第158話 最強のチート能力

 「まさか……あの子供は……」


 吐息混じりにしゃべるディック。

 それに対して、リグレットが愉快そうに口を開く。


 「あらぁ、もしかしてわかっちゃったぁ? 流石は父親なだけあるわねぇ。そうよ、アベルはアナタと私の間で生まれた子供よ」


 「俺の……息子…………オメェ……そんな大事なもんを……死ぬかもしれない戦場に引っ張り出してきやがったのか!」


 ディックの声が低く唸る。


 「実力を身に付けさせるには実戦が一番の近道でしょう? それに、父親の顔も見せてあげたかったしねぇ」


 「くっ!」


 呑気に話をしている場合ではないと、ディックは立とうとして四つん這いの姿勢になるのだが、脚と腕に力が入らなかった。

 しかも、自分の身体から流れ出た血で手が滑り、頬を床に打ち付けてしまう。


 「ふふふっ、ねぇどんな気持ち? ついさっき否定したばかりのチート能力の力で殺されるのは? ……そうだ良いこと思いついたわ。アベル、こちらへいらっしゃい」


 アベルは、リグレットに言われるがまま、二人の傍へと歩み寄った。

 すると、リグレットがアベルに何かを手渡した。

 黒い鉄の塊。拳銃だ。


 「今後もこういった反乱が起きるかもしれないから、今の内に人を殺すのに慣れておきなさい」


 「――な!」


 アベルはまだ5歳だ。そんな年端も行かない幼児にそこまでやらせるのかと、ディックは信じられないという目つきで微笑を浮かべるリグレットを見た。

 ディックの母親であるエメラダもここまで言わない。リグレットはエメラダ以上に偏った教育思想を有していた。


 アベルは母親から拳銃を受け取ると、撃鉄を起こしてディックへ向けた。


 「いいわぁ。よーく頭を狙って同じ箇所に2回、いい? 2回撃つのよ?」


 まるで子供に勉強を教えているかのような口調で語るリグレット。その言葉に従ってアベルは照準を倒れているディックの頭部に合わせる。


 ……ここ……までか……。


 まともに立つ力さえ残っていない。この射撃を避けることは不可能。ディックは死を覚悟する。


 ……自業自得だな。

 俺はずっと勇者という歯車だった……いや、なろうとしてた……が正しいな。

 勇者だからと自分の大事なもんから目を逸らして、勇者だからと他人から大事なものを奪ってきたくせに、産まれてきた子供は勇者として育てようともせず知らないフリをしてきた。

 要は、すげー中途半端な生き方をしてきたんだ。

 勇者として生きていれば俺はコイツを新しい歯車として育てていただろうし、もっと早くから国に抗っていれば、産まれた子供たちを連れて逃げ出していただろう。


 どっちかに徹していれば……こうなることも……息子に殺されるなんてこともなかったはずだってのに……マジで決断するのが遅すぎなんだよ……俺ってやつは……。


 ディックは自分を見下ろす息子に視線を向ける。


 ああ……なんて冷たい目をしてやがる……立派な戦闘マシンじゃねーか……!!


 そう思った矢先だった。

 気づいてしまう。アベルの手が、小刻みに震えているのを。


 「……そうか……お前も、あの頃の俺と同じ……やせ我慢してるだけなんだな……だったら」

 

