一発ヤるまで。



俺は深い森の中をひたすら走っていた。

息も上がらない。

夜にも関わらず、昼と変わらず見渡せる。

周囲には、それこそ世界遺産に選ばれる様な木々がところ狭しと並ぶ。

全くもって現実感の無い状況だが、

俺の右腕の傷みが、これは現実だと教えていた。


―後ろから迫る、俺の腕を食ったあの醜悪な化け物が実在していると。



―死ねない―



それこそ、腕を失おうとも。



―死ねない―



例えこのまま永遠に逃げ惑う事になろうとも。



―死ねない―



どんな事があろうとも、それだけの理由が俺にはある。




「…死んでたまるか…!」




俺の昂った命への執着が、思わず口にでる。

そう、死ねないのだ。












「 あ の 美 人 の 姉 さ ま と い っ ぱ つ ヤ る ま で !!!!!!」












俺はそう叫ぶと、力強く踏み切って大きく前に跳んだ。



そう、俺は小川を探している時に、既にこの崖を見付けていたのだ。

幅10メートル近くは有った為、迂回して川を探していたのだが、今は非常事態である。



大きく飛び上がった俺の体は、放物線を描きそして―



「ッシャアッ!!!!!」



見事に対岸に着地した。

流石俺である。

崖を見付けた運。

それを逃走に使った機転。

整った顔立ち。


正に超絶イケメンである。



「これであの化け物も来れない…」



そう言いかけて、俺は絶句した。





「~~~~~~!!!」



俺は奴に背を向けて、再度走り出した。

奴が飛び越えられるかは分からないが、それを確認するのは愚策である。

飛び越えられると言う前提で逃走するべきだろう。


俺はまた最大まで加速










   し    て







       あ     れ   ?








ゴウッ!と言う音と共に、俺の体は大きく撥ね飛ばされた。


何が起きたのか理解出来ず、周囲を見回す。



「…の…野郎…!」



俺の目には木片が写った。

そう、俺を逃がすまいと奴は木を咬み千切り、それを俺に投げて寄越したのである。


木の腹に当たった為、致命傷には成らなかったのは不幸中の幸いだろう。



だが―



「グブブァァアァァア…」




奴の歓喜の声が聞こえる。

体はまともに動かない。




「クソッ…!」




ゆっくりと近付いてくる奴が見える。

その無数の口には、に対する愉悦と歓喜が浮かんでいた。



…イヤだ…。



死にたくない…。



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!



死にたくない!!死にたくない!!




「誰か助けて!!!!!」




俺は無駄とは分かっていても、そう叫んだ。

恐らく、自分に出来る最後の抵抗がそれしか無かったからだ。


しかしそんな抵抗も、奴の無数の口角を少し上げる以外の意味を持たなかった。



















ゴォッ!っと言う轟音と共に、夜の闇を切り裂きながら巨大な火球が飛来する。



「ウゴァバァァァアッ!?」



その火球は口の化け物に直撃し、あっけなくその命を焼き付くしたのだった。












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