第87話 雷様にへそを取られる

”お腹を出して寝ていると雷さんにおへそをとられるよ”

 そんなことを子供たちに言い聞かせて、まさかあんなに怖がるとは思っていなかったのですが、僕も小さい頃は雷が怖かった


 雷がどういう自然現象で、音と光とで位置が近いか、遠いかがわかるとか、そんな話をすると、上の子は少し安心するも、下の子には理解できなかったようで、ただただ怖がっていた。


”誰だって、理解できないものは怖いのである”


 父親が何故あれほどまでに激しく叱るのか、僕には理解できないでいた

 だから母親の影に隠れていたし、そんな僕をかわいそうに思ったのか、母は僕に寄り添ってくれた


 弟の存在が、僕を奮い立たせ、弟を叱り付ける父の間に入って

 ”どうしてパパは、弟ばっかり叱るの”とかばっていたそうだ

 昔のことをよく覚えている僕ではあるのだが、残念ながらこの記憶は果たして自分の記憶なのか、大人から聞かされてそれを自分の記憶として覚えてしまっているのか、まるで区別がつかない


 それはきっと勇気や愛情などというものではなく、自分にそれが向けられるときの理不尽さを、ここぞとばかり言い返していたのではないかとも思うが、それも定かではない


 10歳を過ぎたころ、父はまるで怒らなくなった

 もちろん以前に比べてというだけで、まったく怒らなくなったわけではないが、そのころには普通に会話が成立していたのを覚えているので、恐怖心は亡くなったのだと思う


 逆に僕は母親に叱られるようになる

 それは部屋を散らかしっぱなしにし、心無い悪戯をし、時にあれを買って、これが食べたいと駄々をこねたりしたからであるが、一度、本気で怒られたことがある


 それは火遊びだ


 近所に同年代くらいの友達ができ、その子の住んでいたのはアパートで、僕はそこでマッチを見つけ、ゴミを拾ってはそれを燃やして遊んでいた


 本当に危ない遊びだった


 ついにそれが向こうの親にばれて、ちょっとした問題になった


 烈火の如く怒られ、火のついたマッチを熱さが感じるほど近くに寄せてすごく怖い顔をしながら「あなたは二度と火を使っちゃ駄目!」と怒鳴られた


 当然と言えば当然なのだが、父親に怒られ慣れていた少年の頃の僕は、母親にそこまで怒られたことがなく、かなり堪えた


”火遊びはこりごりだ”と子供ながらに、いや、子供だからこそ思った


 しかし、やがて雷も火も、僕にはそれがどういうものであるかということを学び、恐怖を克服する

 19になって煙草を吸うようになり、やがて子を持ち、これはしっかり叱らなければならないと思った時に、思わず火を使って同じような叱り方を子供たちにしてしまった


 ああ、暴力としつけは紙一重で、これが過ぎると”ただ恐怖を与えただけ”になるのだと理解した


 なるほど、地震雷火事親父というが、もしかしたら、地震ではなく”自身”だったりするのかしら


 もちろん地震は恐ろしいのだけれどもね


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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