第52話 恋の干物と友達以上恋人未満

 無意識に気づくというのは、それはもう意識してしまうわけですから、無意識な状態でのみ存在しえた気持ち――水の中の魚を陸に上げるがごとく、とても苦しい物なのです


 さて友達以上恋人未満の彼女とは実のところ、一度付き合って見ようか?

 と僕から一度持ちかけたことがあります

 でも半年も断たないうちに僕から”やっぱりやめよう”ってことになりました


 意識して付き合おうと思ったら、どうにもギクシャクして、その原因は別れた彼女が忘れられない情けない自分がいたのです


 ああ、本当に酷い奴だ


 それで関係をもとに戻すことにして、気持ちをまた無意識の底まで沈めたのです

 関係はもとに戻りました

 でも、しばらくたったある日、彼女から「彼氏ができた」と連絡がありました


 一度だけ、彼女と彼と三人で会ったんだけれども、まぁ素敵な彼でしたよ


 そういえば、僕は次の大失恋のときも、彼女の次の相手と対面することになったんだよな・・・これはこれで、なんだか情けない話ですが、それはさておき


 僕は彼女がやはり好きだったという無意識を心の奥底から引っ張り上げて日干しにして保存食にしました


 先にあった大失恋のときも僕は彼女に相談をして気を紛らわしていたのですから、それは恋の干物みたいなものです


 そんなわけで僕は、自分で見つけた恋に破れ、途中で気付いた無意識も不意にし、青春を過ごしてきました

 ”もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対”となるまでにどれだけの時間を費やしたことか


 そして今、また同じことを繰り返そうとしている


 ドロンジョ様をキーボードに迎えた初めてのライブ

 途中、演出でヴォーカルのジュリーとドロンジョ様だけステージに残してピアノ独唱という場面がありました

 このステージ、今までの中で最高に気持ちが載ってプレイもよかったので、なんだか一度ステージから降りてしまうと、テンションが下がってしまうような気がして、ドラムセットに身を隠す形で座り込み、その場に居座ってしまいました


 これは意識してやったことです


 でも、演奏が始まり、ジュリーの伸びのある通った歌声とドロンジョ様の奏でる鍵盤の音がステージから溢れ出した瞬間、自分はその場に残ったことをとても後悔するのでした


 意識と無意識が交差します――僕は疑いました


 僕の無意識が、この二人だけの世界を拒んだのではないかと


 一度、意識に上った無意識は、干物にするしかない

 でも釣り上げた獲物は、干物にできるような代物ではなく、陸に上げると腐って異臭を放つ謎の深海生物だったのでした


 その謎の深海生物の正体とは・・・


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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