第40話
『凄かったな』
席を立ち子供達の方を見て話す私の声は興奮冷めやらぬものだった。同じく興奮した子供達が応えた。
「うん、すごかった」
【こんなすごいの、うち始めて観たわ】
口々に言う子供達の目はキラキラと輝いていた。
『ラミナもそう思わないかい?』
ラミナの方に振り向くと、彼女もまだ興奮した面持ちで
「そうね、本当に凄いわ。あの魔獣達と役者達の間にはちゃんと絆があるわ」
私と子供達は演技の凄さに感心していたが、ラミナは別の観点から感心しているようだった。
『今日のことは忘れられない思い出だな』
頷く子供たちを抱きしめていると、後ろからラミナに抱きしめられ、「そうね」と彼女は呟いた。
この感動も時間と共に薄れていくだろう。それでも、今日この日のことは忘れたくない思い出の1つになった。
「お客様、お待ちください」
出入り口に向かおうとしている私達を呼び止めたのは席に案内してくれた受付嬢だった。
『私達に何か?』
私達全員が首をかしげていると
「団長がお呼びです。こちらへ」
受付嬢に案内された先は舞台袖裏のテントだった。テントの中には来賓用のしっかりとした作りの3人掛けのソファーが2つテーブルを挟み設置されていた。テーブルの上には入れたてのお茶がまだ湯気を立てていた。
テントの奥にはヴェントロの姿があり、私達の姿を見ると彼は笑顔で出迎え、私達にソファーにかけるよう促した。私とラミナはソファーに腰掛けると、ソアレを私の膝に乗せ、ラミナはキキを膝に乗せた。
私達の対面のソファーにヴェントロは腰掛け、受付嬢が一礼してテントを出ると話し始めた。
「本日はお越しいただきありがとうございました」
『いえ、こちらこそ、招待ありがとうございました。子供達と良い思い出になりました』
「そう言っていただけて光栄です」
ヴェントロは満足げに微笑み、用意してあった布袋を取り出しテーブルの上に置くと、布袋はチャリンと音をたてた。
「今日、お呼び立てしたのはジョセフィーヌを助けていただいたお礼をお渡しするためです。少しばかりですが受け取ってください」
ずいっとヴェントロは布袋を私の方に押しやる。
本当に私はお礼など必要としていないのだが。困り果ててラミナの方を見ると彼女も困ったような笑みを浮かべていた。
「貴方に不要なら、家族のために使ってください。これは私の家族が救われたことに対しての心ばかりのものですから」
家族にか…。情けないことだが、私はまだ自分で稼いだことがない。いつも世話になっているラミナに何か恩返しが出来るのなら貰うのも悪くはないかもしれない。
『その、…ありがたくいただきます』
私が遠慮がちに布袋を受け取るのをヴェントロは笑顔で眺めていた。
ソフィアの店の客室に戻り、一人になった隙に布袋を開いて私は言葉が出なかった。
中には白金硬貨が5枚に金貨が20枚。日に金貨1枚分稼げたら上々というのが一般的な生活、貰った時に見ていたら直ぐに受け取りはしない金額が入っていた。
『こんなに貰って良かったのだろうか?』
一瞬、返そうかとも思った。けれど、そんな申し出をヴェントロが受けるようには思えず、家族のためにという言葉を思い出して、私はこのお金をラミナと子供達と今回迷惑をかけたソフィアやマリーのために使うことに決めた。
女性に送って喜ばれるものか…。思案している時にある人物のことを思い出した。
明日は皆で彼女の店に行くのも良いかもしれない。
喜んでくれると良いな。
そんなことを考えているとラミナと子供達が部屋に戻ってきた。
いつものように私が床で座って寝ようとしていると
【お父ちゃんも一緒に寝へんの?】
『私は別に…』
言いかけて首を横に振り途中で止めた。
『そうだな、一緒に寝ようか』
【やったぁ】
「やった、きょうはパパもいっしょなんだ」
キキだけでなくソアレも喜んだのは意外だった。
隣りあわせで離れていたベットをラミナと協力してくっつけ、中央に子供達、両端に私とラミナが横になった。
「お休みなさい。良い夢を」
優しく呟くラミナの声に私達は眠りに付いた。
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