2節

ある時、そのおじさんが落ち込んでいるときがあった


みんな帰ってしまって徹夜する社員と警備の人のためだけになった食堂

おじさんと俺だけでちょっとした残業をした後に食事することになった

でも、作業中からおじさんは元気がなかった

いや、病気の類ではない、心労というか、何かはきはきした感じがなかった


何か悩みがある

そう直感が告げている



そういう話に巻き込まれると大概危険・・・

経験上大体そうだった

もっと子供の頃俺は貧乏くじを引いてきた

そういう人間の察知するものは、、、危険・・・


「だけど・・・」

放っておけないんだ


最近こんな気持ちになったことあったっけ・・・

また貧乏くじ引くのかな・・・

いや、、

いいんだ、この人なら・・・


「あの、、、なんか、あったんすか?」

極めて平常心で聞いてみた


「うん、、、」

おじさんはちょっと曇った顔で答える

どう答えていいか逡巡しているようだった


「それがさ、あの、、、斎藤さんいるでしょ?」

「はい」

正直嫌いな人だ、いいことも言うけど説教臭くて、、、

 ああ、まあ今はいいか・・・

「動脈瘤があるらしいんだ・・・」

「え・・・」

「すぐ処置しないといけないらしい」


何となく、ちょっと反省したい気持ちにもなる

、、、まああんだけいつも怒ったりイライラしてる人だもんな・・・

 とも思う、いや、バチが当たったとかの感情はないよ、そこまで嫌いじゃないし


「他の人には言っちゃだめだよ」

「もちろんです、はい」

「あの人もさ、相続とかの事で昔親族とやりあったらしいんだよ」

「しかもニ、、、フリーターの中年息子もいるし」

「・・・」


お金がない

ということ


耳が痛くなる部分もある・・・

でも、ちゃんとこの話は受け止めないといけない、と思う


「俺さ、思うんだ、多分あの人は募金みたいなことしても逆に怒るだけだって」

「そう、、ですね」


まさにそう思った

・・・でも


「何か、考えましょうか」

「うん、、、何かいい案ないもんかねぇ・・・」


親族がそういう手術をしたことがあって150だか200万かかるとか

 聞いたような気がする

冠動脈かもしれないけど、まあ大掛かりな手術なら値段も似ているかもしれないし


会社をクビになって(多分だけど)こういうところで働く人にはつらい値段だろうな

もしかしたら保険とか、、、借金とか、当てはあるのかもしれないけど・・・

でも・・・


2人して人のいなくなった食堂で同じ顔をしている

気がした

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