モンスターなっとるやんけ



俺は茫然としていた。

目の前で起こった事実に頭が着いてこなかったのだ。


直前まで迫っていた死。

そして、それを撃ち破った夜を裂く火球。


流石の超絶イケメンたる俺でも、茫然とするのは仕方がないと言える。


だが、大丈夫。


俺はこういった状況の急変には強い。



超絶クールな超絶イケメンと言えば、正に俺の事である。

こういう時は、素数を数えて冷静さを取り戻すのだ。





「1・2・3・4・5…」





「何故正数を数えておる、貴様。」



俺は驚いて声がする方向…。

つまり、火球が飛来した上空に目をやった。

燃え上がる口の化け物に照らしだされながら、ゆっくりと一人の人物が降りてくる。



燃える様な赤い髪に、切れ長な目。


目尻には特徴的な隈取りが施されており、褐色の肌と合わせてオリエンタルな雰囲気を醸し出していた。


そして、女性的で淫靡な曲線を描くシルエットの美女―


そんな人物では無く、ただの禿げたジジイだ。




「…口が聞けるならば、先ず言うべき事があるじゃろうに…。」




理想と現実のギャップに戸惑う俺に、彼が声をかけて来た。


正論である。


いかに禿げたジジイとはいえ、命の恩人。

俺は向き直り、感謝を伝えようとすると―



ゴォッ!!



火球が、再び夜を裂く。




「!?」



俺は転がる様に左側に避ける。

横を通り過ぎた火球はそのまま後方の巨木に当たり、轟音をあげながら薙ぎ倒した。


…死ぬところだった…。



「…人間の子供かと思いきや、レッサーヴァンパイアとはの。

…大人しく灰に戻れ…。」



そう呟くと、禿げたジジイは再び杖を構えて俺を狙う。


不味い…!


何があのジジイの怒りの琴線に触れたらかは分からないが、明らかに俺を殺しにかかっている。


あるいは、あの見た目。


毛根と共に倫理観と、俺と言う超絶イケメンの美しさを敬う心を失ったのかも知れない。

しかし、そんな憐れな心のジジイでも、あの化け物を一撃で葬るジジイである。

逃げるなど到底不可能だろう。


…だが、俺は超絶イケメンである。

この事態から脱する術はあるのだ。





























「た、助けてくださぁぁぁい!!!僕は人間なんです!お願いします!靴でも舐めます!!何でもします!!見逃してぇぇ!!堪忍してぇぇぇえ!!家で病気の兄弟と両親と祖父母がランダバ躍りながら待ってるんですぅぅうぅぅ!!」













“命乞い”。



昔、手違いでヤクザの女に恋をした時にマスターした、俺の48の恋愛テクニックの一つである。


俺は人の女には手を出さない主義だが、あの時は女の方が黙っていた為、気付くのが遅れて、正に命懸けの修羅場だった。


そんな時に俺を救ってくれたのがこの命乞い。

命乞いする様さえイケメンである俺に、人は言葉を失うのだ。




「それを言うならランバダじゃろう。」




このジジイ…出来る。




だが、ジジイは大きく頭を振り、杖を下ろした。



「気が削がれたのぅ…。お主今、人間じゃと言ったな?

何故この場所に居た?」



フッ…。流石俺。

あの窮地から対話まで状況を改善してのけた。

もはや、俺のイケメン振りは北半球を駆け抜けるレベルであろう。


俺は今だに警戒を解かないジジイに対して、紳士に答えた。



「はい。そうです…。

この森の中で迷い、命からがらあの化け物から逃げて参りました。

自分の何があなたの御不況を買ってしまったのかは存じませんが、もし良ろしければ理由をお教え願えないでしょうか?。

謝罪をさせて頂くにも、理由を理解出来ぬままの謝罪程、無価値なものも無いですし…。」



これに関しては本心だ。


もしかしたら、このジジイはこの土地を所有している人物で、俺が気付かずにそれこそ命を狙うに値する様な失態を仕出かしているのかも知れない。


など、今の俺には無いのだから。



しかし―



「…本心で言うとる様じゃの。

まぁ、この土地はワシのものじゃが、お前さんの言う状況なら、過失と言える物は無い。

じゃが、は問題じゃ。」




…なる程。



幼く成ったとは言え、俺は空前絶後の超絶怒涛のイケメンである。

そのイケメンぶりは罪であり、彼はモテない男代表選手、禿げジジイ。

問題と言われるのも仕方あるまい。



「なんぞ下らん事を考えておる様じゃが、この鏡を見てみい。

ワシの言うとる事が分かるじゃろう。」



そう言ってジジイは俺に手鏡を渡して来た。

それを受け取り、俺は見慣れたイケメンを覗き見る。


白い髪に、切れ長な深い知性を感じさせる瞳。

幼く成ったとは言え、整った顔立ちは正にイケメン。



しかし―



「…目が黒い。」



黒い眼球―



深紅の瞳―



発達した犬歯―



病的な白い肌―


そこには、整った顔立ちの異形が居た。



「…モンスター転生モノか…。」



これまた異世界転生のテンプレの一つである。

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