第109話 新約 赤ずきんの微笑み

 戒めとしては、母の言いつけを守りなさいという赤ずきんの物語を、子供ながらにどうにも違和感があって、気になって仕方がなかった


 おばあさんを丸呑みっていうのも、赤ずきんがおばあさんに化けたオオカミを見破ることができないのも、都合よく狩人がやってくるのも、お腹をハサミで開いた後、石を詰めてそれに気づかずにオオカミが溺れ死ぬのも


 何一つ納得がいかない!


 という感覚を持った人は、こうして自ら物語を紡ぐようになるのかもしれません


 太宰治がカチカチ山や舌切り雀、瘤取り、浦島太郎の物語を自分なりに解釈して書き直したように、僕もカチカチ山や赤ずきんの物語を違う形で自分の作品として書いています


 多くの物語がいろんな人の手によって改変され、その時代や、その時代を生きた人の人生観や価値観が反映されていくというのは、物語が未だに生きていると言えなくもない


 赤ずきんはどうして人の気を引くのか

 一つには少女と赤というある意味ありがちで普通な組み合わせにも関わらず、森の中を1人で歩くその姿にはどこか妖しげで禁忌に触れる危うさのようなものを感じてしまう


 中世ヨーロッパではオオカミは悪の象徴であり、魔女と並んで悪役としては有名である、他にキツネや継母というのもあるが、それらを圧倒しています

 ちなみにオオカミ男の歴史はギリシャ神話にまでさかのぼり、ゼウスの怒りをかったリュカオーンがオオカミ男の姿に変えられたというのがあります


 僕はどうしたって赤ずきんに出てくるオオカミはただのオオカミではなくオオカミ男に違いないと思ってしまう

 だって、しゃべるんだから・・・まぁ、そのあたりは良しとしても、オオカミの目的はおばあさんを食べることよりも若い赤ずきんを食べることであったのであれば、物語としては、残酷であっても、おばあさんの身体をバラバラにして血を瓶に入れるという行為は至極正しく思えるのです


 狼は道端で赤ずきんを襲うことはできたでしょう

 しかしその場合、抵抗を受けてせっかくのご馳走が痛んでしまうかもしれません

 服を脱がして裸にしたほうが、きっとおいしく頂けたのでしょう


 そう考えるとペローが余計なことをしたようにしか思えないのですが、いやいや、それではあまりに救いがありません

 ですからある作家は、ここに狩人を登場させて、オオカミを退治させるのですが、赤ずきんを救うことはできず、悲嘆にくれるというお話を作るのですが、これはこれで、助けに入った狩人も救われません

 ペローもグリムをそれぞれの立場で、物語をより多くの人に楽しいでもらおうとした結果が今の赤ずきんであり、今どきの児童書では、オオカミは溺れているところを助け出され、もう悪いことはしませんと改心するそうです


 いやはや


 アメリカあたりの法律では、子供を危険な目に合わせた親が罰せられます

 現代の赤ずきんは、果たして何を戒めとし、誰が罰せられるのでしょうか


 僕としてはこの一件をきっかけに、狩人は赤ずきんの命の恩人だと、度々家に招いては、赤ずきんをおばあさんのところに使いにやって、あんなことや、こんなことになったところに旦那が帰ってきて、狩人に飛びかかったところを、お母さんが花瓶で頭を殴りつけてうっかり殺してしまい、さてどうしたことかと、考えた末に、オオカミがやったように見せかける


 赤ずきんが変えると、父親の葬儀が行われ、狩人はオオカミをいよいよ成敗して新しい赤ずきんの父親となりましたとさ・・・めでたしめでたし


 とはならず、そのことに気付いたおばあさん、息子の仇を取るために赤ずきんをそそのかし、毒の入った果汁酒を二人に飲ませ、本当のことを言ったら命だけは助けてやると狩人を問い詰め、いよいよ事件の真相に迫ります


 しかし運命の悪戯か、おばあさん、そこで持病の発作が発症し倒れ込んでしまいます


 母親はおばあさんが解毒剤をどこに隠しているのかを尋ねると、赤ずきんはにっこり笑って言うのです


 わたし、ぜんぶ知っているわ


 だから、この解毒剤は狩人さんには飲ませるけど、お母さんには上げないわ


 と言って、気を失いかけている狩人に解毒剤を飲ませ、母を苦しいで絶命します


 赤ずきんは狩人を看病し、母にも飲ませたが助からなかったと嘘をつきます

 そして二人は仲良く暮らすのでした


 酷い話ですが、こっちのほうが、面白いですよね


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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