第9話
郵便局にはすんなり着いた。広斗も車の中でおとなしかったから助かった。
広斗を抱え窓口で整理券を取る。5人待ち。たいして時間はかからなそうだ。
記入台の横の椅子に広斗を下ろすと引き出し用紙に記入した。金額は…とりあえず100万と書いてみた。
5分ほど待つと自分の番号が呼ばれた。
「128番のお客様、窓口へお越しください。」
メガネをかけた細身の若い女性行員がアナウンスしている。
広斗は…おとなしく椅子の上に座ってる。出会ってからほとんどしゃべっていない。でもずっとにこにこしている。ちょっとだけなら大丈夫だろう。
広斗をそのままに窓口へ向かう。
「えと、引き出したいのですが…」
行員が通帳と印鑑、そして用紙を交互にみて確認する。
「すいません。金額が高額なので一応身分証を確認させてもらってよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
ナップサックから財布を出すと免許証を差し出した。
彼女は免許の写真と俺の顔を見比べている。
「はい、確認させて頂きました。少々お待ちください。」
しゃべりながら免許と印鑑を返された。特に問題はないようだ。
でも緊張したら怪しまれる。微妙に顔を背けながらうなずいた。
ついでに振り返ると広斗は相変わらずにこにこしている。
彼女は一旦奥の席の上司のところに向かうと通帳と用紙を渡す。
つつがなく上司の判がつかれる。
・・・・・・・・
「お気をつけてお持ちください。」
現金の束と通帳を渡されると、とりあえず横目で通帳の残高を確認してみる。
あれ?前回300万引き出したあとに250万の入金がある。入金先は東和不動産となっている。途中で記入していなかったようだ。どういうことだろう?先ほどはゆっくり確認しなかったが通帳は切り替えたばかりのようで、それ以外の相手先はなにもない。通帳は520万の繰越金からはじまっていた。
疑問に思ったがここでまじまじと見ても訝しがられる。あとでゆっくり確認しよう。
広斗は隣に座っているおばちゃん相手にあいそを振りまいている。
軽く会釈をしながら広斗を抱えると急ぎ足で車に戻る。
自分の名前、自分の通帳、自分の金のはずなのだが、実感がない。
無意識に唇に手がいく。
やはり多少緊張していたらしく唇が乾いている。そういえば水分も取っていない。
勿論広斗もだ。
車に乗り込むとひとつ深呼吸をして考えを巡らせる。
金は手に入った。さてどこに行こう?
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