第48話 団地妻の本番
恋をする人を見るのは楽しいと、僕はそう思います
団地妻ギタリストがヴォーカルのジュリーに恋をしているのなら、暖かく見守ろうじゃないですか
バンドのキーボード女子がヴォーカル男子やギター男子とできちゃうみたいな、そういう青春を体験したことないですからね
ドラムの僕としては、そういうのを応援しないまでも、暖かく――中年的には生暖かくかな?
見守るくらいは、楽しくできます
いえいえ、別に大意はないですよ
本当に楽しいのです
大人のレクリエーションとでも言うんですかね
しかしまぁ、僕自身、大人になっても相変わらずそういうことには奥手というか、気後れをしてしまいます
だからこそ、バンドではドラムやベースを担当してきたともいえますかね
人それぞれ収まりの良い場所というのがあるんです
僕はベースやドラムのポジションにいて、裏でこそこそするのが好き
人前で誰かを好きだと叫んだり、抱きついたりだとか、そういうことをするよりも、好きな人を遠目で見守りながら、時々何かの勢いで触れる指先にドキドキしたりするのがよいのです
なんてね
いやいや、ヴォーカルを担当したことも、ギターを弾いたこともありますよ
僕だって前に出たいとき、ここぞっ! て時ははりきります
でも、そういう時は、たいてい張り切りすぎで失敗します
そして嗚呼、やっぱりこの場所が居心地がいいやって、なるわけですな
本番当日、まぁ、皆演奏前からテンション高くて、酒飲んで騒いでいたくせに、ステージに上がると、いきなりトラブル
団地妻のギターの音が出ません
僕からは見えていました
彼女が自分シールドを踏んづけて、ギターから外れるのを
団地妻は張り切って、お面を被って登場したので、いつもよりかなり視界の悪い状態だったんですね
ステージには魔物がいるといいますが、まぁ、この場合――
飛んで火にいる水の音 蛙飛び込む夏の蟲
とでも言いましょうか
正直初ライブは、いろいろと上手く行きませんでしたが、そこは大人です
動揺も笑いに、笑いを力に変えて乗り切ります
このメンバーのステージ度胸すげえぇ
そして団地妻ギタリストのジューリーを見つめる目が、本当にきれいだった
いつか自分も、誰かにそういう目で嘘をつかれたい
では、また次回
虚実交えて問わず語り
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