第12話
「ファッションセンターヤマシタ」という店だ。半分雑貨屋のような大型の衣料品店だ。ここならとりあえず子供の靴なども売ってそうだ。
広斗を左手に抱えなおし、店のドアを押す。中に入ると売り場の表示を見渡した。
右手の奥の方に「子供」の吊り下げ看板の文字が見える。
なんとなく手元にあったグレーの買い物かごを掴むと、一直線に売り場に向かう。
子供服やベビー用品の売り場の奥の壁面に子供靴が並んでいる。
サイズは、もちろんわからない。
靴売り場の椅子に広斗を座らせるとあてずっぽうで靴を履かせてみるが
サイズがあってるかどうかさえ良くわからない。
「あの、」しゃがんで靴を履かせている後ろから声を掛けられる。
思わずビクッとしたが、気取られてはいけない。
「はい?」振り返ると若い女性店員が立っている。
「あの、もしよろしければサイズの方お調べしましょうか?」
「あ、はいお願いします。なんか海辺で遊んでるときに靴が流されちゃったみたいで。」
「普段嫁さんに任せてるんでサイズとかよくわからないんですよね。助かります。」おいおい俺は詐欺師かと思うほど流暢な台詞が勝手に口をついて出てくる。
「かしこまりました。では。」と言いつつ広斗の前に座ると続けて声をかける。
「おにいちゃん何才?」すると広斗が答える。「にちゃい。」
あれ?思ったよりしゃべれる。もしかして色々理解してるのか?
そして当然の質問が続いた。「おなまえは?」
なんと答えるのだ?本当の名前は?
だが彼の口から出たのは驚くべき言葉だった。「ひろとー。」
???全く意味がわからない。まさか偶然ひろとであるわけがない。俺にあわせてくれたのか?
ひとしきりサイズを測ると店員がこちらを振り返る。
「えーと。靴のサイズは14で良いと思います。」「靴下も同じくらいで大丈夫です。」靴下売り場を一瞥する。
「あ、そうですよね靴下も必要ですよね。ありがとうございます。」
「ほら広斗。ありがとは?」試しに広斗を促してみる。
すると「あーがと。」彼はこちらの言葉を理解していた。
「いいこね~。じゃあねえバイバイ~。」店員が微笑みながら去ろうとすると、広斗も手を振る。「ばーばーい。」
これはちょっとまずいかもしれない。今は俺にあわせてくれたのか?なんなのか良くわからないが言葉の理解が高いとするといつ騒がれるかわからない。助けてなんて言われたら洒落にならない。とりあえずうまく機嫌をとっていったほうが良さそうだ。
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