セピアスピア

イ「あれ? グロキアさん

  どうしたんですか、そんなに急いで」

グ「ああ、お前か 別に大したようじゃない

グ「実家からの荷物が、親父の勘違いでここに届いちまって

  非番の日に急遽呼び出されたってわけだ」

イ「へえ、ご両親からですか?」

グ「ああ、俺ももう30になるってのに

  いつまでも世話を焼こうとする、困ったもんだ」

イ「いいことじゃないですか、心配してくれてるんだから」

イ「それで、何が届いたんですか?」

グ「大したもんじゃねえよ

  大掃除したら俺がガキだった頃のものが色々出てきたらしくてな」

グ「それをご丁寧に職場に送りつけやがったんだと

  せっかくの休日が台無しだぜ」

イ「そんなに恥ずかしいものなんですか?

  息を切らして駆けつけるくらいに」

グ「そりゃ、十年前の自分の写真やら何やら

  職場の人間に見られて恥ずかしくないわけないだろ」

グ「特にウチには厄介な奴が多いんだからよ

  ケティとかマクロンとか」

イ「厄介って……」


イ「そういえば、グロキアさんってここに来る前は

  何をしてたんですか?」

グ「普通に大学通って、そのまま就職しにただけだ

  特に面白いこともなく、順風満帆にな」

イ「へえ、大学ですか 凄いですね

  私、頭良くないから、大学なんて想像もつかないです」

グ「そんな珍しいもんでもないだろ、ここじゃ

  半分くらいは警察学科出身だろ」

イ「確かに……ケティさんやネイブは違うから意識してませんでしたけど

  三班も他の人たちは結構頭良さそうな感じですしね」

グ「社会の犬になるには、戦闘能力以上に躾の良さが大事だってことだな」

イ「……とても躾けられてるようには見えませんけどね、グロキアさんは」

グ「褒めてんのか貶してんのか微妙だな、その言い方」

イ「ただの正直な感想ですよ

  警察学科ってことは、その時から警備隊を目指してたんですか?」


グ「ああ、つってもそれを決断したのは試験の直前だったけどな

  それまでは弁護士か財務士にでもなろうと思ってた」

イ「めちゃくちゃ頭いいんですね……グロキアさん」

イ「ならなんで、警備隊を目指そうと思ったんですか?

  やっぱり、みんなを守るためとか?」

グ「はっ、はははっ……笑わせんなよ

  俺が? みんなを守る? 馬鹿じゃねえの」

グ「ちげーよ、そんなんじゃねえ

  俺がここに来たのは、そうしないと果たせない野望があったからだ」

イ「野望? 弁護士や財務士じゃ届かないような、野望ですか?」

グ「そうだ、ここでしか成し得ない野望

  そんな厄介なもんができちまったわけだ」

グ「あの時あんなこと思わなけりゃ、こんな危険と隣り合わせの

  糞みたいな職場にくることもなかったんだがな」

イ「その野望は、もう叶ったんですか?」

グ「いいや、まだまだだよ

  ようやく、その影が見えて来たくらいだ」

グ「だからその野望が叶うまで、俺を煩わせないでくれよ?

  これは俺だけじゃなく、お前のためでもあるんだからな?」

グ「好奇心って奴は本当に厄介で……

  どんなに狡猾な人間でも、目が曇っちまう」

イ「は、はい 気をつけます……」

グ「っと、あぶねえ 早くしないと俺の学生時代が辱められちまう

  じゃあな、ちびっ子 やんちゃすんなよ」

(音・足音)


イ(まだ叶えられていない野望……一体どんなものなんだろ?)

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