第12話

無言のままわたしとレフコはラミナの待つ家路を急いだ。

そろそろ、家の見えるあたりでぴたりとレフコが足を止めた。


『どうしたレフコ?』


「何でもない」


そう答えてもレフコは足を進めようとせず、わたしに尋ねてきた。


「言いたい事があるんだろ?」


レフコの碧い瞳がじっとわたしの金色の目を見つめていた。

わたしを見つめるレフコの瞳はわたしが何に悩んでいるのか見透かしているようだった。

思い切ってわたしはレフコに尋ねた。


『…レフコはわたしが子供だって知っていたのか?』


「知ってた」


拍子抜けするほどあっさり答えは返ってきた。


『じゃあ、何故教えてくれなかった』


「知ってどうする?」


それがどうしたと言わんばかりにレフコはこちらを睨み付けてくる。


「お前が子供だろうがアタシには関係ないし、ラミナにだって関係ない。お前はお前以外の何者でもないんだよ。分かったらいい加減そんなしけった顔するんじゃないよ。うざったいたらありゃしない」


言うだけ言うとレフコはわたしから顔を背け、戸惑うわたしを気にせず家路へと歩き出した。

慌ててレフコの後追いながら、レフコなりにわたしのことを想ってくれた事に心の中で感謝した。


家の内扉を開けると少し疲れた様子のラミナがソアレを抱いてわたし達を出迎えてくれた。


「お帰りなさい。お疲れ様、夕飯の準備は出来てるわよ」


わたし達に優しい笑みを向けるラミナの前にあるテーブルには昨日釣った5色魚のトマト煮、野菜ときのこの蒸し焼きに3色魚の丸揚げと野菜とほぐし身のサラダなどの料理が色鮮やかに並べられ、わたしが座る席の前には両手で掬えるほどの篭に魔石が詰められていた。


「それでは、いただきます」


ラミナが食事を始めると今日も夕飯は和やかに始まり終わっていった。



レフコは食べ終わると早々に「今日は帰る」と言い姿を消し、ラミナは食事を済ませるとソアレと共に寝室の方へ移動していった。

キッチンに一人残されたわたしは残った食器をぼんやりと片付けていた。

片づけが終わり椅子に腰掛けていると寝室の扉が開きラミナが顔を覗かせた。


「今日はお疲れ様ね」


微笑を浮かべながらラミナはわたしに歩み寄り優しく頬を撫でてくれた。

それから暫くわたしの顔をじっと見つめると心配そうな声で尋ねてきた。


「大丈夫?無理してない?」


レフコと言いラミナと言い、何故二人は表情のないわたしの表情が分かるんだ?


『別に無理なんかしてないよ』


そう、わたしは無理に大人ぶろうとしてるのではない。その必要があるからそうしているだけ。無理なんか、無理なんかしてないんだ。

必死に言い聞かせるわたしにぽつりと「ホントはちょっぴり辛いんだよね」と苦笑交じりに呟くわたしの声が聞こえた気がした。


「そう」


瞼を閉じ暫くラミナは俯いていたが、顔を上げるとにっこり微笑んで興味深そうにわたしの方を見ていた。


「ねえ?今日行った鉱山でなにか良いことあった?」


良いこと、良いことと…。記憶をたどっても自身の認識が崩れると言う複雑な出来事以外には、いや一つだけあったことを思い出した。


『友達が出来たんだ』


「そう!良かったじゃないの」


ぎゅっとわたしの手を握るラミナは自分の事以上に喜んでいた。


「また今度行った時にはたくさん遊んでらっしゃい」


ニコニコ笑顔でラミナに見つめられているとわたし一人が背伸びをして空回りしているのではと思えてきた。


『ラミナは全部分かっててそうしてるんだよね?』


「何のことかしら?」


不思議そうにラミナは小首をかしげていた。


『わたしが本当は子供だって…』


言わないでわたしの中で止めておくことはもう限界だった。


「…うん。知ってた」


静かにラミナは頷きわたしの頭をぎゅっと抱き寄せた。


「一生懸命大人であろうとする貴方に「貴方は子供だ」なんて言うのは良い大人のすることじゃないと思ったの」


抱き寄せたわたしの頭を優しく撫でながらラミナは話し続けた。


「でもね、それで貴方が辛いならいつでも私を頼って」


『ありがとう』


わたしが礼を言うと抱きしめられる力が増し、ラミナの柔らかい胸に顔がうずもれる状態になっていた。


「もう、可愛いんだから」


子猫を愛でるような声で言うラミナにわたしは呆れ声で小さく『いや、鎧は可愛くはないだろ…』と呟いた。


ずっと、心の中を覆っていた厚い雲は気づけば晴れて明るい日差しが差し込んでいた。

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