閃き
―言葉を飲み込むのに少し時間がかかった。
しかし、ジジイの言った言葉は俺の胸に刺さる。
そう、この世界は、魔法や異形の存在する世界なのだ。
客観的に考えて、
“異世界から転生して来た”
という可能性と、
“記憶を改竄された”
という可能性ならば、どちらの可能性が高いのかは言うまでも無い。
「…頭は悪く無い様じゃのう。もう少し喚くかと思っておったが。」
「…成るべく事実を客観的に受け入れようとしているだけですよ…。現状貴方の言葉を否定するより、その可能性を考える方が有意義だと言うのも有りますが…。」
そう言って俺は考え込む。
今までの人生は全て嘘だったのか?
今まで居た、沢山の彼女達も、馬鹿をやった友人達も、本当は居なくて、俺はただの化け物だったのか?
押し殺そうとしても、自分への疑いは晴れる事無く俺の心を覆う。
「…まぁ、お前さんが化け物に襲われて右腕を失ったのは事実じゃと思う。
着ていた服に歯形が残っておったからの。」
そう言われて、はたと気付く。
そう、俺はこのジジイに助けられたのだ。
記憶の改竄が瞬時に行えるなら手詰まりだが、俺が起きてからの記憶は信用出来るかも知れない。
更にジジイは続ける。
「お前さんの話を聞いて、
ワシが最も違和感を覚えるのは、
異世界から来たならば、何故この世界の言葉が分かる?。」
「――――!」
そう、そうなのだ。
「…確かにお前さんは特別な存在なんじゃと思う。
普通はレッサーヴァンパイアなんぞに強力な回復力や知性なんぞ与えんからのぅ。
しかし、じゃからと言って“異世界から来た”なんて世迷い言を鵜呑みには出来ん。
それならば、お前さんを作った“
…そうなのかも知れない。
“
そんな存在の名を出し、『異世界から来たと言うより現実的』と口にする以上、この世界に於いても異世界転生の可能性は極めて低いはずだ。
俺は冷静に考え、その事実を受け入れようとし―
そして一つの可能性に気付いた。
「ご老人!」
「…タナスじゃ。
タナスアート=ラファガと言う。」
「僕は井上智也と言います。
これまでの話を理解した上で幾つか質問したいのですが、宜しいですか?」
「…構わん。」
俺は自分の考察を確かめる為に、ジジイ改めタナス老に質問をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます