを浮かべた。


「この魚はミギュ。脊髄に毒があるが、取り除けば食べられる」

「よっしゃ、俺の出番だ。なんていったって、ハルミ=ピンクの力がある」


 その時、俺の意思とは構わずに歌い出してしまった。


<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>


 ポロロン……。


「おや? どうしたことだ。さくさくとミギュをさばいて行くよ」


 包丁の使い方が職人じゃないかと俺が思った。


「後は、この細い枝で串刺しだ」


 ミマイが火でよく焼いてくれた。

 ふふっと二人は見つめ合った。


「焼けた、焼けたー! 腹が空いていたら戦もできぬのじゃー」


「……」

「……」


「ん……。無言で食べてしまったな。俺、これって宮廷料理かと思ったよ」


 ふと、レイもミマイもつーんとする空気の中、月を見上げた。


「あ、今度は俺が火守りするよ」


 二人とも疲れた心の中にすうーっとした風が吹いた。


「迷惑だったろう? いきなりこんな世界に呼び出されてさ」


 赤い炎に揺らめくミマイの横顔を見つめた。

 ミマイ、俺には見える。

 炎は風をはらみ、ぐらんと揺れた。

 可愛らしく微笑む妻、ミマイの面差しが炎の中に浮かんだ。


「……それでも。私は嬉しかったんだ。こうしてレイに再会できて」


 瞳と瞳が合った。

 やわらかに微笑まれると、照れ臭くて仕方がない。

 俺とミマイは、焚火を前に、昔あったあれやこれを語り合った……。


  ***


 洞で寝ていた俺は、差し込む日の光で爽やかに目覚めた。

 ミマイまでいない!

 がばっと外へ出ると、ミマイがまだ火守りをしていた。


「おはよう、レイ。少しは眠れたかい?」


 ミマイに感謝し、後ろから抱き締めた。


「無理、無理はするなよな……」


 ローブの上からだが、愛するミマイだとはっきりと分かった。


「それで、夢にまでむくちゃんが出て、泣いていたんだ。どこに行ったのだろうな」

「……実は。ここがどこなのか分からない。ただ、この空気も森もレイが語っていた『異世界』だと思う」


 俺はミマイに現状を受け入れようと行動を決めた。


「先ずは、この川を下って、誰かいる場所を探そう。森は危険もはらんでいる」


  ***


 俺とミマイは、丸一日をかけて川を下る。

 川にしても森にしても、俺がハルミ=ピンクになる前の世界とさほど変わりはない。

 変わった魚、奇妙な虫、特殊な鳥、それに、森の木がやたらと大きい上、俺の胴位はある蔦が絡まり、足元は美しすぎる花々が賑やかにあった。

 夕なずむ頃、川べりに巨木と大きな葉で作られた質素な家々を見つけた。


「集落か……?」

「ちょっと、静かに。……人気がないよ、ミマイ」


 集落の真ん中に来て、分かった。

 地面は血のべっとりとしたシミがあり、家は、炎や氷柱での破壊が見られた。

 ただ、そこには死体だけがなかった。


「どうやら、この村は襲われたみたいだな」


 俺は、何か悔しくなった。

 破壊ってなんなんだ!


  ***


「この世界では、もう四百年以上もこんな破壊が繰り返されているんだ」


 ミマイが村の中を調べるように歩む。


「怪物と神々、どちらかが壊滅するまでこの戦いは終わらない」


 俺は、惨状を思い出した。

 怪物も神々も滅びない。

 救世主が何かをしなければ、戦いは未来永劫続いて行く。

 何て世界だ。


 ガサッ……。


「ミマイ、左だ!」


 俺とミマイが振り向くと、焼けた家の前に不思議と小さな子がいた。

 十歳程、金色の髪、青い瞳、真っ白な肌の天使のような美しさだ。

 身にまとっているものは粗末で、血錆のついた剣にもたれかかっている。


「生き残りがいたのか……」


 ミマイが敵意のなさを示すのに両手を広げ、天使に歩み寄った。


「大丈夫かい? 言葉は分かる? 何があったのだい?」


 矢継ぎ早に質問してから、ミマイは急ぎ過ぎたと頭を搔いた。

 小さな子は、じっとミマイを見るだけだ。


「ごめん、ごめん。言葉は分かるかな? お名前は?」

「……クロス」


 少年は小さく聞いた名を言った。


 クロスと……。

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