第159話 ?
今までにないほど世界を感じた。
街に漂う空気の流れ、その中に潜む虫の呼吸。道の片隅に生えている植物内の細胞一つひとつの活動。
それらが手に取るようにわかる。
メシュ自身、何故こんな芸当ができるかはわからなかった。
ただ一つわかるのは、今の自分ならジェニーを守れるということだ。
「その目は……何だ?! チート能力?! そんなはずはない! 転生者のパートナーも能力は一つだけだ! お前が『
「…………」
この世界ではあり得ない法則を前に取り乱すウヅキとは対照的に、メシュは冷静だった。
冷静に、剣を真横へ振り下ろした。
それにより発生した風圧で、横にあった3階建ての家が弾けてパラパラと石片が飛散する。
「な……に……刀柊様と同じ膂力……」
死の淵から蘇った。左目に浮かぶ三角形の模様。草薙 刀柊と同程度の攻撃力。もはや、想像を超えた事態にウヅキの思考は追いていなかった。
だが、何もメシュはウヅキの動揺を誘うために剣を振ったのではない。
剣の強度を確かめるためだ。
「……ふん。所詮はナマクラ。こんなものか」
メシュが持っていた剣は折れていた。彼が振るうパワーにただの鉄でできた剣では耐えられなかったのだ。
メシュは使い物にならなくなった剣を捨てる。
「これではない……俺様にはあったはずだ……俺様に相応しい剣が……」
問いかける様な呟きの後、片方の手のひらを曇った空へと真っ直ぐ伸ばす。
これにどんな意味があるのかはわからない。それでも彼は身体の訴えに従った。
「……来い! 天剣!」
大地からの呼びかけに、曇天が応えるかの如く光ったかと思えば、稲妻がメシュの手に吸い込まれるように落ちた。
眩い閃光がメシュを中心に発せられ、ウヅキは堪らず目を瞑った。
「な、何だというのだ! この光は?!」
光の勢いが落ち着いてきたところでウヅキが目を開けてみると、メシュの手には一本の真っ黒な剣が握られていた。剣には日本語でも英語でもない形の文字が無数に彫られている。
ウヅキにはもはや何がどうなっているのかわからなかった。ただ一つだけ間違いなく言えるのは、この男は危険だということ。
「ゼン!」
「ッ……」
ウヅキは直ちにゼンを呼び戻し、二人がかりで肉薄する。
「……フン」
鼻息を一つ鳴らして、メシュは剣を横一文字に振るった。
次の瞬間、周囲の民家の壁が横一直線に抉られ、さらにゼンとウヅキの腹部もパックリと割れて血を吹き出した。
二人の武士は言葉を発する間もなく、糸が切れたようにその場に斃れた。
「…………」
メシュは黙ったままその二人を見下ろす。
この光景を自分は知っている。
幾度となく見てきた。
この剣で何人も斬り伏せてきた。
「……くっ……ううううう!!!!」
メシュの脳内で記憶が暴れ回る。
乱れた景色、乱れた人影、乱れた音。それらがメシュを苦しめる。
「なん……なのだ! この記憶……俺様には無いはずだ!」
頭が必死に否定しようとするが、身体がその事実を受け入れろと押し付けてくる。
「……ジェニー!……」
乱れる記憶に脳が押し潰されそうになり、メシュは呻き声を上げ続けた。
*
「……メシュくん」
自分を護るため、自ら盾となったメシュの安否がジェニーは気がかりだった。
「ぐあっ!」
しかしそこに渡辺のダメージを受けた声が聞こえてきて、慌てて能力に集中する。
ジェニーは建物の影から渡辺と知世の戦いを覗き、『
『直感』は思考を無にするほど正確な未来予知が可能だが、その逆、乱れていると一気に予測が不可能になる。
ジェニーはできるだけメシュのことは考えないように努めた。
ジェニーの『直感』が安定し、渡辺は再び知世の攻撃を回避し始める。
すると、どうなるか。
知世の攻撃はほとんど当たらなくなり、命中したとしても攻撃を上手くいなしてダメージを軽減するようになる。
そしてそれは知世側も同じで、渡辺も知世に決定打を与えられない。
まさに互角の状況だ。
「ここまで『直感』の能力を扱えるようになるとは。あの時コツを教えてしまったのは失敗でした」
知世は遥か昔とも思えるバミューダ港までの旅路を振り返った後、攻撃の手を止めて渡辺から離れた。
