ジジイの家




「…着いたぞ、ここじゃ。」



俺はあの後、ジジイに話を聞きたいと言われ、家まで案内されていた。


ジジイの家は森の中では比較的に開けた土地で、近くに川もあるという好条件の立地に建てられている。


建物の造りは、レンガ造り。

これは少し意外だった。

確かにファンタジックな世界にレンガ造りの家はメジャーなのだが、テンプレ転生ものならば時代背景は中世がベター。

最もメジャーな建材は木材であり、レンガ造りは比較的裕福な家庭のはずだ。


毛根は貧困層だが、お財布は富裕層らしい。



「…またなんぞ下らん事を考えてそうじゃが、遠慮はいらん。入れ。」



俺は毛根とお財布のhigh & lowに誘われて、家に入った。



「久々の客人じゃ。茶でも淹れるから少し待っておれ。」



俺が案内されたのは、凡そ8畳程の暖炉付きの大接室だ。

簡素ではあるが、時代背景を中世と考えるならば、生活スペースと分けられた部屋がある時点でやはり裕福だろう。



「…入ったぞ。さぁ、飲め。」



ジジイが部屋に入ると、そう言って俺に茶を渡した。


……汚いコップだ…。

磁器製のコップだが、色はくすみ、水垢が目につく。

手を付けるには抵抗感があるが、仮にも命の恩人が淹れてくれたのだ。無下には出来まい。



「いただきます。」



俺は我慢して、ジジイの茶を口に含み―



「ぐばぁぁぁぁっっ!?」




口に入れた瞬間、全身を強烈な異物感が襲った。

まるで体中の血管に寄生虫が這いずる様な感覚。


この世のモノとは思えない不味さと異物感だった。



「オエッ…ぐっ…!」



俺はひとしきり吐き終えると、落ち着きを取り戻しジジイへと向き直った。

間違いない。

やはりモテない男の嫉妬はイケメンを殺すのだ。



「…フム…良かったのぅ…。」



ジジイは俺に向かってそう言った。

…この!

何が『良かった』だ!!

こっちゃあ毒盛られてヘドぶち撒けてんだぞ!?

「やっぱりモテない禿げジジイはイケメンが嫌いなんだな!」

俺は心の中で悪態をつき、冷静さを取り戻した。


やはり俺は超絶クールな超絶イケメンである。










































「…お主、言葉に出ておるぞ。」



お茶目な超絶イケメンである。



「…何故こんな真似を…?」



俺は内心の怒りと恐怖を抑えて冷静に問い質した。

現状、このジジイに生殺与奪の権利を握られている。

しかし、殺す気なら最初の接触の時点で殺せば済む話だった。

つまり、今の毒入りの茶には別の意図があるはずだ。


ジジイは俺に向き直る。



「まぁ、非礼は詫びよう。しかし、一つ誤解しておるな。

ワシは毒など盛っておらんぞ?」



白々しいウソである。

あれ程の異物感と吐き気を催す物が毒物以外に有るとでも言うのだろうか。



「…あれは人間の血じゃ。

新鮮なな。」



「!!!!!」



俺は驚愕した。このジジイ、人間の血を俺に飲ませたと言うのだ。

神々しい登頂部のジジイが悪魔的諸行を行う。

これは矛盾と言う言葉の完成形の一つと言えよう。



しかし―



「…申し訳ありませんが、それは明らかにウソだと思います。

僕自身、口内が切れたり、擦り傷を舐めた経験くらい有ります。

あの感覚はそれとは全く違いました。」



そうなのだ。ガキの時分にはよく有る事だが、誤って口に血が入る事くらいは有る。

あれは明らかにそれとは違った。



「じゃろうな。それはヴァンパイアが自分の食性と違う血を飲んだ時に起こる反応じゃ。

お前さんは人間の血を食料とはしておらんらしいな。」


このジジイ!!


なんでそんな真似を…

そこまで考えて俺はジジイの意図に気付いた。



「…ほれ、良かったじゃろう?

それを喜び飲んでいたなら、苦しまぬ様に処分するつもりじゃった。

悪意無くとも、人身に害を成す闇の獣を生かすつもりは無かったからのう…。」



このジジイ、やはり悪魔である。



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