HARTSアーカイブス

HARTS-001 『サラ』

UVL:10

SL:5

ML:7

AL:3


《管理方法》

 HARTS -001は、特殊な3.5次元的位相隔壁を生じさせるオブジェクトHARTS -002の内部にて保管する必要がある。HARTS -001、002両者におけるUVLの都合上、財団が保有するHARTS保管施設の中でも最もアクセス困難で安全である最下層部(地下1000m以下)で、尚且つ他のHARTSオブジェクトと完全に隔離された場所に保管する必要がある。

 HARTS -001の保管状態を維持するにはHARTS -002の正常な状態を維持すれば足り、HARTS -002の管理法についてはHARTS -002の頁にて詳細を記載してある。  HARTS -001保管区への立ち入りは制限されており、レベル4以上の職員か彼等の立ち合いがある時のみ立ち入りを許可される。HARTS -001に推定される特異な体質(参考:考察2)によるテレクステロンインパルス共鳴現象の危険防止の観点から、SPG適応値の高い職員・生命体の半径100m以内への接近は極力避ける事が求められる。



《説明》

 HARTS -001は十代半ばの少女のような形態を有する人型遺物であり、身長は凡そ150㎝前後、頭髪は栗色で西洋風な面立ちをしている。

 HARTS -001は財団設立以前の15[??]年に、財団設立者である[検閲済み]によって、[検閲済み]地域に位置する聖[削除済み]教会の地下墳墓にてHARTS -002に収容された状態で発見され、その後回収・保管されている。

 HARTS -001は、発見時から現在に至るまでその身に腐敗等の生分解作用の兆候が見られないうえ、近年の科学的調査の結果、その身体に生命活動の証拠が散見出来る事から、少なくとも地下墳墓に保管されるようになった当初から仮死あるいは冬眠に近いような状態を維持していると推察される。

 HARTS -001に該当する人物について記された文書や戸籍等は現存しておらず、確認できるHARTS -001の最も古い保管者であった聖[削除済み]教会の司祭による情報では、HARTS -001は15[??]年頃の[??]地域周辺に生まれた人間であると目されている。

 当HARTSの類似物として、当財団の保管するHARTS -144,256,258があり、これら遺物の容器部分と内容物(人型遺物)の科学的調査と[検閲済み]調査の結果、HARTS -144,256,258はいずれも14[??]年から15[??]年にかけて冬眠状態にいたった遺物であることが確認され、さらに内容物である人型遺物の体内から採取されたミトコンドリアDNA分析の結果、検体全てに共通してY染色体ハプログループに一部一致が見られることが確認されている。これについては考察2を参照されたし。

 上記類似遺物の調査結果に加え、各種文献、過去保管者の伝える情報、HARTS -002の形質的特徴等を渉猟し総合的に考察した結果、HARTS -001は[アクセス権を取得して下さい]であるという可能性が考慮される。

 HARTS -001に関する十分な科学的分析が果たされておらず、未だ推論の域をでないものの、HARTS -001が世界に齎し得る影響の過大さを考慮した結果、HARTS -001のUVLを最大の10と定め、CRC財団の保有する保管施設の最も厳重な区画にて恒久的に保管する事が承認された。








◦『J.D博士による [削除済み] 氏への書簡』

 私がかくも研究意欲をそそられた対象は無い。

 一介の学者の心情としては、できることならばHARTS -144,256,258同様、徹底的に科学調査をして、真相をあきらかにしたいところ。これはまさに蓋を開けてみるまでわからないというやつだな。


 私はあなたが提唱する説に対し、科学的な調査が為されてないために確信とまでは至らぬが、一応の賛同を示すものである。それにHARTS -144,256,258が傍証するところをみれば、もはや偶然や妄想では片づけられまい。


 私は人文学や考古学に関しての博学はないが、あなたの示した文献や伝承を渉猟すれば、なるほどHARTS -001とそれをとりまく状況との一致がまったく偶然だとは思えなくなってくる。

 私は若かりし頃、科学の徒となるにあたり、まったくの無神論者たろうと心に決めたものであるが、殊こうなってしまうと、もはや絡繰りの神の御業がそう成さしめたとしか思えないのであって、まったく悔しいものと同時に、神の手の上で踊らされたかのような心地よい疲労感を胸に覚えるのである。


 さて、あなたの要望通り、私は数少ないかつての学友を伝手に[検閲済み]における[??]世紀ごろの墳墓の発掘調査資料を得た。どうか添付してあるものを見てくれたまえ。

 それには中世の[検閲済み]地域における[??]狩りの歴史を傍証する埋葬物等の出土状況と考察が掲載されている。まったく、目を通すだけでもやるせなくなる内容であるが、やはりそこにはあなたの予想通り吸血鬼伝説に代表される『起き上がり』伝承に関連した埋葬法や習俗の記載もある。全てあなたの言ったとおりの事が書いてあるばかりで、もはや恐ろしいものを感じたよ私は。

 また、まるで冗談めいてはいたものの、私の頼った学友は例の特殊監視対象団体-206の存在も匂わせていたよ。どこまで信憑性があるかはわからないけどね。


 さてまあ、あなたが示したあの胡乱な絵画に書き込まれたものに本当に信憑性があったのならば、つまりHARTS -001は「そういうもの」であるという認識でいいのかな?

 それが真実だとすれば、流石の私にしてみても、その手の連中に対しこれ以上に『冒涜的』であるものはないとさえ思われるし、そのためにHARTS -001が世界に与える影響力は、ともすれば我々の手に負えるものではなくなるかもしれないとも感じるところだ。

 ……正直なところ、私に逡巡がないといえば嘘になるね。

 あれは棺としておくべきか揺り篭としておくべきか、そして我々は牧人たるべきか立ち去るべきかの帰路に立っているわけだね。


 まあ、またあなたの意見も聞かせてくれたまえ。

                                 J.D

 

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