「相手の動きを完全に読める私の目と未来予知ができるジェニー殿の直感。これは決着が着きそうにありませんね」
「なら何だ? 降参でもしてくれるのかよ?」
「いいえ、少し、無茶をします」
渡辺へ知世が攻撃を仕掛けた。それに反撃する形で渡辺も攻撃に出るが、その攻撃が普通に当たった。
「ん?!」
これまでの戦いからまず避けられるだろうと思われた攻撃が当たってしまい、逆に渡辺は動揺した。
何故そうなったか?と聞かれれば、答えは簡単だ。
知世は一切防御せずに斬りかかってからだ。
渡辺の肩に刃が深く入り込む。知世はそれを全力で引き『
舌打ちしながら渡辺は急いで距離を取る。
「く……そういうことかよ……肉を切らせて骨を断つってわけか」
傷つく事を恐れていてはいつまで経っても勝負はつかない。
それ故の戦法の切り替え。
『わー、ごめん渡辺君。今の攻め、私自身ビックリしちゃって伝えるのが遅れちゃったよー』
『大丈夫だ。それよりジェニー』
『んー?』
『こっからは、俺も無茶をするぞ』
『え……えー!』
知世がダメージ覚悟で攻め始めた以上、渡辺はそうするしかない。
いくら相手の動きを読めたとしても、攻撃を当てたそばから必ずカウンターされるとなれば回避するのは難しいからだ。
「どちらが先に音を上げるか、我慢比べってわけだ!」
渡辺は知世が振るう刀を片腕で真っ向から受け止めつつも、知世を蹴飛ばした。
ノーガードではないとはいえ、攻撃を受け流さずに正面から受け止めたのだ。当然、渡辺の腕も傷を負う。
それでも知世へ果敢に挑み続ける。
時折、『魔法剣』が飛来してくるが、渡辺はそれすらも避けようとしなかった。
知世も同じだ。渡辺の攻撃を腹に受けようが顔面に受けようが刀を振るった。
お互いが、“相手を攻撃する”ことに全てを捧げた。
刀が頬を裂き、血が宙を舞う。
蹴りが内臓をひっくり返す。
赤く光る戦槌が、あばら骨を砕く。
拳が顔に当たり、鼻血が出る。
二人の体は見る見る内にボロボロになっていった。
そんな攻撃の応酬が数十回以上続られたところで、知世が大きく後退した。
「はぁ……はぁ……」
知世は上下に肩を揺らしながら、鼻から滴り落ちていた血を手の甲で拭う。
「ゼェ……ゼェ……我慢比べは俺の……勝ちか?」
「ええ……そうですね……そのようです」
知世の筋肉はもう限界だった。
そもそも知世が『
渡辺を早々に倒せなかった時点でこうなるのは自明だった。
「……次の打ち合いが最後になります」
知世が大太刀を両手で握り締めて、顔の横で構える。
すると、渡辺は妙な感覚を覚えた。
“横に移動したくない”。
本能的にそんな気持ちが湧いてきたのだ。
そんな馬鹿なと、渡辺は試しに右足を少し横へずらした。
「――ウッ!」
渡辺はすぐさま右足を元の位置に戻す。
「驚かれましたか? 殺気を敢えて敵にではなく、その外に向けることで相手の身動きを封じる技。天知心流の極意の一つ『
「……真っ向勝負ってことか、上等だ!」
渡辺と知世が互いに見合う。
その時、場は静寂に満たされた。
戦争が始まってからずっと何かしらの音を拾い続けていた耳に一切の音が入らない。
心地良さすら感じる静けさだったが、今の二人に安息など眼中に無かった。
「……いざ尋常に、勝負!!!」
知世の声を合図に、二人は前に向かって走り出した。
渡辺は勝ち取るために拳を握る。勝って彼女を救い出すために駆ける。
知世は守るために刀を握る。守って目指すべき未来へと至るために駆ける。
それぞれ異なる思想を抱いた二人が今、最後の激突を迎える。
「はああああああああ!!!」
渡辺が風を左手に纏わせて大きく振りかぶる。左手で殴るつもりだ。
それを『
「――ッ!!!」
左手が攻撃されると誤認した渡辺は咄嗟に手を下げる。実はこの時、ジェニーから背後からの攻撃に注意するように言われていたために、それを避けようとして手を下げたのだが、それが知世の罠だった。
『違うー! それじゃない!』
ジェニーが急いで伝えるが遅い。『影道』によるブラフに引っかかった渡辺へ鎖鎌の鎖が伸びた。渡辺の左手に鎖を巻きつかせると鎌部分を地面に突き立て、それをさらに戦槌で地面深くに打ち込む。
これにより渡辺の左手は封じられてしまう。
