第21話 飲み会-爆弾発言-
「ねぇ、ミラちゃんってさ」
追加で注文された唐揚げやつまみの皿がテーブルの上を占拠する中、ジョッキが半分ほど空いたところで、小林がミラに質問を投げかけた。
「三好と何処で知り合ったの? 三好ってあまり出かけないくちだから、それが不思議でさー」
「……僕だって外出くらいしてるよ。あんたの中の勝手な想像を僕に押し付けるな」
フライドポテトを口に放り込みながら憮然と物申す僕。
僕は、決して引き篭もりではない。休日にはほぼ必ずと言っていいほど外に出るアウトドア派なのだ。
まあ……行き先は大抵秋葉原だけど。
カシスオレンジをちびちびと飲みながら目の前のシーザーサラダを見つめていたミラが、顔を上げる。
彼女のグラスの中身は大分減っているが、白い頬は全くと言っていいほど色が変わっていない。
彼女、意外と飲めるくちらしい。
「私が困っているところを……通りかかった櫂斗さんが助けてくれたんです。私と櫂斗さんが出会ったのは、そういういきさつです」
「へぇ、三好君が人助けねぇ」
「……何だよ」
神楽はウーロンハイをくいっと飲み干して、意味深に笑った。
「三好君、毒舌マンだから。あまりそういうことをするイメージがないっていうか」
「僕だってたまには人助けくらいするっての」
あの時は、純粋に困ってることがあるなら相談に乗ってやろうと思っていた。
思えば──それが間違いだったのかもしれない。
こいつが電波娘だと分かっていたら、関わろうとはしなかったと思う。それは断言できる。
「櫂斗さんがいなかったら……今の私はなかったと思います。櫂斗さんは私の恩人です」
「おーおー、好かれてるじゃんか三好ちゃんよぉ」
小林はジョッキをぐいっと呷ってどんとテーブルの上にそれを置いた。
「因みに、困り事って何?」
「それは……」
ミラはやや困ったような顔をして、言葉の後半を濁した。
そういえば、彼女が抱えている問題はあまり他人に知られたくないことだと言ってたんだっけ。
子作り云々の話は、ひょっとしたら上手いことバラされずに済むかもしれない。
僕が抱いた淡い期待は、彼女が発した何気ない一言であっさりと打ち砕かれることになった。
「櫂斗さんと私との間に子供を作ること……としか、お答えできません」
「!?」
ぶっ、と僕は思わずビールを吹き出した。
僕の斜め前の席では小泉が、口に運ぼうとしていた唐揚げをぼろりと落としている。
ミラのことを知っている青木は、にこにこと笑いながらジョッキを傾けている。
他の連中は……目が丸くなっている。
目を何度も瞬かせて、小林は小さな声で呟いた。
「……子供?」
「はい」
こくんと頷くミラ。
「櫂斗さんと子作りすることが、私の使命なのです。そのために、私は櫂斗さんのお傍にいると決心して、今は彼のお家に住まわせて頂いています」
「……えーと、つまり」
手にしたグラスを静かにテーブルに置いて、尋ねる横山。
「ミラさんは、三好君の恋人ってこと?」
「違うから」
口元を手の甲で拭って、僕は首を左右に振った。
「確かにミラは僕の家に住んでるけど、それだけだから! 男女のあれそれとか、そういうのはないから! 一切!」
「そりゃー嘘だろ三好。こんな美人の
驚愕から立ち直った小林が、詰め寄るようなニュアンスで僕に攻撃の矛先を定める。
「毎日励んじゃってるんじゃねぇの? ったく、羨ましい話だよなぁ。オレもこんな美人のお姉ちゃんとやりてぇよ」
「絶倫のあんたと一緒にするな! 言っとくけど僕は三次元の女相手には勃たない体質なんだからな! ああもう何言わせてるんだよ畜生!」
「三好、声がでかい」
「勃たないって、そりゃーお前いくら何でもミラちゃんに失礼じゃないのか? オレだったら毎日でも頑張れちゃうね」
「んもー、あんたたち下品。私たちがいること忘れてるでしょ」
周囲の客がじろじろとこちらを見ている。
その視線を浴びながら、僕はがしがしと頭を掻いて俯いた。
全く……ミラのせいでえらい目に遭った。恥かいたじゃないか。
そのミラは、きょとんとした様子で僕たちの遣り取りを見つめている。自分が爆弾を投下したという自覚がまるでなさそうだ。
やっぱり……ミラは人前に出すもんじゃない。僕はそう思った。
「……おかわり! 今日はとことん飲んでやる!」
僕はジョッキの中身を一気に飲み干して、近くを通りかかった店員を呼んだ。
どうせ明日は休みなんだ。この記憶が吹っ飛ぶくらい、飲んでやる。
そう心に決めて、僕は店員に追加のビールを注文した。
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