第33話 遊園地-ジェットコースター-
ミラが興味を示していた火山は、ジェットコースターの一部分らしい。
山の中腹に大きな穴が空いていて、そこから轟音と共にジェットコースターが飛び出してくる様子を間近で見ることができた。
悲鳴が頭上を飛んでいく様は圧巻だ。声がすぐに聞こえなくなる様子からして、結構な勾配の坂を一気に下っていることが分かる。
かなりのスピードが楽しめそうなアトラクションだな。
ミラはジェットコースターをかなり興味を示した様子で見ていた。怖そう、とは思っていない様子だ。
ネネの方は……相変わらずの無表情。何を考えているのかは傍目からでは分からない。
とりあえず山の中にあるアトラクションの入口に行くと、待機時間を示す時計が八十分を指し示しているのを見ることができた。
一時間以上並ぶのかよ。結構人気なんだな、このアトラクション。
「……八十分待ちらしいけど……乗るか?」
時計を指差しながら二人に尋ねると、彼女たちは迷うことなく首を縦に振った。
待つことを苦と思っていないのなら、いいか。せっかく来たんだし、何かひとつくらいはアトラクションを楽しまないと損だからな。
僕は二人を連れて、列の最後尾に並んだ。
待機時間中に重宝するのはスマホだ。
僕は時々周囲の様子に目を向けながら、インターネットのニュースを見ていた。
何々……警官が女子高生を自宅に連れ込んで猥褻な行為をした疑いで逮捕……ねぇ。
世の男にとって女子高生が魅力的に見えるのはまぁ分からないでもないけど、警官がそれをするのは正直言ってどうかと思う。
リアルに手を出して逮捕されるなんて、馬鹿じゃないか。
やっぱり女は二次元に限る。妄想の世界なら何をしても許されるし、捕まることもないからな。
欲望を形にしようとするから駄目なんだよ。それが分からないようじゃ駄目だ。
「見て下さい、櫂斗さん!」
むぎゅっ。
僕の腕に抱き付いたミラが、通路の横にある小部屋を指差して声を上げた。
「お部屋があります! 有名な冒険者のお家でしょうか!」
「……ネロ船長の部屋だろ」
部屋をちらりと見て言葉を返す僕。
はしゃぐのは別にいいのだが、もう少し控え目にはしゃげないのだろうか、彼女は。
こんな時でも大人しく周囲を見物しているネネを少しは見習ってほしいと思う。
腕におっぱいが当たってるし……こっちは色々と落ち着かない。
ちらちらとこちらを見ている前方の高校生っぽい集団が、見ろよ羨ましいなおいなどと言っているのが聞こえてくる。
興味など微塵もないおっぱいを押し付けられるこっちの身にもなってくれ。
順番は……いつになったら来るのだろう。
僕の腕をぐいぐい引っ張ってくるミラをスルーして、僕はインターネットを見ながら列が前に進むのをのんびりと待ち続けた。
待機時間は八十分と言っていたが、それよりも待たされていたような気がする。
それくらいの時間を経て、ようやく僕たちの順番が回ってきた。
荷物や帽子は前の網に入れるようにとのアナウンスを聞きながら、僕たちは座席に深く腰掛けた。
僕たちの席は、先頭だった。見晴らしが良い場所に席を取れたのはラッキーかもしれない。
さて、どれくらいのスリルを味わわせてくれることやら。
がたん、と大きな音を立ててコースターが動き始めた。
笑顔で手を振っている係員のお姉さんの姿が後ろに流れて、見えなくなる。
動き始めてすぐは、綺麗な景色が続いた。
七色に光る煌びやかな物体は、鉱石か。
緩やかに進んでいく様は、登山道にある遊覧車を彷彿とさせた。
ジェットコースターの割には、スピードが遅い。
こりゃ、思ってたよりも平穏に終わりそうだな。
僕がそう思った、その時。
派手な爆音が鳴り響き、コースターが急に速度を上げた。
「うおぉ!?」
体がぐんっと引っ張られる。思わず舌を噛みそうになり、僕は慌てて奥歯を食いしばった。
ちらりと横目で隣を見ると……笑顔できゃーと悲鳴を上げているミラの横顔が視界に入った。
余裕のある怖がり方だな。目もしっかり開いてるし。
女って、もっとこう、必死に怖がるものなんじゃないのか。こういうのは。
コースターは狭い通路を縦横無尽に駆け回る。上下左右に体が揺さぶられ、胃が悲鳴を上げたのを僕は感じ取っていた。
しまった。暇だからって持ってきたペットボトルのミルクティーを空にする勢いで飲んでたけど、飲むんじゃなかった! 中身が出る!
これは腹一杯に食った後で乗るもんじゃないな!
今が昼前で良かった。食事の後だったらどうなってたか……想像しただけで胃がきゅっとなる。
前方が明るくなっていく。高みを目指して登っていくコースターは、最後の爆走を始めるべくがたがたと揺れながら力を溜めている。
ああ……成程。この先が、外で見ていたあれに繋がるのか。
納得した僕の体を包み込む、ふわりとした浮遊感。
僕たちを乗せたコースターは、外の世界へと勢い良くダイブした。
「うー……」
コースターを降りた僕は、胃の辺りを掌で押さえた。
何とか吐くのは堪えたが、胃の中をぐるぐると何とも言い難い感覚が渦巻いている。
足の裏も何かふわふわしていて地に着いている感覚がないし……
しばらく乗っていない間に随分と弱くなってたんだな、絶叫系に。
「楽しかったですね! 櫂斗さん!」
一方ミラは随分と元気な様子で、僕の腕に抱き付いている。
「……面白かった」
ネネもけろりとしている。
何だよ、ダメージを受けたのは僕だけかよ。
「もう一回乗りたいです! 乗りましょう!」
どうやらミラは今のアトラクションが気に入ったらしい。
ぐいぐいと腕を引っ張ってくるので、僕はかぶりを振ってそれを止めた。
「……勘弁してくれ」
また八十分並んで同じアトラクションに乗るのは御免蒙る。
乗りたいと連呼するミラを宥めながら出口まで来た僕は、鞄からマップを取り出した。
「他にも色々アトラクションはあるぞ。せっかく来たんだから、色々な経験したいだろ?」
次はもっと平和なアトラクションにしよう。
僕はマップを広げて、二人と一緒に次に向かう先を吟味し始めた。
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