第11話
大人たちが本格的に掘る坑道は村の外からトロッコに乗って進むものだが、今回わたし達の向かう練習用坑道は村のはずれにあった。
村の中を突っ切るので村の様子も窺い知ることができた。すれ違うゴブリン達はわたしの姿を見ると一瞬驚いた表情を浮かべるが、アネモスとルルビの兄妹がいることで安堵の表情に変わっていた。
大人も子供も笑いあう長閑な村だった。
わたしの育った町もそうだったな…。ほんの一瞬村の光景に町の光景が重なった。懐かしい気持ちだけがこみ上げてくる。けれど、それだけだった。
練習用坑道の入り口に着くとアネモスとルルビは背負っていた大きな鞄からヘルメットを出すと頭に被り、次いでつるはしを取り出した。アネモスは自分の分とはわたしの分で2本つるはしを取り出すと1本をわたしに手渡した。
「それじゃ、行くか」
アネモスを先頭に、ルルビ、わたしの順で坑道の中へと進んでいった。
坑道の天井には一定間隔で透明な小箱の中に光る石を詰めたものが吊るされ坑道の中を照らしていた。流石、練習用と言われるだけあって道は一本道と単純なもので最奥の採掘場までは子供の足でもそれほど時間はかからなかった。
採掘場に着くとアネモスは
「よっしゃ、掘るとするか」
と適当な岩壁につるはしを打ち込んだ。金属と硬い岩壁がぶつかりカツンという音が響くと、ルルビとわたしも続いて岩壁を掘り始めた。
小一時間ほど掘っているとルルビが嬉しそうな声を上げた。
「やったのです!掘り当てたのです」
喜ぶルルビの視線の先には子供の手の平に納まるくらいの大きさの魔石が姿を覗かせていた。
「お前にしては早いな」
アネモスがルルビの頭を撫でると嬉しそうに彼女は目を細めていた。
仲のいい兄妹の姿は微笑ましくもあり、少しばかり羨ましかった。
『ルルビは凄いな』
わたしも褒めるとルルビはえっへんと胸を張り得意げに笑っていた。
「今日はルルビの一人勝ちかもな。もうちょい掘ってダメなら戻るか」
得意げなルルビに対し、アネモスは少しばかり悔しそうな表情だった。
『そうしようか』
わたしは頷き、再度3人で掘り始めたが結局この日はルルビが掘り当てた以外魔石を掘り当てることは出来なかった。
「結局、掘れなかったかー」
地面に大の字に寝転ぶアネモスの傍でわたしは胡坐でルルビは膝を抱えて座っていた。
『なかなか難しいんだな』
初めての採掘の感想をわたしが述べるとアネモスは神妙な顔で
「そうなんだよな。自分で掘り当てられるように出来ないと大人と一緒に掘らせてもらないからな。修行あるのみだ」
ひょいと、起き上がり立ち上がるとアネモスはガッツポーズをとるとルルビも負けずと「そうなのです!」と立ち上がりガッツポーズをとっていた。
二人の姿を見ているとわたしも頑張らないとと思わずにはいられなかった。
採掘場から村長宅に戻る道すがら、ルルビが何かわたしに尋ねたいのか口をもごもごさせていた。暫く待ってみてもルルびからは尋ねられないのでわたしの方から彼女に尋ねてみた。
『ルルビ、何かわたしに聞きたいことでもあるのか?』
なるべく穏やかな口調で尋ねてみたものの驚いたようでルルビの肩がビックと震えた。
「あの、あのですね…」
小声で呟き、2,3深呼吸するとルルビは話しはじめた。
「お会いした時から気になっていたのです。アステルは女の人なのですか?」
『へ?』
思わず間抜けな声が漏れた。わたしの自己認識は男だし、どう見ても男だろ?
『いや、どう見ても男だろ?』
半ば呆れた声でわたしが返すと
「その…声が、大人の男の人にしては凄く高いなと。ルルビとお兄ちゃんの間くらいの高さなのです」
『え?』
え?ちょっと待て、つまりわたしはかなり幼い少年という事になるのか?
思い返せばラミナの態度も大人に接すると言うより子供に接するようなものだった。ガラガラと自身が大人だと言う認識が崩れていく。
思わず片手で頭を抱えた。
「大丈夫か?」
心配そうにアネモスがわたしの顔を覗いてきた。
『あぁ、ちょっとほって置いてくれないか』
地味にダメージが深い。立ち直らないといけないのに直ぐには立ち直れそうになかった。
わたしは大人じゃなかった。大人でなければいけないのに。それなのにわたしは子供だった。
俯いたままのわたしに独り言を呟くようにアスモスは話しはじめた。
「子供だめかなー。何かあっても大人が守ってくれるし、楽だからおいらはむしろ子供のままの方が良いけどな」
『わたしが守らなきゃいけないんだ。わたしが守られるわけにはいかないんだ』
「そっか…」
わたしの言葉にアスモスはそれだけ返すとそのままわたし達は村長の家に着くまで無言で歩き続けた。
村長宅の扉を開けると笑顔の村長と眠たげなレフコがわたし達を迎えてくれた。
「どうじゃった初めての採掘は?その様子だと収穫はなかったようじゃな」
暗い顔のわたし達を見て村長は採掘が上手く行かなかったからと判断したようだった。
「まあ、そんなところだ」
残念そうな声でアスモスが答るとその答えに村長は顎鬚を摩りながら、
「そうかそうか。また来た時にでも試してみると良い」
と苦笑しながらわたしの方を見た。
『そうさせてもらいます。今日はありがとうございました』
礼を言い頭を下げ、報酬の魔石を受け取り担ぎレフコの姿を探すと既にレフコはわたしの背後からこちらを見ていた。
再度、村長に一礼するとわたし達は鉱山を後にしようと村長たちに背を向けると背後からパンと肩を叩かれ振り返るとアネモスの姿があった。
「また来いよな。おいら達友達だろ」
驚きと嬉しさが同時にこみ上げてきた。
『ありがとう。また来るよ』
暑い雲に覆われた気持ちは少しばかり日が指したが完全に晴れることはなかった。
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