ぱーぱは、育児アンドロイド

いすみ 静江

PS01 ぱーぱとベイビー異世界転生

――PS01 プロローグ・キミがココニクルマデ――


 俺は……。

 ……俺は?

 土方玲(ひじかた れい)……。

 暗闇の中で一条の光を手繰り寄せて、絞り出す声が痛々しかった。


『ぱーぱ! レイぱーぱ、みつけました!』


 キルト大聖堂と絵画が掛けられていた。

 ここは、多分そうだ。

 医療塔の一室をくるりと見回した。

 この真っ白な環境に似合う俺の無垢な赤ちゃん、むくちゃんが傍らにいた。

 いや、正確には娘は俺の上にいる。

 ベッドで漬物石のごとく動かない。

 どうもこの光景がデジャヴではないということに違和感を覚えた。

 いつこの病室へ来たかって?

 いくら可愛いむくちゃんにでもそうそう教えられないな。

 何故かって、今は欠片ばかりの想い出しかないからだ。

 想い出か、そうだな……。


  ***


 きらきらと晴れ渡っていた五月のあの時――

 ――ハルミ=ピンクはプラチナ通りのウインドウで、夢みるように歌っていた。


<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>


 ポロロン……。

 俺は、目を奪われ、思わず足を止めた。


<♪ ワタシヲ・ツレテイッテクダサイ>

<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>


 ポロロ……。


「ピンクのメイド服に薄ピンクの瓶底メガネが目立つな……。くりっとした赤い目に赤毛もさらさらとしていい」


 俺は、少し伸びたアゴヒゲに手をやり、にやにやが止まらない。


「どことなく、うちの妻? 美舞(みまい)殿、そして、娘のむくちゃんに似ている……。彼女はいいなあ」


<♪ ワタシハ・カラダガ・ジョウブデス>


「はは。頼もしいなあ」


<ゴシュジンサマノ・メイデ・ワタシハ・シゴトヲモラエマシタ>


 我が家は、可愛い女の子、むくが生まれたばかり。


「ばーぶっ」


<オジョウサマノ・オセワガ・ワタシノ・オヤクメデス>


 ――六月の午後。

 妻とハルミ=ピンクとベビーカーを押しながらむくちゃんの日光浴にと公園まで散歩をしていた。

 ところが、ゲリラ豪雨で、ミキモトせんべいの軒下を借りた。

 バシャーッ。

 遠慮ない泥はねに、玲も笑って過ごそうとした。


「ばーっぶ。っぶ」


<オジョウサマ・オメシモノヲ・オトリカエイタシマス>


 すかさず美舞がタオルを探す。


「ハルミ=ピンク、それよりむくちゃんの顔を拭かないと」


<オクサマ・リョカイイタシ――>


 バーバー!

 バー!


 けたたましいクラクションだった。


  ***


「ん……? なんだ? 俺の目からしずくが……」


『こしゅこしゅですよ。めめ、いたいですよ』


「あー、むくちゃん。君は無事だったのだね……。てか、赤ちゃんなのにしゃべっているし!」

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