これはいつかの日のお話

「お酒足りるかな?」

「足りなかったら買いに出るよ」


 駅前で待ち合わせして寄った近くのスーパーマーケット。彼は500ml缶のビールや酎ハイが何本も入ったエコバッグを当たり前のように私の前から奪い肩にかけた。

 ヒョロっとしてるように見えるけど実は筋肉質な体をしている。美容師ならではのシャンプーで出来た筋肉『シャンプーきん』だといつだったか腕を見せながら教えてくれた。


「明里はおでんの具で何が好き?」

「大根かなぁ。 あ、でも鞠ちゃんのおでんにはツブが入ってるらしいよ」


 北海道出身の鞠ちゃんに届く実家からの荷物には度々そういった珍しいものが入ってくる。


 楽しみだね、と私に贈る彼の笑みはとても子供っぽくて可愛らしいのだけど、スマートに荷物を持ったり、然り気無く車道側を歩いてくれたりする仕草は男らしくて、いちいち惚れ直してしまう。……くやしいから言わないけど。


「あっという間に家、明里


 残念そうに彼は呟いた。

 タイミングを逃しに逃した私たちは、この関係をまだシェアハウスの仲間たちに打ち明けられていない。

 特別な理由なんかはなく、ただ私の気恥ずかしさが邪魔をしてるだけ。


「ただいまー!」


 私の許可をゆっくり待つと言ってくれた彼の優しさにも幸せを感じている。


 やっぱりくやしいから言わないけど。

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