 ディックは最後の力を振り絞って上体を起こすと、銃を握るアベルの手首を掴んだ。


 「ひっ!」


 いきなり腕を掴まれ、アベルは驚いて恐怖する。


 「……あらぁ、まだ動けたのねぇ? でも、だからって自分の息子を殴ったりしないわよねぇ?」


 「ゲホッ……ああ、殴ったりするもんかよ。だから安心しろよ、アベル」


 アベルの手を動かして、銃口を自らの胸へと引き寄せた。


 「安心して、俺を撃て」

 「――あ……あああ!!!」


 ディックの突然の行動をアベルは理解できなかった。

 ただ、今はとにかく母からの命令に従わなければと、その一心で引き金を引いた。

 乾いた音が鳴り、ディックの体が跳ねる。


 「……ゴフッ!」


 胸に穿たれた穴から血が吹き出し、さらに吐血する。

 その有様を見てアベルは声と手を震わせた。


 「……あ……ああ……」


 「……怖いか? 怖いだろ、銃って武器は。ゴホッ!……指先の握力が2kgもあれば余裕で人を殺せちまう……だからこそ、自分の心は重くしておかなきゃならねーんだ」


 怯えるアベルの両肩の上に、ディックの血塗れた両手が置かれる。


 「親は怖いよな……俺もよくわかる。けどな、だからって……自分を誤魔化すな。心を押し殺して逃げようとするな。銃は心で引け。でなきゃ後悔するぜ……俺みてーに中途半端になってな……」


 「……おとう……さん…………う……ひぐ……うわあああああ!!!!」


 アベルが瞳に光を宿らせた途端、顔を真っ赤にしてワンワン大泣きし始めた。

 先程までの幼児らしからぬ雰囲気は消えて、歳相応の反応を見せるアベルにディックは微笑む。


 父さんか……正直、俺が子供に教えてやれることなんてあるのかと思ったが……良かったぜ……最初で最後に一番大事なことを伝えてやれてよ……。


 「……何をやっているのアベル? 早く目の前の男を殺しなさい」


 リグレットが笑みを無くした声で命令するが、アベルは泣きじゃくりながら首を横に振った。


 「……はぁ……もういいわぁ。退きなさい、私がトドメを刺してあげる」


 アベルの肩を掴んで無造作に横へ退かすと、ショットガンを構えて引き金に指をかけた。

 ディックは膝立ちの姿勢のまま目を瞑る。


 ……すまねぇな渡辺、俺はここでドロップアウトのようだぜ……。


 「さようなら。私の可愛い弟」



 『『 ディック!! 』』


 その時だった。

 ディックの頭の中によく知る声が響いてきた。


 「は……ハハハ……」


 「あらあら突然笑い出しちゃって……殺される間際になって頭がおかしくなっちゃった? 大丈夫、お姉ちゃんがすぐ楽にしてあげるわぁ」


 「なぁ、リグレット。やっぱり勇者にとって一番大事なのは、仲間だぜ」


 直後、2つの眩い閃光が、廊下を駆け抜けた。

 それは『瞬間移動』の光であり、リグレットの両サイドに彼女たちが現れる。

 ディックのパートナー。エマとアイリスだ。


 「え!」


 リグレットも二人の存在に気がつくが、遅かった。

 顔の横にアイリスからエルボーを叩き込まれ、エマには足払いをされる。

 そうしてバランスを崩したリグレットに向けて、もう立つ力も無かったはずのディックが立ち上がった。


 「そんなにチート能力が大好きだってんならオメェにもわかりやすいように言ってやる!」

 「ぐふっ!!」


 ディックの渾身のパンチがリグレットの腹部に減り込む。


 「同じ意思を持った仲間ってもんが……最強のチート能力なんだよおおおお!!!!」


 次の瞬間、リグレットの体は一直線にぶっ飛んでいき廊下の突き当たりへと激突した。

 リグレットは壁からズルリと力無く滑り落ち、完全に沈黙した。


 「わかったか……こん……ちきしょ……」


 ディックが拳を突き出したまま前方へふらりと倒れかける。

 そんなディックを、エマとアイリスが支えた。


 「「 ディック!! 」」


 「アイリス! 急いで『回復魔法』!」


 「合点デース!」


 青白い光がディックの全身を包む。


 「……本当、お前らは俺の自慢のパートナーだぜ……ゲホッゲホッ!……もっと早く来てくれるとより最高だけどな」


 「悪かったね。ミカの容態が安定するまでずっとアルカトラズにいたから遅れちまったんだよ」


 「ミカ……アイツは無事なんだな?」


 「ああ、命に別状はないってさ」


 それを聞いてディックは安堵の表情を浮かべた。


 「ほら、アンタもとにかく今は座って休みな」


 「……いいや、休まない。俺は進むぜ」


 「ちょっ?! あ、あんた何言ってんの! その状態でまだ戦うつもりなわけ?!」


 「カトレアまであと一歩のところまで来てるんだ。休んでなんかいられねーよ。アイリスも『回復魔法』は出血を止めてくれりゃ十分だ。やり過ぎると副作用で動けなくなるからな」


