第86話 白い蛇とガキ大将と

 トラウマ、心的外傷、PTSD(心的外傷後ストレス障害)


 身体は痛みを感じることで、危険から身を守ろうとします

 もちろん痛み以外にもかゆみ、熱い、冷たいもこれに含まれます


 同じように心も危険から身を守るためにそのような機能が備わっているのではないでしょうか


 専門学的なことは置いておいて、それは躾であったり、社会道徳であったり、スポーツや武道の訓練であったり、ごく身近な例を挙げても枚挙にいとまがないでしょう


 例えば蛇が怖いというのは、痛い目に合わなくても、毒がある危険な生物であると知っているからとなるのでしょうが、ほとんどの蛇が嫌いな人は”毒があるから”ではなく、真っ先に”気持ち悪いから”となるのではないでしょうか


 一方で世界中に蛇神信仰があり、同じように蛇を邪悪な存在であると畏れる信仰もあります

 無意識のうちに人が蛇を嫌う理由を考えることも、実に興味深いテーマではありますが、今回は”心の傷”というものに注目してみたいと思います


 僕はこの件に関して、なんら専門的な学問を収めているわけではありませんので、そのあたりは異論反論はあるでしょうが、まぁ、膝を崩して、僕とお酒を飲みながら昔話に花を咲かせるような、いや、しっぽりと懐かしむような姿勢で耳を傾けて頂ければと思います


 僕が怖いと思う物――地震、雷、火事、おやじ


 特に幼少のころは父親というのは恐怖の存在でありました


 昼間は家にいないのに、帰ってくるなり何か怒られる

 そんなイメージがあったのは確かなのです

 もちろん何の理由もなしに怒られるわけではなく、子供は子供らしく振舞った結果として、それはダメだと強く叱られます


 昼間、母親は幼い弟の面倒を見ながら、僕と遊んでくれます

 僕は弟が可愛くて仕方がなく、母と一緒になって弟の世話を焼きますが、弟はまだ片言しか話せないので、僕は外に遊びに出かけます


 近所に同い年の友達もいなかったので、もっぱら原っぱで虫取りをして遊ぶのが日課でした

 家のすぐ前のどぶ川で、ザリガニを取ったりすることもありましたが、あそこは危ないから一人で行くなと言われていたし、雑木林の中にも入るなと言われいました


 時々近所のガキ大将がその雑木林にカブトムシを取りにやってきます

 僕はそれを羨ましそうに眺めるのですが、仲間には入れてもらえません

 まだ3歳だった僕は、小学生から見たら、それはもう足手まといに他なりません


 時々小さなカブトムシやクワガタをくれますが、それはやはりメスでした


 ある日、彼らが大騒ぎしているのを見て、興味津々近づいてみると体調2メートルは超えている白蛇を長さ1メートルほどの木の枝にひっかけて雑木林の中から林道に持ち運んできているところでした


 白蛇はおとなしく、攻撃的な素振りは見せませんでしたが、僕はとても怖くなりました

 恐れと言うよりは、畏れでしょうね


 蛇神なんてことは知識として持っていなかったのに、あの白い蛇の禍々しさというか畏怖というのは、直観的に僕の心に”触れてはならないもの”という認識を植え付けました


 もしかしたらそのあと、家族にその話をして、白い蛇は神の使いだから、そんなことをしたら罰が当たるといった話を聞いたのかもしませんが、いずれにしても僕は蛇が苦手な子供として育ち、大人になった今でも、できれば近寄りたくない存在であり、夢の中で時折、怖い目にあります


 何も危害を加えられなくても、直観的にそれが苦手と思う意識


 これはいったい、どこから来るのでしょうね


 さて、その後、そのガキ大将がどうなったかは知りませんが、僕がその場所を引っ越すまでの約1年の間、もしかしたら、見たことがないのかもと、そんなことを思い出してしまいました


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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