第27話 夢現
太腿の上に重みを感じる。
僕がぼんやりと目を開けると、一人の少女の姿が目に入った。
成熟の兆しを宿したしみひとつない裸体は、窓からの光を浴びて白く輝いていた。
胸に付いたふたつの木の実は淡く色付いてつんと尖り、小さいながらも存在を誇張している。
ああ、これは夢かと僕は思った。
夢なら、少女に目を向けていても咎められはしないだろう。
僕が見ている中で、少女は僕の太腿の上に跨りごそごそと何かをしていた。
僕の寝間着のズボンをずらして、暴いた下着の中からすっかり力の抜けている熱を取り出している。
それを愛おしそうに両手で抱えて、少女はそれに顔を近付けた。
先端に感じる、少女の吐息。ほんのりと温かい。
桜色に色付いた唇を開いて、少女はそれを口に含んだ。
鈍い痺れのような感覚が、下半身を包み込んでいく。
……夢なのに、気持ちいい。
うつらうつらとしながら、僕はふうっと息を吐いた。
それに反応した少女が、口に熱を含んだままぴくりと視線を持ち上げて僕の目を見た。
その表情は相変わらずの無表情で、何を考えているかは分からない。
僕の熱から口を離し、彼女は小さな声で言った。
「起きてたのなら反応くらいして。全然反応しないから寝てるのかと思った」
その言葉に。
僕の意識を包み込んでいたふわふわとした感覚は波が引くように薄れていった。
意識が覚醒して──今起きている出来事が現実であることを悟る。
その瞬間。
僕は悲鳴を上げて、熱を掴んでいるネネの手を思い切り振り払ったのだった。
「な……何してるんだ、あんたは! そんな格好で!」
「何って、確認」
特に悪びれた様子も恥らう様子もなく、ネネは僕に跨ったまま答えた。
「姉様と全然子作りする気配がないから、ひょっとしてインポなのかと思って試してたところ」
「試してたところ、って、まるで服の試着をするような感覚で言うことじゃないだろ!」
慌てて剥き出しにされた自身を下着の中にしまって、ズボンを上げる。
まだ先端に口に含まれていた時の感覚の残滓が残っている。
畜生、こんな子供に口でされて気持ちいいとちょっとでも思った僕が愚かだった。
「あんたは姉の相手を襲ったんだぞ! 僕に謝るのもそうだけど、まずは姉に謝るべきなんじゃないのか!」
「言ったでしょ。子供ができるのは姉様でなくても構わないって。貴方に姉様と子作りする気がないのなら、代わりに私が相手になる、ただそれだけの話」
何なんだ、この娘は! 姉以上に僕と子供を作ることしか頭にない!
朝っぱらからこんな気分にさせられるなんて……最悪だ。
僕は脱力して溜め息をつき、投げやりに手を振ってネネを僕の上から下ろさせた。
「……もう、いい。さっさと服を着ろ。目の毒だ」
「まだ終わってない。貴方をその気にさせないと子供が作れない」
「僕は誰ともやる気はないからな」
のろのろとベッドから下りて、壁に吊るしてあるスーツを手に取った。
そこで、ミラがようやく目を覚ました。
彼女は上体を起こして、目を手の甲で擦りながら僕のベッドの上にいるネネを見た。
彼女が裸でいることを、すぐに理解できないのだろう。瞬きをしきりに繰り返して──十分な間を置いて、ああっと素っ頓狂な声を上げた。
「ネネ! 貴女、ひょっとして櫂斗さんと──」
「さっさと子作りしない姉様が悪いの。ぼやっとしてると私が代わりに櫂斗さんと子作りするよ」
しれっと言うネネに、ミラは髪を振り乱して詰め寄った。
「そんな、酷いです! 櫂斗さんは私のものなのに、それを横取りするなんて──」
「今回は途中で終わっちゃったけど、次はそうはいかないから。彼の子供は私が作ってみせる。姉様は傍で見てればいい」
「ネネ!」
「……あんたたち、いい加減にしろ!」
僕の絶叫が部屋全体に響き渡った。
僕は自分で作った朝飯を掻き込むように食べて、家を飛び出した。
まだ出勤の時間ではなかったが──早く日常に戻りたいという気持ちがそうさせたのだ。
早く会社に行って、仕事をして、朝のことを忘れたい。
そう思わずにはいられなかった。
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