凡と鈍
(音・金属擦れ音)
ケ「99……100っ、ああぁ……!」
ケ「はぁっ……はぁ……筋トレには慣れてるつもりだったけど
思ったよりきついわこれ……げほっ」
イ「あれ、朝から訓練ですかケティさん
頑張りすぎは良くないですよ」
ケ「マクロンに、新しい訓練器具を取り寄せたから
どんなもんか試してほしいって頼まれてんのよ」
イ「ここの設備に詳しいに一番くわしいですもんね、ケティさん」
ケ「暇人だからな」
イ「本当は誰より真面目なくせにそんなこと言っちゃってー
可愛いんですからほんと」
ケ「あん? 生意気なこと言ってるとこの器具の餌食にするぞ」
イ「一応聞きますけど、訓練器具ですよね? それ」
ケ「どんな道具でも人を痛めつける凶器になりうるのよ
私の手にかかればね」
イ「でも、ケティさんもう十分強いし、頭もいいじゃないですか」
ケ「何よ急に気持ち悪いわね」
イ「なのによくそんなに頑張れるなって思うんですよ
私なら絶対サボっちゃいますもん」
イ「尊敬すると同時に、何がケティさんをそこまで
動かしてるのかなあって」
ケ「街の安全を守る者として、鍛錬を欠かさないのは
当たり前じゃない」
イ「……」
ケ「やめなさい、その気色悪いものを見たような顔」
イ「痛い痛い、ほっぺた引っ張らないで!」
ケ「……自分でもわかってるわよ そんなキャラじゃないことくらい」
イ「ですよねー」
ケ「……」
イ「痛いですっ!」
ケ「私、昔からどんなことだってそれなりにこなせたのよね
苦手なことといえば、野菜食べることだけってくらいに」
ケ「周りからは優秀だの天才児だの言われてたわ」
イ「確かに、ケティさんが困ってるの見たことないかも」
ケ「でも、同じくらい得意なこともなかったのよ
運動も勉強も遊びも、いつだって一位にはなれなかった」
ケ「しかも最悪なのがあのクソ兄貴よ」
イ「クソ兄貴……フェゼさんのことですか」
ケ「あいつは私と逆で、鈍臭くて不器用で
小学校の時なんか毎日のように居残りさせられてたわ」
イ「え、そうなんですか? 何か意外ですね」
ケ「そう? あいつは今でもボンクラでしょ
んで、いつだったか太陽の動きを調べる授業があったのよ」
ケ「他の奴らはみんな協力して、写し合ってたのに
あいつだけ毎日一時間ごとに記録とってて」
ケ「しかもそこから太陽の軌道を計算するなんて馬鹿みたいな事やって
街の教育委員会に表彰までされやがったのよね」
イ「ええっ、凄いじゃないですか!」
ケ「他にも三日三晩寝ずに何かしてると思ったら
折り紙で無駄にリアルなムカデ作って表彰されたり」
ケ「あと、時計台の高さを測る遊びに熱中して
建築家が弟子に欲しいって、父親を説得しに来た事もあったわ」
イ「めちゃくちゃ凄いですね……まさかそんな過去があるとは」
ケ「一つのことにのめり込むと他のことが目に入らなくなるのよ
そういうわけで、あいつは馬鹿だけど何か持ってるって一目置かれてた」
ケ「子供にしては優秀だと褒められるだけで
何者にもなれない中途半端な私と違って」
ケ「警備隊に拾われた後も、それは変わらなかったわ」
ケ「体力のない落ちこぼれだと思ってたのに
いつの間にか隊で一番の狙撃手になってた」
ケ「私が拷問官になったのも、修練場に毎日入り浸ってるのも
多分、何者にもなれない自分が惨めで悔しかったから」
ケ「どんな肩書きを得たって私自身が変われるわけじゃないのに
必死にそれを守り抜こうとしてる、馬鹿みたい」
イ「……そんなことないですよ」
ケ「あん?」
イ「それでも毎日努力している事実は変わらないじゃないですか
私はそのケティさんの頑張りを凄いと思ってるんです」
イ「ケティさんはかっこいいし、口は悪いけど真面目だし
自分でそう思えなかったとしても、本当は凄い人なんですよ!」
ケ「……そういうことにしといたげるわ」
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