「くっ!!」
そこへ知世が大太刀を持って突っ込んでくる。
ならばと、渡辺は右手でこれに反撃しようとするのだが、
『相手の足裏クナイ!』
ジェニーに言われて渡辺が視線を知世の足へ向けた。
知世の足が一歩前へと踏み込もうと上げられたその時、足の裏から赤いクナイが飛び出して渡辺の首元目掛けて飛来する。
「チッ!!」
首を守ろうと右手でそれを受け止めた。赤いクナイに手のひらを突き破られ、とてもまともに殴れる状態ではなくなる。
そうして両手を失った渡辺へと、既に大太刀の刃が目と鼻の先まで迫っていた。
「負けて……たまるかあああああ!!!!」
渾身の叫びとともに、渡辺は向かってくる凶刃に頭突きをかました。
渡辺の額と刀が衝突した結果、刀身が半分に折れる。
「なっ!」
武士にとって刀は命だ。
それが折られるのは死と同義。
――だとしても。
「私は……武士である前に、国を想う勇者です!!」
折れた刀を振り翳して、渡辺の頭蓋をかち割らんとする。
「だああああああああああ!!!!」
その一撃を、渡辺は封じられたはずの左手で迎え撃とうとする。
左手にありったけの力を込めて、ありったけの『絶対の意思』を込めて、動かしてみせる。鎖鎌を、それが突き刺さっている地面ごと持ち上げてみせる。
突き出された渡辺の左拳。
振り下ろされた知世の刃折れの刀。
それら二つが、同時にお互いへと叩き込まれた。
頬に入った左拳が、彼女を遠くへぶっ飛ばし。
頭蓋に入った勇者の刃が、彼をその場に倒れさせた。
二人とも地面に横たわり、そのままピクリとも動かなくなる。
「…………相打ち?」
静まり返った戦場に、ジェニーが恐る恐る出てきて、渡辺のそばまで寄る。
顔を覗き込むと渡辺は意識を失っている様子で、頭からは血が流れ出ていた。
これは大変だと、ジェニーはしゃがみ込んで渡辺の体を揺さぶった。
「わーたーなーべーくーん」
「……う……うぅ」
渡辺が意識を取り戻し、ひとまず安堵するジェニー。
「ち……知世は?」
鋭く痛む頭を手で押さえながら、渡辺は身を起こして確認する。
「大丈夫ー。知世ちゃん、全然動かないよ…………渡辺君?」
渡辺が立ち上がって、よろよろと知世のもとまで歩いて行った。
知世の横まで来ると、屈んで耳を知世の口元に近づける。
かすかだが呼吸音が聞こえた。その事実を受けて渡辺はホッとする。
力の抜けた表情で知世を見下ろす。
決死の覚悟で挑んできた武士の顔を見て、渡辺は不意に尊敬の念を抱きかけるが、あり得ないと頭を振った。
「王国は悪だ。正しいのは俺だ。俺は、お前らの考えを絶対に認めない。誰かの苦しみの上に成り立つ平和なんて、クソ野郎の考え方だ」
「渡辺君……」
語る渡辺の背中を、ジェニーは少し辛そうに見つめる。
何が何でも敵を拒絶しようとする背中に寂しさを感じてしまったのだ。
「ジェ……ニー……」
「あー!」
そこへ、額を手で押さえたメシュが現れた。
ジェニーと渡辺は一目散にメシュへと駆け寄った。
「メシュ君ー! 生きてたんだねー!」
「ぐ……う……」
生還に喜ぶジェニーだったが、メシュの具合の悪そうな様子にすぐ不安感を抱く。
「お、おい。大丈夫か?! どこか怪我してるのか?!」
渡辺も同じ心境だった。
そんな渡辺にジェニーは言う。
「渡辺君。メシュ君のことは私に任せて、先に行ってー」
「え、けど――」
「私たちが何でここまで来たのか、忘れたわけじゃないでしょー?」
「あ……」
「ねー? もう手の届くところまで来たんだよ? 会いに行かなきゃー」
「……ありがとなジェニー。メシュにも落ち着いたら礼を言っといてくれ」
「うんー」
渡辺はアルーラ城へと向かっていった。地下の牢屋に閉じ込められている大切な人たちを救うために。
渡辺が去っていくのを見送ったジェニーは、早速メシュの体を調べる。
「えー……んー? あれー? どこにも怪我が見当たらないなー」
それはそれで良かったと思うジェニーだったが、とても異様に感じられた。
メシュが戦った二人は知世直属の部下だ。メシュの実力で無傷で済むのは不自然だった。
「……ありゃ? メシュ君が持ってた剣こんなに黒かったっけー? というか全体的に豪華な装飾になっているようなー?」
