第22話 飲み会-誘惑-
生ビール。水割り。リキュール。カクテル。焼酎。
ありとあらゆる種類の酒を浴びるくらいに飲んだ。
それでも、何処か僕の頭は醒めていて──頭の芯まで酔うことは結局できなかった。
青木たちは、すっかり酔いが回って上機嫌な様子で談話に花を咲かせている。
ミラの爆弾発言のことは、すっかり記憶の中から消えている様子だった。
ミラは、僕が注文してやったお好み焼きをふうふうと息を吹き掛けて冷ましながら一生懸命に食べていた。
何のかんので、彼女もこの酒の席は楽しめているようだ。やらかしてくれたことには思うことはあるが、連れて来た甲斐はあったなと思う。
ふと。
彼女の前の席に座っている小泉に視線が向く。
小泉はかなり酔い潰れた様子で、のったりとした動作でグラスを傾けていた。
彼女だけはこれまであまり会話の輪に入ってこなかったが、それでもこの酒の席を楽しんではいたのだろうか──随分と速いペースでグラスを空にし、新しい酒を繰り返し注文していたのを僕は覚えている。
頬はすっかり紅潮しており、瞳も潤んでいる。
これ以上飲んだら、多分意識が飛ぶだろう。僕の中で警鐘が鳴った。
「……おい、小泉」
僕は箸を持って、小泉の目の前に置かれている空の皿をかんかんと叩いた。
「あんた、飲みすぎだぞ。いくら明日が日曜だからって流石にまずいんじゃないか」
「……いいんですぅ。明日は休みなんですからぁ」
舌足らずな口調で僕の言葉に返事を返す小泉。
やばいな。相当きてる感じだ。
「家に帰れなくなるぞ。それでもいいのか」
「いいですよぉ。そうなったら三好先輩、助けてくれるんでしょぉ?」
……何でそういう発想になるんだ。
酔っ払いの面倒を見られるほど僕もしっかりしているわけじゃない。加えてミラもいるのに、これ以上荷物を増やすわけにはいかない。
僕は溜め息をついて、小泉の手からグラスを取り上げた。
「もうこれくらいにしとけ。帰りのことを考えなきゃいけないんだから」
「……ホテルがいい」
じっ、と僕の顔を掬い上げるように見つめて、小泉ははっきりと言った。
「三好先輩、ホテル行きましょうよぉ。ホテル」
「ホテルって……あのな」
小泉が言うホテルが何を指しているのか、それくらいは僕にも分かる。
彼女の意識レベルがどの程度のものなのかは僕には分からないが、少なくとも彼女がただの思いつきで今の言葉を口にしているわけではないことは、分かった。
「安易にホテル行こうなんて言うんじゃない。相手が僕だからいいようなものの、他の男だったら勘違いされてもおかしくない発言だぞ」
「いいんです……勘違いされたって」
小泉の表情が僅かに曇る。
じわり、と彼女は目に涙を溜めて、言った。
「三好先輩……あたしとじゃ嫌ですか? そんな気になれませんか?」
「……あのなぁ」
僕は再度溜め息をついた。
「そうやって自分を貶めるようなことをするんじゃない。自分のことは大事にしろ」
きっぱりと、そう言うと。
小泉はぐすっと鼻を鳴らして、俯いた。
全く……何なんだ。酔っているせいとはいえ、人を簡単に情事に誘うなんて。
女の気持ちというものは理解できない。
僕は店員を呼んで、ウーロン茶を注文した。
お茶を飲ませて酒気を薄めれば、少しは意識もはっきりしてくるだろう。
「うー……三好先輩の馬鹿ぁ」
呻くような小泉の呟きが聞こえてくる。
こりゃ駄目だ。まともに相手にしない方がいい。
運ばれてきたウーロン茶を小泉に差し出して、飲めと促す僕。
彼女の周囲に置かれている食べかけの料理が入った皿を取って、箸をつけた。
時間的に、そろそろお開きになるだろう。それまでに、残った料理を片付けないと。
のろのろとウーロン茶を飲み始める小泉を視界の端に捉えながら、僕は川海老の唐揚げを口に運んだのだった。
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