第33話 埋まらぬギャップと仮面貴族
50歳という年齢で”世代”という言葉を口にするとき、それはやはり大人の立場で、上から目線で、若者を諭すような、あやすような、なだめるような、挑発するような、そんな態度を状況に応じて使い分けている
そんな印象を与えてしまいがちですかね
昔話をもとに、今を嘆き、未来を憂う
いやいや、そうじゃないんですよ
僕が言いたいのは、もっともっといい訳じみたことです
50になってわかったことは、いくつになっても自分はまだぺぇぺぇのひよっ子だってことです
喜ばしいことが、残念なことか、僕の諸先輩方はめっぽう元気でしてね、僕なんかが若者に先輩風を吹かそうものなら、上の方から”お前が偉そうに何を言う”と頭を叩かれるわけです
何年、いや、十年以上も前のこと、僕はある人気プロレスラーの引退試合を観にいった――仮面貴族/千の顔を持つ男ミル・マスカラス
日本では入場曲『スカイ・ハイ』も人気があり、最も有名なメキシコ出身レスラー、いやザ・デストロイヤー、アブドーラ・ザ・ブッチャー(*1)などの名悪役外国人レスラーの人気をもしのぐ知名度だろう
マスカラスは1942年生まれで現時点で75歳
普通に考えたら現役レスラーであるはずもないのだが、尚、健在である
僕が観にいった”引退試合”というのは、もうその頃の時点でお約束というか、”これで日本での試合は最後だ!”みたいな興行は、おそらく何度もあったのではないだろうか
まるで閉店セールをやった次の日にはオープンセールをやっているジーンズ専門店のごとく、彼はずっと現役として活躍をしている
ローリング・ストーンズも老いて尚、ロックンロールであり続けているし、ザ・フー(*2)も何度かの活動休止、解散を経て尚、ロックであり続けている
映画『エイリアンシリーズ』をはじめ、未だに話題作を撮り続けているリドリー・スコットは80歳である
スピルバーグもルーカスも70を越えているし、ハリソン・フォードも75歳だ
僕が見ている時代的景色は、上を見ると寂しくはなってきているが、尚健在であり、そこには埋めることのできないギャップが存在する
しかし、このギャップは埋めきることはできないが、詰めることはできるのかもしれないのだが、彼らはまるで立ち止まろうとはしないので、どうしたって長期戦を余儀なくされる
逆に下をみるとどうだろうか
僕を含めて、この世代の歩みは、すでに下の世代の射程圏内に入っているのではないだろうか
僕が”若い世代”と呼ばれていた頃は50歳は折り返し地点、中間地点ではなく、限りなくゴールに近い――スタジアムの大歓声の中、あとトラックを一周すればゴールテープを切ることができる位置だと思っていたのに、42.195キロで設定していたマラソンコースは、いつの間にか50キロにも70キロにもゴール位置が先に延ばされて、まるでたどり着く気がしない
終わらないレースなんて素敵じゃないか
そう思えるマインドを持っている奴が生き残る
そういう時代になったってことを、人はもっと自覚すべきじゃないかな
レジェンド《伝説》と呼ばれる偉人、スーパースターたちはすべからく、才能があり努力の天才ではあるが、それ以上に”自分自身を楽しむ天才”なのだと僕は思う
世代のギャップを認識することと、それを理由に何かを諦めたり、何かを放棄したり、蔑(ないがし)ろにするというのは、楽しみ方としてはどうなのだろうか?
僕はまだまだ、この先の景色にわくわくしていたいし、先人の武勇伝を酒の肴に夢を語りたいし、若いドリブラーが僕をスピードとテクニックで抜き去ろうとしたら、読みとマリーシア(*3)でそれを阻止してポジションを確保する
しぶとく、ありたい
ではまた次回
虚実交えて問わず語り
注釈(*1)人気外国人レスラー
ミル・マスカラスはベビーフェイス(いいもの)で他にはザ・ファンクス(ドリー・ファンク・ジュニア&テリー・ファンク)が有名(マンが『キン肉マン』のテリーマンのモデル)
悪役は四の字固めのザ・デストロイヤー、黒い呪術師アブドーラ・ザ・ブッチャーのほかに上田馬之助との極悪コンビで有名なタイガー・ジェット・シンがいる
注釈(*2)ザ・フー
ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクスにザ・フーを加えて『イギリスの4大バンド』と言う
バンドとして現在も存在しているのはフーとストーンズだが、フーはドラマーのキース・ムーン、ベースのジョン・エントウィッスルがすでに他界し、ヴォーカルのロジャー・ダルトリーとギターヴォーカルのピート・タウンゼントにサポートメンバーを加えて現在も活動中
1983年に一度解散したが、その後、イベント限定、ツアー限定で再結成をし、現在に至る
注釈(*3)マリーシア
ポルトガル語で「ずる賢さ」を意味するブラジル発祥の言葉
「駆引きを行い試合を優位に運ぶ」ことで、時間の使い方、相手を自由にプレイさせないためのルール内での手や身体の使い方やルールを最大限に利用した「危ない場面ではファールで相手を止める」などもこれに含まれるが、”隠れて反則すること”や”キーになる選手に怪我をさせること”とは意味が違う
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