疑い




「…さて、ではここに来た経緯を話して貰おうかの…。」




そう言われて俺は逡巡した。


『異世界で美女を庇って死んだら転生して来ました。』


なんて馬鹿な話を信じる者は居ないだろう。

少なくとも、超絶イケメンたる俺ならば信じはしない。

それこそ病人がランバダ踊るくらい有り得ない話だ。


異世界転生のテンプレはどれも痛々しいモノだが、

『実は記憶喪失で…。』

と言うのは、案外理に叶ったテンプレなのだと思い、それに従おうとすると―



「言うておくが、ワシにウソをつくなよ?

貴様程度の若造のウソなど容易く看破出来るし、看破せずとも貴様を処分する事は容易い。

貴様の命は薄氷の上にある事を理解し、真実のみ話せ。」



そう言ってジジイが俺に対して強烈なプレッシャーを放った。


さっきの化け物から受けたそれより、さらに濃厚な“死”の気配。


この世界に於けるヴァンパイアの立ち位置は分からないが、このジジイの殺気とも言うべきプレッシャーが、それを如実に語っていた。

恐らく、常人ならば間違いなく失神しているであろうこのプレッシャーだが、そこはやはり超絶イケメンの俺である。


麻のズボンを濡らすだけで、事無きを得ている。
























「…すまん。ワシが悪かった。着替えを持ってくる。」


ジジイは俺の勇気に感服し、貢ぎ物を用意した。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…信じられんな…。それこそ病人がランバダ踊るくらいに。」



ジジイはそう呟いて俺を凝視する。

なんだその目は。やはりイケメンが羨ましいのか。



「…いや、お前さんがウソを語っていないのは分かる。

じゃが、それが真実だとは思えないのじゃよ。」



そう、俺はを話したのだ。

あの美女を庇って死んだ事も、俺が異世界に住んでいた事も全てである。


携帯小説なら、恐らくトップ3に入る程嫌いな、“大した必要性も無いのに序盤から異世界出身だと自白する展開”をまさか自分が行う事になるとは…。

まぁ、この場面では正直に話す必要性が有ったので、それとは少し違うか。


しかし気になるのは―



「真実とは思えない…とはどう言う事でしょうか?

自分としては正直にお話したつもりなのですが…。」



そこである。

ジジイはは信じているが、俺の語ったは信じていないのだ。



「…フム。お前さん、化け物に襲われて右腕を食われたと言ったな…?」



言ったやん。朦朧したのかジジイ。



「ならば、ほれ。

右腕を見てみい。」



そう言ったジジイは、を指さした。



「…なっ!?」



俺は驚愕に目を見開く。


無くなる前と、変わらぬままで。



「…気付いとらんかったか…。

まぁ、当たり前に在る物が失われた訳じゃからな。

再生しておっても、違和感が無かったのじゃろう。」



「う、ウソは言ってません!確かに俺は右腕を食われたんです!!」



確かにこの状況ならば、話を信じられる訳は無い。

しかし、ジジイはこう続けた。



「お前さんの言葉にウソが無いのは分かっとると言うとるじゃろう。

ワシが疑っとるのはそこでは無い。」



そう言ってジジイは俺の目を見つめ直し、ゆっくりと俺に告げた。








「…お前さんの記憶…本物か…?」





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