第9話

皮袋の水を家の外に設置してある水樽に移し変え、家の扉を開けるとソアレを抱いたラミナが期待に満ちた瞳でわたし達を出迎えてくれた。


「お帰り。で、どうだった?」


「これだ。料理してくれ」


ラミナに木桶の中が見えるようにレフコはくいっと顔をあげるとラミナは喜びの声をあげていた。


「まあ、七色魚じゃないの。それに五色魚もいるのね。今日は腕によりをかけるわよ」


レフコの頭を撫で木桶を受け取ったラミナは


「ありがとう、アステル。それじゃあソアレお願いね」


とソアレをわたしに預けると鼻歌交じりにキッチンに消えて行った。


内扉を開けキッチンに入ると既にエプロン姿のラミナは七色魚と格闘を始めていた。

そんな後姿をスヤスヤと眠るソアレを抱きながら椅子に腰掛け眺めているわたしの足元には料理はまだかと口元に涎がたれかかっているレフコが待機していた。


相変わらずラミナの手際は良いな。

時折、ソアレがちゃんと息をしているか確認しながらテーブルを眺めていると、次々と料理の乗った皿が並べられていった。

最後まで持っていたプライパンをシンクに置き、するっとエプロンの紐を解き手早く畳みテーブルの端に置くとラミナは極上の笑顔をわたし達に向けた。


「七色魚のフルコースの出来上がり」


そう言うラミナの前には生の状態を一口台に切り分けたものにオイルソースのかかったもの、こんがりと良い焼き色が付いた切り身、野菜と切り身が煮込まれたクリーム色のスープ、ほぐし身と木の実の赤いソースが絡んだ麺、最後にパイ生地で包んだ七色魚パイが綺麗に並べられていた。


食べれないことに少しばかりの寂しさを感じていると


「と、その前に」


言うとラミナは小走りで隣の部屋に駆け込み戻ってきた時には両手に収まるほどの篭には色とりどりの魔石が詰められていた。


「食事はみんなで楽しくなくちゃね」


わたしの前に魔石の詰まった篭を置くとにっこりラミナは微笑んだ。


足元で待機していたレフコはいつの間にかわたしの対面左側の椅子に座り、その隣にラミナが座り「頂きます」と手を合わせると和やかな食事が始まり、今日も平穏に一日が過ぎていった。



いつの間にか眠っていたようで腕の中の温もりがなくなって気づいて起きた時にはテーブルの


料理の山は綺麗に片付けられ、ラミナとソアレの姿はなく床にレフコが気持ち良さそうに寝そべっているだけだった。


寝室かと扉に手をかけると中からソアレの泣き声とラミナの話す声が聞こえた。


「そう、もうお腹が減ったのね。良いね~。いっぱい飲んで大きくなってね」


扉を開こうとした手を戻し踵を返すと静かに内扉を開け外に出ると濃紺の空には瞬く星が輝き、巨大な月が柔らかな光で地表を照らしていた。


しばらく星を眺めていると不意に後ろから声をかけられた。


「急にいなくならないでよ、心配するじゃない」


振り返るとケープを羽織ったラミナの姿があった。


『心配かけてごめん』


謝りラミナに歩み寄るとラミナはコンと軽くわたしの胸部をこずくと少し怒り気味の口調で


「もう、心配かけさせないでよ」


と呟いた後、顔を挙げ空の様子を眺めた。


「まだ、日の出まで時間があるわね。もう少し寝てても良いのよ。それとも眠れない?」


別に眠れないわけでもないが、眠くもないというのが現状でどう答えようか迷っていると


「貴方にも子守唄を歌ってあげましょうか?」


そう言うラミナはいたずらっ子っぽい笑みを浮かべていた。


『え、いや、わたしは子供じゃないし…』


拒否しても拒否権はないらしく、そのまま腕をつかまれ寝室までわたしは連行されていった。


わたしは部屋の隅で座り、ラミナは円形ベットのやや左に置かれた篭の中で眠るソアレの隣に横向きで横たわると子守唄を歌い始めた。

歌詞はわたしには分からなかったが、その声は柔らかく優しく暖かく包み込んでくれるものだった。心地よい歌声にいつの間にかわたしは眠りに落ちていた。

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