 「オッケーデース!」と元気良く返事するアイリスの隣で、エマは呆れてため息を吐いた。エマとしては休ませたいところだったが、ディックは言い出したら聞かない性格であるのをエマはよく知っているのでそれ以上は何も言わなかった。


 ディックは二人に肩を支えられながら早速カトレアがいる謁見の間まで歩こうとするのだが、その前に残されたアベルを見やった。

 アベルは泣き腫らした顔で、遠くに倒れているリグレットを見つめていた。


 「おい! アベル!」


 呼ばれて、アベルがディックの方へ顔を向けた。


 「母親は殺しちゃいねーよ。あんなんでも今日までお前を育ててくれたヤツだからな。だから、心配なら傍についていてやれ」


 アベルは静かに頷くと、リグレットのもとへと走っていった。


 「……俺の息子だっつー割にはお優しいねぇ」


 「むす? 何だって?」


 「何でもねーよ」


 「ふーん……あ、そうだディック! 城に入る途中、渡辺と知世が戦ってるのが見えたんだけど、知世ってばチート能力をバンバン使ってたんだ! 渡辺のヤツ、やばいんじゃないのか?」


「あー……そりゃあ勝てねーかもな。特に『慧眼』の能力はおそらく渡辺の力じゃ突破できない」


 「どうする? 助けに行くか?」


 「……渡辺には『行け』って言われたからな。戻ったらぶん殴られちまうよ。まあ大丈夫だろ……アイツもなんだかんだ最強のチート能力を持ってやがるからな」



 *



 渡辺の無事を予想したディック。


 実際その通りだった。


 ディックがリグレットに右ストレートを与えたのと同時刻、渡辺の右ストレートも知世の頬に食い込んでいた。


 「な……んと!」

 「オラアアアァ!!!」


 渡辺の突きを受けた知世は川の上を派手に転がったが、素早く体勢を立て直す。


 「チッ! 浅かったか!」


 もう一発当てると言わんばかりに攻めてくる渡辺に対し、知世は集中力を高めて目の輝きを強くした。

 『慧眼』が渡辺の右腕の筋肉の動きを捉える。

 次は右のジャブ――ではない。


 右足の足底筋、下腿三頭筋、大腿四頭筋、大臀筋の動きが、パンチをする時の踏み込みとは異なっていること。左足の前脛骨筋、内転筋群、腸腰筋がわずかに収縮していること。

 以上から右ジャブはフェイントで、本命は左足の蹴り上げであると判断した。


 「せいっ!」


 予想通り渡辺は蹴り上げを繰り出してきた。

 知世はバックステップでかわしつつ、その上がった脚へ刀を振るう。


 「む?!」


 だが、刀は空を切る。

 渡辺が知世が刀を振るうのよりも早く途中で左足を静止させていたのだ。それだけに止まらず、さらに渡辺は軸足にしていた右足で強引に地を蹴って飛び蹴りを行う。


 「これは?!」


 慌てて知世は逆の手にあった『魔法剣』の両手剣でこれを防ぎ飛び退く。

 渡辺の攻撃はクリーンヒットすれば知世では防ぎようがないのだが、今しがたの攻撃はかなり無茶な姿勢からだったため威力は小さく知世でも防御することができた。


 「……おかしい」


 知世がそう呟くのも無理はなかった。

 今の飛び蹴りは、明らかに渡辺本人が予期していない動きだったからだ。

 フェイントを行おうとすれば、それが筋肉の収縮や電気信号の流れとなって視えるはずなのだが、知世の瞳にそれは映らなかった。

 ならば反射的なものか。と知世は考えるが、それも違うと結論が出る。

 何故なら、知世がバックステップする前から飛び蹴りの姿勢に移行していたからだ。まるで未来が視えているかのように。


 「……渡辺殿。もしやアナタの能力は未来予知もできるのですか?」


