第108話 啓蒙思想と赤ずきん

 赤ずきんは食べられ、そこで話が終わっていた


 ずっと気になっていた違和感は簡単に解決されてしまいました

 どこのだれが書いた解らない赤ずきんの物語は、そもそも赤いずきんも被っていなかったとなれば、シンプルにお母さんの言いつけを守らないと酷い目に合うよというお話だったことが分かります


 さて、ここでシャルル・ペローという人物が登場します

 ペローはフランスのルイ14世の病気快癒を祝う称詩「ルイ大王の御代」のなかで、”ルイ14世の治世は、古代ローマのアウグストゥスの時代をしのいで優れている”としたのだが・・・


 17世紀後半から18世紀にかけてヨーロッパでは啓蒙思想が主流となり、古代ギリシャ人の精神は、封建社会の現在に比べて政治や宗教といった様々な権威に囚われずに自由で自然で知に寄りっ沿った生き方をしていたと主張する知識人たちとペローら今日の反映こそ最盛であるとする派閥と真っ向から対立した”新旧論争”はその後100年の命題となるわけです


 一方ペローはヨーロッパで語り継がれた民間伝承を集めて、子供たちでもわかりやすいように編集し、その中に赤ずきんの物語が収録されているのですが、主人公に赤い帽子を被せたのがペローなのです


 民間伝承では主人公をだましてオオカミが先回りをしておばあさんを食べてしまうのですが、丸呑みではなく、肉をちぎり、滴る血を瓶に入れ、あろうことかそれを後からやってきた主人公に食べさせたのでした


 これってカチカチ山と一緒で、僕が最初に聴いたお話はおじいさんに捕まってしまったタヌキがおばあさんを言いくるめて縄をほどかせ、かわりにおばあさんを殺しておじいさんに食べさせるというのと似ていますね


 でも、子供やサロンで語るにはあまりに下品ということで、ペローはこれを削除したそうです

 他にもおばあさんに変装した狼が赤ずきんに服を脱がせて暖炉で焼かせるとか、裸でベッドに入るとか、そういったシーンが削除されました


 しかし赤ずきんは助かりません


 赤ずきんを助けたのはグリム兄弟でした

 皆さんが良く知る赤ずきんの物語は、狩人の登場によっておばあさんも赤ずきんも救われるというストーリ


 フランス人のペローが現在の封建制の中での繁栄を良しとする側だとすれば、ドイツのグリム兄弟はどうであったのか


 ここでキーワードになるのがユグノーです

 歴史の授業を思い出してください

 ユグノーとはいわゆる改革派であり、フランス革命とはユグノーの存在なしには語れません

 グリム兄弟はドイツの民間伝承の取材もとをグリム童話を編集したとしていましたが、実はフランスのユグノーが大きく関わっていたことがのちの研究で明らかになります


 なるほどそうなれば、赤ずきんの物語もまた違って見えてきますよね


 単純により読みやすく庶民的な作品にしたということでしょうが、その奥には死からの再生、オオカミと言う人をだまして利益を得るような悪に無垢で無知な赤ずきんは食べられてしまうが、狩人という共同体的社会から距離を置いて自立している存在によって救われ、ともに悪を倒すというストーリーは、当時のヨーロッパの在り方を象徴しているようにも見えるのですが、これは妄想が過ぎますかね


 今回は社会学的な観点から赤ずきんを紐解きましたが、このお話、もう少しお付き合いください


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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