第53話 大切な人はベンジャミン
ドロンジョ様と何がきっかけでいろいろ話すようになったのかは覚えていない(いや、嘘――でも覚えてないことにする)のですが、恋愛相談というよりは、恋愛遍歴を酒の肴にして楽しく飲むようになりました
この50を数える”問わず語り”のネタや、そうでない話もあるのですが、コンビニのお姉さんのことや、前回から語っている10代の甘酸っぱいこと、そして今、僕がとても大切にしている人のことについても
その大切な人に、僕は心を惹かれています
それは家庭を捨てて一緒になろうとか、裏でこそこそしようとか、一夜限りの過ちだとか、そんな話ではありません
彼女と出会ったのは、今はもうなくなってしまった、あのたまり場――カラオケバーで出会い、意気投合してLINEで繋がったものの、半年近く連絡はとりませんでした
でもある日、ふと、思い当たって彼女を食事に誘いました
その時いろなん話をしてわかったことは、彼女が僕にとって知的好奇心や創作意欲を刺激するミューズなのだということ
何を思って、食事に誘ったのか――それは馬鹿騒ぎじゃない落ち着いた席でゆっくり話してみたい、そういうことを随分長いことしてないなぁという程度の軽い気持ちだったのですが、もうひとつは、やはり無意識の”予感めいたもの”が僕をそうさせたのだと思います
後にそれは証明されるのですが、彼女は僕に恋愛相談をするようになります
恋愛というよりは、婚活のアドバイス
彼女が今までどんな恋愛をし、どのくらい傷ついて今に至るかを聞かされます
僕はその話を聞いてなるほどなと思うのです
なるほど、彼女はそうだろう
そして、僕もそうなのだと
彼女は知に偏り、曲がったこと、非効率なことを嫌う
好奇心が旺盛で、楽しい時は良く笑い、ときに羽目を外しておどけて見せる
”頭から水をかけてやったわ”
彼女に言い寄って関係を持とうとした男性がどうなったのかを、初めて会った時に聞かされた
彼女は何でも話を聞いてくれそうだからと、僕を簡単に玄関口には入れてくれない
僕が執筆している1900年ころのドイツを舞台にした作品があります
当時の生活風景がどうもイメージできなかったので、その時代の美術展でもやっていたら観に行きたいという話をしました
すると彼女から”日帰り、車はNG”などと条件を出されたというか、出してくれたというか
警戒されてうれしがるのもどうかと思いますが、”いい人属性”に慣れてしまっている僕にはとっては、”こういうのも悪くないな”と思ったのでした
そしてまたなんともグッドタイミングでこの時、ミュシャ展が国立新美術館で開催されていたので二人で行こうということになり・・・
約束の日、待ち合わせ場所になんと彼女は着物姿で現れたのでした
”今日の髪型素敵だね”とか”そのバッグ可愛いね”とか、その程度のことは引き出しに用意していたのですが、これはもう想定外が過ぎます
驚き慄く僕の様子を彼女は愉しげに、そして少しはにかみながら観ている
鳩が豆鉄砲を担いで電線の上で小躍りしているような
ベンジャミン伊東に鞭打たれた気分です
では、また次回
虚実交えて問わず語り
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