 「わりぃが、タネ明かしはしてやれねえな!!」


 渡辺がまた攻めてくる。

 渡辺の攻撃が命中し始めた謎がわかるまで近づけさせるのは危険だと判断した知世は、地中からまたハルバードを飛び出させて遠距離攻撃を仕掛ける。


 しかし、渡辺はそれを横に飛んで避けた。


 「やはり、こちらの攻撃が読まれていますね」


 続けてジャマダハラやダガーも地中から飛ばすが、それすらもかわされてしまう。

 その一連の動きを知世は『慧眼』で観察していたが、やはり妙だった。武器が地中から現れる前から回避動作に移っていたのだ。


 「……完全に読まれている?……いいえ、読んでいればそれこそ予備動作が必ず生まれるはず……渡辺殿にはまったくそれが無い。まるで、何も考えていないような……己自身では何も…………己……そうか!」


 ある考えに至った知世は、大きく跳躍した。


 中央区全体が一望できる高さまで達すると、知世はそれを懸命に探した。

 そして、見つける。


 「隠れても無駄ですよ。『慧眼』は人体から常に発せられている準静電界も視覚化できます」


 そう言うと知世は空中にバリスタを創り出して、噴水広場近くのとある民家に向けて矢を放った。

 矢の一撃で建物は半壊して崩れる。

 そして、その瓦礫の中から2つの人影が逃げるように出てきたのを知世は見つける。


 「……未来予知を連想して、もしやとは思っていましたが、まさかアナタ方もこの戦に参加していたとは、ジェニー殿、メシュ殿」


 「わ、わー。どうしよー、バレちゃったよー」

 「どうしたもこうもあるか! 急いで別の場所に隠れるのだ!」


 「逃しません」


 慌てて逃げる二人へ、次の矢を打ち込もうとする知世。


 「お前の相手は俺だろうがよ!」


 そこへ同じ様に跳躍した渡辺が迫り、知世を蹴落とした。

 二人は重力に従って落ちていき、噴水の広場に着地する。


 「二人がこの場にいたとは気づきませんでした。最初から潜ませていたのですか?」


 「ちげーよ。ついさっきだ」


 「そーだよー。渡辺君がお城に行くのが見えたから、頑張って追っかけてきたのー」

 「ジェニー!!」


 ひょこっと建物の影から顔を出して説明するジェニーをメシュが引っ込ませた。


 「……なるほど、友を心配してですか。素晴らしい友情です。……ならば、こちらも遠慮せず仲間の力を借りるとしましょう。ゼン! ウヅキ!」


 「「 はっ!! 」」


 城の城壁から和服を着た二人の男が跳躍し、知世の両隣に降り立つ。

 渡辺はその二人の姿に見覚えがあった。

 かつて、知世と初めて知り合った際、そのそばにいた者たちだ。


 「命令です。ジェニー殿とメシュ殿を討ち取ってください」


 「……知世様、よろしいのですな? 確かあのお二方のことは気に入っていたようでしたが」


 ウヅキの問いかけに、知世は頷いた。


 「……はい。戦場に立つ者は皆等しく戦士。情けはいりません」


 「承知!」


 ウヅキとゼンが腰に差していた打刀を抜き、ジェニーたちのもとへと駆け出した。


 「行かせるか! ッ!!」


 渡辺はそれを阻止しようとするが、当然その行く手を知世が阻む。



 ジェニーとメシュが隠れている近くまで、男たちがやってくる。


 「む! 来たな! ジェニー! 逃げるなら今の内だぞ! 逃げないのなら、ここから先は命を懸けることになる!」


 「んー……私がいないとそれこそ渡辺君が死んじゃうしねー。逃げるは無いかなー」


 「ふっ、よくぞ言った! それでこそ俺様の女だ!」


 走っている途中で、メシュがぐるりと体の向きを反転させて止まった。

 何をする気なのか?

