第31話 リアルな現実と延髄斬り

 若すぎて何だかわからなかったことが、リアルに感じてしまうこの頃でございます


 僕は理不尽なことにあったことが少ないのかもしれません

 いや、他人から見たら理不尽に思えることも、僕は受け入れちゃうところから始められちゃうので、反発はしないんです

 でも、疑問は持ちます

 そして答えをあせらず待つことができます


 僕が過ごした中学生時代というのは、3年B組熱血教師が髪を振り乱して生徒を叱咤激励するドラマの裏で、アントニオ猪木がタイガー・ジェット・シンの腕を掴みながら『折るぞー!』と叫んでいる姿(*1)に興奮しながら、すっかり荒れてしまった学校の中でいかに正気を保つかということが、重要な課題でありました


 大好きな女の子とできるだけ長い時間一緒にいたいだとか、誰よりも早く最新の洋楽情報をラジオで聴きたいとか、マイベストセレクトのカセットテープを作りたいとか、そんなことが大事であって、学校で起きる”大人の事情”や”言っていることとやっていることが違う”とか”都合が悪くなると規則や常識で逃げる”とか


 そんなことはどうでもよかったのです


 ”生活というウスノロがいなければ”

 ”先生あなたはか弱き大人の代弁者なのか”

 ”ライオンやヒョウに頭を下げてばかりいるハイエナ”


 そういうエッジの効いた言葉がキャッチーなメロディや小気味良いビートに載って、僕らのハートに届けられ”わかった振りして格好良く振舞う”ように仕向けられたというか、仕向けてもらったというか……


 そうした言葉たちも、ジョン・レノンやボブ・ディランやボブ・マリーといった先駆者の影響下された次の世代によって紡ぎ出されてきたのだと思います


 ”ロックンロール!”

 とりあえずは、それを合言葉や呪文のように唱えて、大人たちを冷めた目で見ていたのです


 本当にちんちくりんだ――今でいう中二病でしょうかね


 一方で、僕らはあの頃の大人のように、若者たちにとって理不尽な存在であり続けているだろうか?


 僕らは上手く”大人”を演じることができているだろうか?

 やたらとインスタ映えする写真をアップして若者に媚びてはいないだろうか?

 ニヒルを気取るよりも『いいね』を稼ぐことに躍起になっていないだろうか?


 ロープに振られたら必ずかえって来るのっておかしくない?

 プロレスが嫌い、苦手という人たちから、よく指摘されることです

 ”わかってないなぁ。風車の理論だよ”

 この会話が通じる時代はもう終わったのかもしれません


 空手チョップ、ドロップキック、ブレーンバスター、四の字固め、コブラツイスト、インディアン・デスロック、卍固め、延髄斬り、腕ひしぎ逆十時


 ロックもプロレスも手を変え品を変え若者の心を掴んできました


 ブルース、ロックンロール、ロカビリー、アートロック、フォークロック、ハードロック、へビィメタル、パンク、レゲエ、クロスオーバー、プログレッシブロック、グラムロック、テクノ、フュージョン、ニューウェイブ


 今は昔――そこに何層にも重ねられた時代感が存在し、系譜がながれてきましたが、さて、これからの時代というのは、若年層から高齢層まで気が遠くなるほどふり幅のある”時代感”とともに我々は生きていかなければなりません


 50歳でまだ、人生半分だなんて、聞いていなかった!


 今を楽しめない人に、これから長い道のりを、どうして楽しむことができるだろうか


 さて、この言葉をキリギリスが言うのか、アリがいうのかで、受け取り方が変わるものなのかどうか


 世の中の価値観は、今までどおりとは行かなくなってきていると、僕はそんな予感でお腹が一杯です


 カテゴライズ(ジャンル分け)の時代からインディックス(大量データの効率的活用)の時代へ


 老いも若いも男も女も、関係がなくなるのではないでしょうかね?


 いや、散々景色が違うとか言っておいて、なにそのまとめ!

 だから大人って!


 と思っていただければ幸いです

 あっ、別に最終回じゃないですからね……まるっと1ヶ月記念ではありますが


 ではまた次回

 虚実交えて問わず語り


注釈*1

『3年B組金八先生』は1979年放送開始、悪役レスラーのタイガー・ジェット・シンが活躍したのは1973年(新宿区の路上でアントニオ猪木と倍賞美津子夫妻を襲撃)なので、時代性は少しずれています

この頃のヒールはスタン・ハンセンであり、悪役というよりは圧倒的な強さを持つ敵役(得意技:ウエスタン・ラリアート)

その後1981年にタイガーマスク旋風となる

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