チートの発覚と命の危機



凹んだ。


俺は凹んだ。


異世界転生…。

携帯小説のテンプレが自分の身に降りかかったのだ。

確かに、ブサメン・オタ充・スクールカースト最下位なんて人間なら、



「ブヒヒやったブヒよ!」



となるだろうが、生憎と俺は、イケメン・リア充・スクールカースト最上位である。

転生テンプレのチートハーレムは、リアルで経験済みなのだ。

そんなリアルチートハーレムから一変、こんな森林でちびっこに転生なんぞ、なんの旨みも無い。


魔法とかは興味深いが、現実を放棄するつもりなんて微塵も無かった。


特に、時雨に謝りに行けないのは俺としては結構なダメージだ。

友人としての付き合いは、中学二年からだからな…。



「あいつ…泣いてたよな…。」



平手打ちをくらう直前の事を思い出す。

やはり、惚れた女の涙に勝てる男など居ない。

なら二股も三股もかけるなと言う話だが、それはそれ。

これはこれ。


男は恋の宿命に生きるものだ。



「…よし、行くか!」



ひとしきり凹んだ後、そう言って俺は立ち上がった。


このままじっとしていても何も解決しない。

俺はゆっくりと歩き始めた。


普通の遭難なら、不必要に動かずにじっとしているべきなのだが、状況的に助けが来る訳が無い。

取り合えず川を探そう。

集落は、河川の周辺に作られるものだ。

川を見付けて河口に向かって歩く。

サバイバルの基本に乗っ取り、俺は川を探すのだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





歩きながら俺は、幾つか

さっきまで気付いて無かった事に気付いた。


先ずは視界だ。


時間は夜。周囲は真っ暗なのだが、俺は昼と変わらず見る事が出来ている。


更に、この姿になる前よりも遥かに視力が上がっているのだ。

意識すれば、1㎞先の羽虫が飛び立つ姿さえ見る事が出来る。



次に気付いたのは、身体能力の高さだ。

かれこれ2時間近くは歩いているだろうが、疲労感はまったく無い。

試しに全力で走ってみたが、全然疲れない上に、かなりの速度が出せる。


垂直に跳ぶと、3メートル近く飛び上がった。


さしもの超絶イケメンたる俺でも、ここまでの能力は持って居なかった。



まぁ、他にもチートはありそうだが、現状、確認する術は無いので、これくらいで納得しておく。


後は、髪が真っ白に成ってたり、着ていた服がブレザーから、麻で出来た簡素な服に変わっていた事ぐらいだ。


結構な変化だが、転生・幼児化に比べたら大した事は無い。


そんな事を考えながら歩いていると、



「ん?」



遠くから、微かに水の流れる音が聞こえる。

意識を集中させると、おおよその方向がわかった。



「よし!流石俺!」



まぁ、これもチートだろう。

そして俺は、その音に向かって歩き始めた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「やっと見付けた…」




俺が小さな小川にたどり着いたのは、あれから1時間近く歩いてからだ。


どんだけ耳が良く成ってんだ俺は。

だが、これで人里まで出れる。

今の体力なら、そう掛からずに。


そう思い安堵した俺は、少しだけ余裕を取り戻し、あの美女の事を思い出していた。



「ありゃあとんでも無い美女だったな…。」



そう、美女と言う単語では表せない程の美しさだった。

俺と言うイケメンを言葉で表すなら、超絶イケメンに尽きる。

超絶イケメンと言う言葉を辞書に載せた場合、意味の欄に“井上智也の事”と記せば良いレベルである。

だが、あの美女に当てはまる言葉は思い付かない。


正に絶世の美女である。




































あ、当てはまる言葉有った。






































まぁ、そんな細かい事はどうでも良い。

この世界に来てからだが、俺には確信が有る。

彼女は、この世界に居るという確信が。

リアルハーレムを失い、身長も失い、学歴と部活も失ったが、それでも彼女に会えれば元は取れると言うものだ。



「よし、絶対にあの美女を見付けたる!!」



俺は力強く、右腕を掲げながら叫んだ。


すると―















耳元で嫌な音がした。

まるで、プレス機で鶏を潰した様な生々しい音。

俺は、音の出所を探る様に、ゆっくりと上を見上げた。




「…!!!!!!」




そこには、が居た。

長い四肢で、樹上から吊り下がって居る肉の塊。

人体模型の露出した半身をグチャグチャに潰し、球状にして、無数の口を付けた様な異形。


“醜悪”


正にその一言に尽きる化け物。


そして、その無数の口の中の一つには、が―



「!」



何かを叫ぶよりも早く俺は走り出した。

チートだろうが、転生だろうが、そんな物はあれには関係無い。


あれは今の俺にとって、“死”以外の何物でも無いのだから。

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