PS02 ビキニはいかん

――PS02 キミのテンセイとニクタイ――


「ここって、どこだろうな? むくちゃん」


 俺は、むくちゃんを抱っこしてベッドから降り、窓辺のカーテンを開け、外の森林を眺めた。

 いつの間にか、真っ白な服装をした大司教だと名乗る髭のたくましい老人が後ろから入って来た。


「おお、勇者よ目覚めたか!」

「勇者だって?」


「ここは『キルト大聖堂』じゃ、そなたは戦いに負け、ここで復活を果たしたのじゃ」

「俺が戦にでも行っていましたか? 育児とは妻と闘っていましたが……。まず、ちんぷんかんぷんです」


「まあ、戸惑うのも無理はなかろう。ちょいとここで呪文を一つ」


【かくよ むうん えいさん】

【ここは みなか たことに】


 プバーッアー!


 俺は、一瞬にして呼吸困難になった。


「う、うぐああ……! お、俺を……呪い、殺……すつもりか」

『レイぱーぱがきらきらです』


 今までの苦しみは全くなく、体から金粉が強くまっていた。


「あれ? 俺は、生きているではないか。……それに、何か力もムキムキ? 月面着陸したかのように、軽い軽い。気分は無重力だよ」


 力こぶを作ってみる。


「むくちゃんをポンポン投げられるよ! よかったな、むくちゃん」


「神様のご加護です」


 大司教が胸の前で星型を描いた。


「これ……。星型か。ちょっとデジャヴを感じるのだがな……」


 そうこうしている内に、まばゆかった俺を包む光が井戸端の蛍のように、消えた。


「? ふが?」

「俺おかしいよな? 白ビキニブラ。それに果物包丁?」


「新しいお衣装と装備でございます」

「大司教、OK、OK。分からいでかー!」


「勇者殿、所持金の半分は寄付金としていただきますぞ、悪く思わんでくだされ」

「元々、二千円しかなかったよ。分けやすくてよかったよな。まあ、それはもういいんだ」


「この顔にピンと来たら、鏡貸してください」


 ビキニブラの下は、ピンクのメイド服だ。

 薄ピンクの瓶底メガネが目立ち、赤い目に赤毛もさらさらとしている。


「ハルミ=ピンク……! ハルミピンクになっている? 俺がか!」


 白いビキニのまわりにぱたぱたと触れてみる。

 これは、初めて触れた妻の二つあるそれと同じである。

 ああ、メイド服にビキニのブラだ。

 王道の白。

 あああ、こうして、娘が嫁ぐ日には、「ビキニはいかんよ。ビキニは」などと言うのだろうか。

 そういう意味での不安はあった。

 これから、父一人、ばぶー娘一人なのだからな。


『レイぱーぱ、ぐあいがわるいのですか?』


「勇者レイ、心配はござらん」

「心配でたまらないよ! ムキムキに強くなって、むくちゃんの兄弟を増やす計画が丸つぶれだよ」


「あ、そっち?」

「大司教なのに、はっちゃけてますね」


「まあまあ、落ち着いて。さて、じきにお主は仲間によって召喚される。またすぐに戦場へ戻らねばならん」


 髭の老人は問答無用に言い放つと、勇者レイに対して何かのサインを切った。

 どうやら先程の星型に似ていた。


「……勇者殿、次こそは、あの魔物を倒してくだされ……」

「あ、大司教様……! どちらへ?」


 長い髭の持ち主は、歪んだ空間の中を消えて行った。


「もしかして……。俺のこの手……」

『ハルミ=ピンクとおなじでかわいいでです』


「そうなのだよ。俺の体は、あの時どうにかなってしまったのではないか? とっさのことで、俺とむくちゃんだけがここへ生き残った」


 じいーっと手を見る。


「俺のが、お化けかよ」


  ***


 ビューゴーゴー!

 ヒューコー!


「何だ、ここは。荒野か? いや、あちらから声が聞こえる。近付いてみよう」


 むくちゃんを抱いて、風上の方へ行った。

 そこは、戦場だった。

 血の匂いがただよっていた。

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