PS03 救世主なれど妻ミマイよ

――PS03 キミのイクサバとサイカイ――


 俺は思わず、抱えていたむくちゃんの目を左手で覆った。

 今、目の前は、いけどもいけども戦と屍達だ。

 よく見ると、地獄の怪物と天国の神が拮抗しているようだ。


 キーン!

 カシーン!


「うおお……」

「くはああ……」


 グバーン……!


「雷よ、炎よ、我に従え……! バースト!」


 ジュバッハーン……!


 俺は、戦いのさまを目を皿のようにして見てしまった。


『レイぱーぱ。何も見えませんよ』


 はっとした。

 そういえば、こんなにきつく俺の大きな手で覆っては、むくちゃんが窒息しかねない。


「見るな……! いや、見ないでくれ……。かわいいむくちゃんが見ていいものではない」


 ごうごうごうごう。

 どどうどう。


「もう、地の草も焼け掛かっている。酷いありさまだ。炎と青い血が入り交ざっている。敵も味方も分からない上、未曾有の総力戦に違いない」


 なんなんだ、これは……?

 ごくりと生唾を飲む。


「ふっ」

『レイぱーぱ。鼻で笑うと叱られるですよ』


「見るなよ、むくちゃん。おめめぎゅっとしてろな。俺はな、ちょっと血が躍ってしまったのさ」


  ***


「……やっと来たんだね。待ちくたびれたよ」


 何?

 日本語で、それにこの声は?


「あなたは……。ミマイ殿?」


 俺には、一目見で分かったよ。

 そりゃあ、離れ離れになる前から妻だものな。

 ああ、しまった!

 今は、ハルミ=ピンクの格好じゃないか。


「ああ、ミマイだよ。久しぶりだね。覚えていてくれてうれしいよ」


 ミマイは、目深にかぶったローブの奥から微笑んだ。


「他人行儀だな。それに、一体どうして……」

「質問は後だ。今は、この戦場を切り抜けないと」


「俺、果物包丁しか持ってないぞ」


 美舞と背を合わせて、戦のただ中をぐるりと見る。

 戦場は相変わらずだ。

 激しい混沌に襲われている。


「レイ。……大丈夫さ。レイなら可能だ。レイの想いは『具現化』する力を持っている」


 流石、妻よ!

 この格好でも俺って分かった?


「レイ……。私のレイ……」


 その時、ミマイがローブを少しずらし、振り向きながら俺はキスをされた。


「レイだけがこの戦いを終わらせることができるんだよ」


  ***


「なんなの? ちんぷんかんぷん!」


『レイぱーぱ。どうしましたか?』


「だから、レイ。この戦いを終わらせて欲しい」


「そんなことを言われましてもですねー。できればやってます」


 俺の想いって何だよ。

 この異国で、この戦場で何を具現化したいの?

 俺が、手に入れたい力って……?

 ふと、大司教のことが頭をよぎったが、今は何を意味するか分からない。


「……すまない。まだ、何も分からないんだ……」


 ミマイなる者がゆっくりとフードをめくりあげ、くいっと見上げるように上背のある俺を見つめた。

 火傷が酷かったのか、顔がべとべととし、目も落ちくぼんでいた。

 美しい面差しが全く残っていない。


「はは、これでは、『人』よりも『怪物』だろう。……突然すぎて驚かせたかな? でもね、私は確信している。レイが救世主だと……」


 俺は首を横に振った。


「だって、レイを呼んだのは私なんだ。レイはいつだって、私の救世主だったんだ」


 ビッ。


「あいつ……」


 ミマイは『神』のような敵を指で示した。

 プラチナの鎧に身を包み、ストレートの銀髪をひるがえしているきらきらした戦士だ。


「……だから、あの『クロス』を倒してくれ!」


 あの俺よりでっかいヤツか?


『ばっぶ』

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