第39話
昼食事を終え、街の中を観光しながら催事広場を目指した。
ソフィア達は買い物があると別行動となり、時間になったらサーカスで落ち合う約束をした。
広場についた頃には日は落ち、瑠璃色の空には無数の星が輝き、大小二つの月が欠けた円を描いていた。
催事広場の中心にはテント小屋と呼ぶのにはかなり巨大なサーカステントが1つと回りに小さなテントがいくつか巨大なテントを囲っていた。
赤、黄、青の原色で彩られたカラフルな巨大テントの周りには魔石入りの照明が煌々と灯され、一層、テントを飾り立てていた。
ただでさえ明るいテントの入り口からは昼の太陽の光が零れ落たように明るく照らされ、大勢の観客達がテントに吸い込まれるように入場していっていた。
『これは、凄いな』
思わず感嘆の声が漏れた。
「ホントね」
私の隣でラミナも頷く。
「こんなに、凄いものを家族で見れるなんて素敵ね」
ソアレ、キキ、私の順に見つめ、最後にラミナは微笑んだ。
『あぁ、忘れられない思い出の1つになるな』
「そうなると、良いわね」
私の言葉に相槌を打つと、ラミナは鞄から懐中時計を取り出した。
「そろそろ、開演時間も近いわ。テントに入りましょうか」
『そうだな。ソフィアたちの姿が見えないが良いのか?』
「チケットも渡してあるし、大丈夫でしょ」
『それもそうか』
私が頷くと、ラミナはテントに向かい歩き出し、その後をソアレとキキが手を繋ぎながら追う。大勢の観客の波の中から「家族、水入らずで楽しんでらっしゃい」と微笑み見送るソフィアの姿があったのを私達は気づかずに、最愛の家族の姿を見失わないように私も後を追った。
テントの出入り口に入ると三角のとんがり帽子にそこから覗く個性的な髪形の派手な舞台化粧の受付嬢が出迎えてくれ、私達に観覧チケットの提示を求めてきた。ラミナがチケットを提示すると受付嬢は芝居がかった驚きの声を上げた。
「あらあら、まあまあ。これは白金級チケットではありませんか」
『白金級チケット?』
「一番良い席、特等席ですございます。お客様は団長のお知り合いなのですね。私が責任をもってお客様をご案内しますわ」
仰々しく一礼すると受付嬢は私達を席へと案内した。
「こちらがお客様の席になります」
受付嬢が示した席は高くやや広めの間隔の縦格子の柵に覆われた舞台に手を伸ばせば届いてしまいそうな正面の最前列だった。私達が席に着くと
「それでは、ごゆっくりご観覧ください」
またも仰々しく受付嬢は一礼するとぱっと、その姿を消した。
『え?』
私が驚きの声を上げるのと同時に一斉にテント内の照明が落ち、あたりは暗闇に覆われたが、高らかに開演を知らせる太鼓の音が鳴り響いていた。打楽器、吹奏楽器、弦楽器と徐々に音が増えていき、盛り上がりが最高潮に達すると舞台の中央に光が差し、燕尾服の恰幅の良い男性、このサーカスの団長、ヴェントロが姿を現した。
「紳士、淑女の皆様、今宵はお越しいただき誠にありがとうございます。心行くまでプログマ・デキフォーラの舞台をお楽しみくださいませ。これより開演いたします」
深々とヴェントロが頭を下げると舞台一面を照明が明るく照らし、曲も陽気なものへと変わっていた。
舞台中央には額に1本角のある
その両端にはこれまた大きな球に乗った派手な舞台化粧をした役者が複数の手の平サイズの球や鉄製のリングを空中で転がしていた。
魔獣達はバランスを崩すことなく舞台中央をくるりと玉乗りで回ると舞台袖に戻っていった。
動物達がはけると、舞台は一瞬暗転し、緊張感のある曲が流れ始め、舞台の両端に建てられた鉄塔に照明が落とされた。
左右の鉄塔の天辺から役者達が観客に手を振るとテントの天井からブランコが下りて来た。鉄塔の下は役者を受け止めるものはなく、あるのは固い地面。落ちれば死亡は免れない。
そんなことを気にする風もなく、ブランコに腰掛けると役者達は大きく漕ぎ出した。速度の乗ったブランコは鉄塔の間を往復する。一瞬左右のブランコが交わると役者達は軽々と互いのブランコを行き来していた。その度に観客席からは「あっ!」「うわぁ!」と言った驚嘆の声が上がっていた。
曲が最高潮を迎えるところで役者達はブランコから手を離し、宙を美しく回りながら地面に向かって落下していった。観客達の「きゃー」と言う悲鳴がテントの中に響き渡る。
役者達が地面に触れる間際に黒い影が舞台を横切った。
ばっさばっさと翼をはためかせる音の方を見れば上半身は鷹、下半身は火の国に住むという獅子の身体を持った魔獣、グリフォンが役者達を背に乗せていた。
観客席から上がる「おぉぉ!」という安堵の歓声に包まれながら役者とグリフォンは舞台を後にした。
暗転したした舞台にコミカルな曲が流れだすと天井から5本の光の筋が舞台を照らし、光の先には立派な牙を持つ
魔獣たちの中央には鉄製のリングを抱えた役者が台の上に立っていた。
曲に合わせて役者がリングを投げると魔獣たちは自分の方に飛んできたリングを1つも落とすことなく見事にキャッチしていた。
最後の1つをジョセフィーヌが全身でキャッチし、可愛く「プキィ」と鳴くと客席から盛大な拍手が送られた。中央の役者が一礼すると、倣って魔獣たちも頭を下げると舞台は暗転し、勇ましい曲が流れ始めた。
円形の舞台に沿うように暗闇に炎の輪が6つ浮かび上がる。天井からの照明が舞台を照らすと舞台中央には紅いシルクハットに紅いベスト、紅い短パンをサスペンダーでとめた少女が手にタクトを持ち、その隣には深紅の体毛を持ち、尾が蠍の虎、マンティコアが控えていた。
「マンティコアの火の輪くぐり。とくとご覧くださいませ!」
少女が叫び、タクトを振るうとマンティコアは火の輪に向かって走り出した。
1つ、2つ、3つ、と順調にマンティコアは火の輪を飛び越えていく。4つ目に差し掛かるとマンティコアは一旦足を止めた。4個目から火の輪の位置が高くなっていた。4個目から徐々に高くなり、最後の6個目は1個目の倍の高さになっていた。
「君なら出来る!行けティグリス」
少女の叫びに応える様に、ティグリスは助走をつけると4個目、5個目、最後に大きく地を蹴り6個目の火の輪をくぐりきった。ダンと着地で地を踏みしめる音と共に客席から盛大な拍手が巻き起こった。
火の輪が片付けられた舞台には最後を飾ったマンティコアのティグリスと紅い少女を中心に出演した役者と魔獣達が横一列に並んでいた。その列の中心、1歩前には団長のヴェントロが立っていた。
「皆様、今宵はご観覧ありがとうございました」
ヴェントロが深々と頭を下げると次いで役者と魔獣達も観客に向かって頭を下げた。
「今宵の演目はこれにて終演となります。またのお越しをお待ちしております」
手を振りながら役者と魔獣達は舞台袖へと戻る姿を観客たちは拍手で見送った。
舞台が空になって夢から覚めた観客たちは流れるように出入り口へと向かって行った。
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