第4話 砂浜ウインナーコーヒー
目の前に広がる景色に意識が睡魔に誘拐されそうになりながら俺は一体何をしているんだろうかと朝方にも関わらず黄昏ていた。
断続的に寝ていたせいもあり意識があまりはっきりしない、鴎やらうみねこがにゃーにゃー呑気な声で鳴くのを聞きながらふんわりとしたまどろみに包まれかけていたが…
「ほーら、まだ寝るなって!もうそろそろ始まっから!!」とまぁこんな様子で海の方から元気な声が飛んで来て睡魔を追い払う。
なんだってまた徹夜帰りに波乗り見なくちゃいけないんだとの不満の声は絶賛頭の中で生き延びているが休息を急いだって仕方ない。
徹夜コースは初めてだったが休日に趣味に没頭あまり寝損ねたことだってあるし、明日ゆっくりすればいい。あ、でも洗濯物干したいなぁ…
ぼおっとそんなことを散漫に考えてみる、何時もいつも義務感で行動していたから手綱を離されてレールの上から離れるとなにをすれば良いのか途端に分からなくなる。
「なんだよ何をそんなに思い詰めることがあるんだよ、今日は晴れてんぜ?テンション上がるだろ吉川さん?」
砂浜からいつの間にか海から上がっていた小岩さんが此方へサーフボードを担いでこちらへ向かって来ている、どうしたんだろうか?
「どうしたもこうしたもそんな調子じゃあ折角のやる気もどっか他所行っちまうって」
「と言われてもなぁ、楽しそうな顔すると違和感あるとか良く言われるんだよ」
「うーん?そんな怖い顔じゃないですよ吉川さん」
「いや、普段表情筋がストライキ決め込んでるおかげで違和感凄いんだってさ」「あー、あれだ仕事もーどだ!」「いや知らんがな」
なんだろう、最近は考え事やらが多くなって気がつくと時間が過ぎているパターンがあるのだが今までこんな事は無かったから正直な話困惑している。
「吉川さんってさ、学生生活楽しめた?」
小岩さんがサーフボードを浜に突き刺して俺の座るベンチの横に腰掛ける彼女の方から濃い海の匂いが鼻をくすぐる。
「うーん、どうだろう?馬鹿騒ぎに付き合わされるわ、今の会社の後輩と知り合ったり…と散々なようなきもするしそうでもないなと思ったりもする。」
なんとなしに沖へ向かう鳥を目で追って目線を足元まで落とし、小岩さんが話を聞いてくれる事を確認して俺は話を続ける。
「まぁ大体人は過ぎた事を美化したり嫌な事は案外覚えて無いから問題ないって思う、何か悩みの一つでもあるんだとしたら俺からのアドバイスは期待せん方がいい、正論やら身も蓋もないボールしか帰ってこないからな」
説教を垂れるようになるとは俺もいよいよおっさんの仲間入りか…
デリカシーのないやつにはなりたくないが人の機嫌ばかりを考えるのは駄目だ、自分が消える。
「ふーん、ねぇ吉川さん、人と付き合っていくのって結構考えること多いね」
彼女は今まで見せて来た水面の様に眩しい表情ではない夕暮れ時の顔を見せて俺を驚かせた。
「こ、小岩さん…もし人との事で悩んでいるならそこまで気にやむもんじゃない学校よりも広い世界を君は既に知ってるだろ?」
人間なんて関係を持ち続けられる人数はそう数は多くない。
しかしまぁごくたまに特異な人がいて単純に八方美人と言うわけではなく惹きつけて止まない特性があったりするのだが残念ながらそんな人物に俺はなれないんだろうな
小岩さんは一瞬目を丸くしたと思うとわはははと豪快に笑い始めたので一体何があったのだろうと思っていたところゆっくりと一回息を吐いて俺に向けて
「な~んかここまでお見通しだと誰かの差金なんじゃないかとかそう思っちゃうんですけど私の知らないヒトな気がしれないわ!」
波乗りに来たはずなのにもかかわらず彼女はこちらを食い入るように見つめているのでなんとも調子が狂ってしまう。波乗り少女きみはそれでいいのか?
「そんな訳ないない、もし俺が仮に君のファンか何かだとしたら憧れの存在に対してこんなづけづけと話をしたりなんかしないよ。もしそうだとしたらよっぽどの演技派なやつだな」
とはいえ俺は演技などとは無縁なのだが小岩さんは知らないだろう、俺の最終芸歴は長靴をはいた猫を最序盤でナレーションで向こう岸に到着するまでアドリブでマイクなんて入らない中で小言を二十秒ほど話すだけの船頭だぞ?
因みにそれ幼稚園だかせいぜい小学校のときだからなあんまりやった覚えがないのが本音なのだ…
「そうね、そういうことにしーとこっと!!」「そーいうことねぇ…」
「そんなことなんて割とどうでもいいんだけどさ、私に今悩みがあるように見えたって言ったけどもしかしてそれってさ!それってさ!聞いてもらえたりするのかねワトソン君!」「誰がワトソン君だっていうんですかね…」
ニコニコして意味がちょっとというか大分良く分からないのだが俺はそこまで懐かれる要素ないだろうが一体何が起きてる…?
アレもしかしてこれってまだ電車の中で俺寝てるじゃね?自分の理解の範疇を超えた出来事があると人間は何かにつけて結びつけてしまう癖がありそれが「運」ではないかと個人的には思っているのだ。
つまり人生は良いことと悪いことが比率として同じように起こっており結局はどんな人生を辿ろうと皆おしなべて一緒であると…なんだかなぁ~
「でもでも流石に初めてであった人に渡しの悩みを聞いてもらおうだなんて思わないケドネー」
それはそうだろ、ヒトはそんな簡単に信用しちゃいかんむしろ信用する必要がないまである。
「そりゃそうだが風があんまり強くなる前にカフェにでも入りたいんだこっちとしては暖かい飲み物でも奢ってやるから小岩さんの得意分野をぜひ俺に見せてくれ」
素人目の感想しか帰ってこないんだがそれで良ければ波乗りでも玉乗りでも見てやろうじゃないか、海の上で板一枚で立っているだけですっげーと思うんだけどね。
「俺は軽率に人を褒めるから気をつけろ、他意と故意もなくただ自分にできないことに対して賞賛を送っているだけだからあんまり大きく捉えないほうがいい。
プライベートだと思ったことが割とぼそっと思っていることを口にしてしまうから注意したほうがいいぞ」
独り言を言った数だけなら多分この空は全部オレの独り言で埋まってるな多分、
「正直なだけじゃお金は貰えないから仕方ないよ、
よーし、それじゃ行って来まーす!」
「い、行ってらっしゃーい」
元気だなあ、この歳で既に元気ってなんだっけと幸せ並みに探しがいがあるものになりつつある、
小岩さんが砂浜を足取り軽く飛び出して行ったのを見ながら俺はそんなことばかり考えていた。
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