 決まっている。メシュは一人で敵を迎え討つつもりだ。


 「行け、ジェニー! 行って渡辺を助けてやるがいい!」


 「メシュ君……。うん、任せて」


 ジェニーはぼかんとした表情をしつつも、どこか真剣味を含んだ顔つきで言い、その場を去っていった。


 しばらくの間を置いて、二人の男たちがやって来る。

 メシュは剣を両手で握って構えた。

 

 「お前は確か転生者のパートナーの男か。力の差は歴然だが、手は抜かんぞ。それが知世様の教えだ」


 「フン。俺様を、ナメてくれるなよ!」


 メシュがウヅキへ踏み込むと、剣と刀のぶつかり合う音が鳴り響いた。


 「ほう、太刀筋は悪くない。しかし、儚きかな。その攻撃力では届かぬよ」


 ウヅキに力で押されて、メシュはよろよろと後ろへ下がる。

 二人が剣戟を振るっている間に、ゼンが横を通り過ぎてジェニーを追いかけようとする。


 「させん!」


 ゼンの動きに気づいたメシュが『炎魔法』の魔法石をゼンへ投げつけた。

 瞬く間に炎がゼンの全身を包むが、ゼンは刀を一閃させてその勢いで炎を振り払った。


 「何だと?!」


 「余所見とは迂闊にもほどがあるぞ」


 メシュがゼンに注目している隙を突いて、ウヅキが刀を振り下ろした。

 その振り下ろされた軌跡に沿って鮮血が舞う。


 「ぐ……は……」


 左肩から右脇腹を斬り裂かれたメシュは片膝を着く。


 「……短い期間ではあったが、知世様はお前たちを好いておられた。せめて、苦しまずに逝かせてやろう」


 「……だから、俺をナメるなと言っている!」


 メシュが片方の手のひらを突き出して『閃光』を放った。

 辺り一面が真っ白な世界と化す。

 その世界の中で、メシュは立ち上がり剣を振り抜いた。


 「――は!」


 だが、メシュは愕然とする。

 ウヅキは目を閉じていた。メシュの企みは完全に看破されていたのだ。


 次の瞬間には、ウヅキの刀の切っ先がメシュの首の頸動脈を切断していた。


 「……ゴボッ!」


 メシュの首から血が噴水の様に噴出し、口からも血が大量に溢れ出てきた。

 それは誰が見ても、明らかな“死”だった。


 「あ……が……」


 血で喉奥が詰まり溺れる様な声をあげて、メシュは地面に倒れ伏した。


 ウヅキはメシュの前で一礼すると、ジェニーの始末に走り出していった。



 「……こん……な………ろで……」


 メシュは生にしがみつこうとするが、体はどんどん死の方へ傾いていた。

 耳は聞こえなくなり、視界も暗くなっていく。


 その暗い世界でメシュは思った。


 地面が近いな……何故俺は地べたに這い蹲っている?

 ……これが俺様……だったのか?


 ズキリッ、と頭が痛む。

 その時、ぐにゃりと歪んだ映像が頭の中で映し出された。

 それが何かはわからなかった。

 しかし、その映像が瞳の奥で流れた時、凄まじい喪失感がメシュを襲った。


 ……俺は失うのか?


 メシュの脳裏にジェニー。そして、渡辺やマリン、オルガの姿が映し出される。


 「ならん……それだけは…………断じて許さん!!」


 その瞬間、太陽の様な光がメシュの全身を包み込んだ。

 生気を失っていた瞳に輝きが戻り、メシュは立つ。


 立って、男達を追いかける。


 「む?!」


 後方から強襲してくるメシュに気づいたウヅキが、メシュの剣を刀で防いだ。


 「い、生きていた?! そんな馬鹿な! 確かに動脈を裂いたはず! 何故生きている?!――はっ!!」


 ウヅキは驚きの上にさらに驚きを重ねた。


 メシュに与えたはずの致命傷は完全に消えていたのだ。

 首の傷だけではない。腹部の切り傷まで無くなっており、完全に無傷の状態となっていた。


 そして、驚くべき箇所はもう一つあった。


 「……俺様の大事な友を傷つけること、万死に値するぞ。人間」


 そう重く呟くメシュの左の瞳に、三角形の模様が浮かび上がっていた。

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