そうしてジェニーが黒い剣を注視している時だった。
「ウエェン! おかぁさあん! おとぉさあん!」
助けを求める幼女の声が聞こえてきた。
ジェニーが声をした方に顔を向けると、崩れた民家の横で季節にそぐわない白地のワンピースを着た7、8歳くらいの金髪で長い髪の女の子が泣いていた。
「逃げ遅れた子供かな? 大丈夫ー?」
幼女へと走っていくジェニー。
その光景をメシュは薄っすらと左目を開けて見た。
「――ジェニイイイィ!!! そいつから離れろおおおぉ!!!!」
「え?」
「……あーあ、バレちゃったー」
幼女がピタリと泣きやんだかと思えば、イタズラっぽい笑みを浮かべ始めた。
「流石は【プロビデンスの目】だね! こうなったらもう手段は選んでいられないかな!」
突然な幼女の変わり様にジェニーは思考が追いつかない。口調も歳相応の女の子らしく聞こえるが、言っている内容はまったく理解できない。
「そーれ!!」
幼女が片手を上に挙げた途端、幼女とメシュはその場から一瞬にして消えた。
「え……メシュ君?!」
ジェニーは辺りを見回すがメシュの姿はどこにもなかった。
*
「ぐ!」
乱暴にどこかの地へと落とされたメシュは、急ぎ立ち上がって周囲の状況を確認した。
一言で言えば、砂漠の渓谷と言ったところか。木々が一切生えていない地域で周りには岩山があちこちに聳え立っていた。
「どこだ……ここは……フィラディルフィアは――!!」
ドクンと左目が脈打った。
不思議なことに自分の居場所がハッキリとわかった。そこはフィラディルフィアから南西へ200kmは離れた位置だった。
「ここなら誰にも見られないでしょ?」
「――ッ!!」
メシュの後ろに先程の幼女がいて、その場でくるくると両腕を広げて踊っていた。
「やっぱりあれだよねー! 多分そうだよねー! キミ、一回死んじゃったから。それで【神の恩寵】の効果が働いてー、色々とリセットされちゃったんだよね!」
「き、貴様は一体何者だ?!」
幼女はその問いかけが意外だったのか、きょとんとした表情をする。
「へ? あー、そうなんだ完全には力を取り戻してないんだ。ならちゃちゃっと済ませられるからな?」
幼女が目の前から消える。
メシュはハッとなって腕を後ろに回し掴んだ。背後から伸ばされた幼女の手を。
「……うん! 完全じゃなくてもやっぱりその目は面倒だね!」
「正体を現せ!」
幼女の手を掴んだまま、逆の手に握られていた黒い剣で幼女を斬った。
だが、
「ッ! 馬鹿な!」
風圧で民家を破壊できるほどの威力をもった剣を、幼女は空いている手で容易く受け止めていた。
「く! 貴様は誰だと訊いている!! 俺様の何を知っている!!」
「1つ目の質問には答えられないけど、2つ目の質問には答えあげるよ! キミのことはぜーんぶ知ってる!! キミはこの世界で一番怖い存在! だからキミの時は特に念入りに記憶を封じたんだよ! 人格までイジってね!」
「……記憶を……封じた……だと? 先ほどから頭にチラつく景色……貴様が奪ったんだな!!」
蹴りを繰り出そうとメシュが脚を上げるが、それよりも早く幼女の拳がメシュの腹を突いていた。
「――グハッ!」
殴られた衝撃でメシュは砂の上を転がり、途中で剣を落としてしまう。
さらに転がっているメシュへ幼女が組み付き、メシュの頭を小さな手のひらで鷲掴みにする。
「うん、奪ったよ! だってそうしないとー、せっかく用意した舞台が台無しになっちゃうもん!」
「用意した舞台?! どういう意味だ!」
「キミって質問が多いね。せっかくその目があるんだから、自分で見通してみたら? あ、でもどの道今からまた封印しちゃうけどね!」
「――グアアアァァァ!!!」
メシュの頭を掴む幼女の手が青く光り出すと、脳内をスプーンでかき混ぜられてるかのような激痛と吐き気がメシュを襲った。
とても物事をまともに考えられる状況ではなかったが、幼女の言葉が気になったメシュは無意識に捉えてしまう。
この世界――異世界ウォール・ガイヤの未来を。
「…………!!!」
そして、メシュは知る。
眼前にいる存在の目的を。
「 キ サ マ ァ ァ ァ !!!」
