第37話 孤独を独り占め

 孤独な奴ほどよくしゃべる

 集団の中にあって、彼は人当たりがよく、おおらかで、穏やか

 話しかけやすく、声を荒げるようなことも、ものにあたるようなこともしない


 だか、彼は孤独なのである


 彼の笑顔は自己防衛のためであって、心の底から笑っているわけでも、微笑を振りまいているわけでもない

 人を信用することもなければ、信頼されているわけでもない


 浮いているのではないが、漂ってはいる

 落ち着き払っているようで、内心は常に何かに怯え、気がかりなことが絶えない


 彼はいつも魂と身体の不一致を感じ、おぼろげな不安を常に傍らにおいている

 解決の糸口は見えず、後戻りをすることを嫌がり、遠い未来には興味がない

 

 不安な明日が毎日続くことを望んでいる

 そして何事もなかった今日に安堵し、何かあっても問題は時間が解決してくれると知っている


 そんな生き方をあなたは否定しますか?


 しかし、彼にアドバイスは不必要なのです

 彼は世界が今よりも良くなることを望んではいないし、世界が広がることも、世界が病むことも、世界が狭くなることも、世界が明るくなることも暗くなることも、変化することも、硬直することも


 彼の望みは、ただ、孤独であることなのですから


 多くの人は彼の孤独を近寄りがたいものだと想うのでしょう


 でも、僕は彼の孤独がときにうらやましく思えます


 彼は僕らが地や血や値や智や痴に縛られているのに対して、彼を縛るものは孤独しかないのです


 孤独になろうと思ってもなれない人の、なんと多いことか


 彼は孤独を独り占めしているのだから、僕はそれを悲しいことや、虚しいことや、残念なこととは思わない


 僕は人の孤独に触れて、少しだけうらやましく思い、そして自分の孤独を愛でる


 僕が 一番 孤独と うまく 付き合えるんだ


 機動戦士のパイロットよろしく、僕は他人の孤独を羨んだり、疎ましく思ったりはしないのです


 出入り自由の孤独という名のシェルター


 あなたもひとつどうですか?


 それではまた次回

 虚実交えて問わず語り

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