第41話
翌日、私はラミナ達を伴ってある場所を目指していた。私達の視界に2階建ての赤い屋根建物が見え始めると俄かに女性陣が騒がしくなった。クックマーチとハルも一緒に着ていたが、2人はまだ色々と引きずっているようで、静かに私たちの後を付いて着ていた。
「ねえ、あれってシューリの服屋じゃない?」
「ホント、私、行って見たかったのよね」
「来たは良いけど、入店できるかしら?」
その言葉の通り、店の前には多くの女性が列をなし、開店するのを待っていた。
『こんなに混んでるとは…』
予想外のことに半ば呆然と呟く私にラミナは不思議そうな顔で聞いてきた。
「知ってて来たんじゃなかったの?」
『いや、知人の経営してる店だから、挨拶もかねて行って見ようかなって』
「そっか。ここって、今、西都で人気急上昇中のお店なのよ。一度来てみたいと思ってたの。連れて来てくれてありがとうね」
『喜んでもらえて良かったよ』
にっこり微笑むラミナに私も笑顔で返した。
開店時間となり、並ぶ女性たちが次々と店に吸い込まれる中、店の中から小さな影が飛び出した。
子供特有の茶色いクセっ毛に興味に輝く瞳、この子供には見覚えがある。店主の子のフォスだ。
また、勝手に1人で出てきたのか。
『ちょっと行ってくる。直ぐ戻るから』
小さくため息をつくき、ラミナ達にことわりを入れてから私はフォスに駆け寄った。
『勝手に1人で出歩いたら危ないじゃないか』
軽く叱り首根っこを掴み捕らえてから、そのまま抱き上げるとフォスは嬉しそうに笑っていた。
「あー、そあれのとうしゃんだぁ」
『え?私がわかるのか?』
「わかるよー。そあれのとうしゃんって」
ニコニコ笑いながらフォスは答えた。
声も形も変わっている。それでもフォスは一目で私がソアレの父親である言い当てた。
子供は勘が良いとか聞いていたが本当なんだなぁ。
半ば感心しながらフォスを抱き上げたまま、入店を待つ列に並ぶラミナ達の元に戻ると、店の中から「フォス、フォス!」と叫びながら女性が飛び出し、辺りを見回していた。
『シューリさん、フォスならここにいますよ』
私が女性に声をかけるとすぐさま女性は振り向き、私の姿を見て暫く目を丸くして固まっていた。
「かしゃん、そあれのとうしゃんだよ」
私に抱きかかえられていたフォスがシューリに笑いかけると彼女の硬直は解け、戸惑い気味に私に尋ねてきた。
「あの、本当にソアレ君のお父様なんですか?」
姿も声も違うものに同一人物かと疑問に思う方が普通の反応で、一目で分かったフォスの方がむしろ珍しいだろう。
『えぇ、私はソアレの父親のアステルですよ。お会いした日と声も姿も変わってますが』
苦笑気味に答えながらフォスを地面に下ろすと、たっと駆け足でフォスはシューリの腰に抱きついた。
「かしゃん、わかんないの?どうみてもそあれのとうしゃんじゃん」
全くダメだなあと言わんばかりの表情でフォスに言われ、シューリは困惑の表情を浮べていた。
「本当なんですよね?」
『ええ』
問われても、私には肯定で頷く他なかった。この時、シューリが何を思っているのかそれは私には分からない。
魔物とバレて恐れられるのか、ヴェントロのように魔物と分かっても変わらず接してくれるのか。
願わくば受け入れてくれることを祈っていた。
暫く腰に抱きついていたフォスをシューリは見つめていた。そしておもむろに顔を上げ私の方を見たシューリは微笑み、
「本日はご来店ありがとうございました。ごゆっくりご覧ください。お気に召す商品がありましたら幸いです」
言い終わるとシューリは深々と頭を下げ、フォスの手を握り店へと戻っていった。
私達が入店すると入れ違いにシューリが入り口の扉に近寄り扉に掛かった看板を弄り扉の鍵をかけた。
『シューリさん?』
私が名を呼ぶと彼女は笑顔で振り向き、
「本日はこれより貸切としました。私1人では他のお客様までいたらちゃんとした対応が出来ませんから」
苦笑するシューリにソフィアが声をかけた。
「見てても分かるけど、1人じゃ大変そうね」
「えぇ、皆様贔屓にしてくださるのはありがたいのですけどね。そのせいでフォスを危ない目にあわせてしまっては、母親失格ですね」
自嘲気味に話すシューリにソフィアは労うような声色で
「母親失格なんてないわよ。貴女は頑張ってる。むしろ、頑張りすぎてるわ。そんな貴女に提案なんだけど…」
ソフィアはマリーの肩を掴むとずいっとシューリの前に押し出した。
「うちの弟子、雇わない?」
「「え?」」
マリーとシューリが同時に間の抜けた声を出した。
「この子には一通りの接客の仕方から経理や事務まで教えたわ。貴女の役に立たないなんでことはないと思うの」
「ちょっと、義姉さん、何勝手に話し進めてるの。シューリさん困ってるでしょ」
勝手に話を進めるソフィアに流石にマリーが抗議していたが、当のシューリはなにやら考え込んでいた。暫くしてシューリはマリーのほうを見ておずおずと喋り始めた。
「マリーさん、さえ良ければお願いしたいのですが」
この言葉にマリーはその場で笑顔でガッツポーズをとると
「いえいえ、光栄ですよ、憧れのお店で働けるなんて。私の方こそよろしくお願いします」
シューリとマリーがお互いに頭を下げあっている後ろで、大成功と言わんばかりの笑顔をソフィアは浮べていた。
『ソフィアの方は大丈夫なのか?』
マリーがいなくなるとソフィアの店を切り盛りするのはソフィア一人になってしまう。心配して私が声をかけると
「大丈夫、この子たちがいるからね」
「え?私達?」
肩をつかまれてクックマーチとハルが驚いていると
「貴方達にもしっかり私の仕事を覚えてもらいますからね。覚悟しなさいよ」
「は、はい…」
満足げに笑うソフィアに2人は戸惑い気味に苦笑いを返した。
これならソフィアの店も大丈夫そうだな。
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