「え、もしかして本当に未来が視えちゃった?! すごいね! どこまで視え――」
幼女が後ろから飛んできた黒い剣に斬り飛ばされた。
メシュは自分に忠実なその剣を手にすると、起き上がって幼女と対峙した。
幼女は何事も無かったようにケロッとした顔でいる。
「ふーん、そっかぁ。そこまで視えたんだ」
「貴様の存在は絶対に認めん! ジェニーのためにも、渡辺たちのためにも! 俺様自らが貴様を断罪してくれるわ!!」
メシュの熱き意思。
その意思に、剣が応えるように魔力を放ち始めた。
剣に掘られていた無数の文字が金色に輝いて、さらには剣身の周りを二重らせん状に文字が宙を漂う。
「わあ、【天剣バッ・コル】がその名の通り神の言葉を紡ぎ出しちゃった。でも、信仰心を失ったその剣でどこまで戦えるのかなぁ」
「黙って塵と消えろ!」
メシュが天剣で幼女を一閃した。
次の瞬間、剣圧で幼女が吹き飛び、加えてその遥か奥にあった岩山群が3Kmの距離に渡って爆発するかのように抉れた。
吹き飛ばされた幼女は2Kmほど飛ばされた辺りで足を地面に滑らせて減速するのだが、そこへマッハ5というAUWすらも超越したピードでやってきたメシュに斬り上げをくらう。
ガンッ!という重い金属音とともにゴルフボールの如く飛んでいった幼女は、そのまま岩山へと激突する。
激突したところで、またメシュがすぐに追いつき今度は真下へと叩きつける。
幼女が叩きつけられた衝撃で岩山は木っ端微塵に砕け散り、辺り一帯が瓦礫の山と化す。
「アタタ……イッタイなぁ、もう」
言いながら幼女は痛みで顔を歪めもせず、手のひらを上空にいるメシュへ向けた。
幼女の手のひらから青白い光の弾がいくつも発射され、それらがメシュを落とさんと向かうのだが、突如、空中に白く輝く巨大な魔法陣が現れ、それが盾となって防いだ。
その間のメシュの右目は金色に光っていた。
「わわわ! 【ラーの目】だぁ! やっぱり純正はすごいね! 付け焼き刃の『チート能力』とはわけが違うよ!!」
無邪気に笑い拍手する幼女。
その幼女へ、もはや瞬間移動とも言える超スピードでメシュが容赦なく迫り天剣を振り下ろした。
直後、天にまで届く火柱が立ち、幼女はその炎の渦に体を打ち上げられる。
そこへまた剣を振ると、今度は真横から雷が落ちる。次に剣を振れば突然発生した竜巻が風の刃で幼女を切り刻み、もう一度振れば空中に現れた大量の水が洪水となって彼女を地上へ押し流した。
地上へ落ちた幼女に向けて、続けて剣を振ると“疫病”が放たれた。
黒い靄が幼女へ迫るが、幼女が人差し指をくるりと回すと黒い靄が消滅する。
「こらこら、神の災厄を考え無しにバラ撒いちゃダメでしょ!」
ニコッとした表情で言う幼女の顔面をメシュは片手で鷲掴みするとそれを地面に捩じ込んだ。
そのまま走り、幼女の頭で地表をガリガリと削る。
これならどうだ! と、メシュは幼女の表情を指の隙間から確認したが、幼女に痛がっている様子は無かった。
「えい!」
幼女の手が光った瞬間、直径20mはある青白いビーム光線が空に向かって放たれ、メシュは天高く舞った。
服を焼かれ半裸となり、全身に火傷まで負ったメシュだが、彼の意志はまだ燃え尽きていない。
「まだ……だ! 俺様は、負けん!!」
天剣を二重らせん状に囲んでいた金色の文字たちが、天剣から離れ空で円を描くように回り始めた。
すると、文字の内側に一際大きな白い魔法陣が浮かび上がった。
「……『余は世を照らす光なり』」
「――! はわ! もしかして“呪文”?!」
メシュの呟きに、幼女は初めて笑みを崩した。
「『光の化身たる余が命ずる。世を乱す闇。あまねく悪鬼羅刹共を
空に浮かぶ魔法陣から光が降り注ぐ。
「【メギドの火】!!!」
その叫びと同時に、メシュも幼女も真っ白な光に塗りつぶされて消えた。
直後、大爆発が起きた。
その衝撃は直径10km以上に及び、そこに存在した岩山や谷は跡形も無く消し飛び、遠く離れた位置にあった森の木々も突風で次々になぎ倒された。
世界が震えた瞬間だった。
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