因果と決断

フ「なんで俺達がこの仕事をしてるのかって?」

イ「はい ケティさんに聞いても、何も教えてくれなくて」

イ「入隊した時は二人とも私より年下だったって聞きますし

  年上で上官のグロキアさんと、敬語を使わず話してるのも不思議だなって」

フ「ああ、話してなかったっけ 俺達が入隊した経緯」

フ「あんまり楽しい話じゃないから喋ってなかったんだけど

  せっかくだし、聞いてくかい?」

イ「楽しくないんですか……

  でも気になりますし、聞いておくことにします」

フ「よーし、じゃあどこから話そうかな」


フ「そもそも俺とケティは、昔は衆都西部の豪邸に住んでたんだ

  実は外交官の息子娘なんだぜ? こんなんでも」

フ「しかも教育熱心な母親の影響でいろんな英才教育を受けててさ

  何不自由ない人生を送るはずだったんだよ、俺たちは」

フ「だけどまだ10にもならないころに、不慮の事故で両親は死んだ

  残された俺たちは生き残るために光都警備隊で働くことにした」

イ「そんな、親戚や知り合いは何も言わなかったんですか!?」

フ「うちの親父は警備隊を嫌ってた変わり者でね

  仕事場でも煙たがられてたみたいだ」

フ「そんな厄介者が残した、呪い付きの子供なんざ

  拾って育てようとは思わないってことだよ」

フ「そんで途方に暮れてた俺達のところに

  突然、噂を聞きつけたらしい隊長がやってきたんだよ」

イ「ヴァイツェ隊長が?」

フ「散々罵ってきやがった禿げ爺が残した餓鬼を

  死ぬまでボロ雑巾のようにこき使うのも面白いってさ」

イ「えぇ……」

フ「そんなんでも当時の俺には女神様か何かに見えたよ

  もっとも、正体はとんだ鬼神だったけど……」

フ「そんで、その女神様に妹を生かしてくれって必死に頭下げて

  その御慈悲のおかげで警備隊の中で働くことを許可されたわけだ」

フ「最初は二人とも雑用係だったんだけど、キースさんが推薦してくれて

  六年前に隊員に昇格、今に至るって感じだよ」

イ「……警備隊って狭い門って聞きますし、不満に思う人もいたんじゃ」

フ「う〜ん、警備隊を目指すような奴は基本恵まれた環境にいるし

  から咎めたり」

フ「それにケティが人並み以上の功績を出してて、しかもあの性格だからさ

  誰も俺達にちょっかいを出そうとはしなかった」

イ「ああ、なるほど」

フ「どっちが守られてんだって話だよな 我ながら情けなくて笑っちまうよ」

イ「ま、まあ ケティさん強いですからね」

フ「ま、そんなこんなで二十歳になるまで

  なんとかここでやって来れたんだけどさ」

フ「でも最近、ケティの退屈そうな顔みて思ったりもするんだよ

  ここに来たのが本当に正しかったのか、ってな」

フ「あいつはずっと、自分が警備隊にいてはいけない存在だって感じてて

  それを払拭するために……嫌な仕事も文句言わずやってるんだ」

フ「休日も遊びもせず毎日修練場に篭ってるし

  ほんとにこれがあいつにとって良い人生なのかなって不安になる」

フ「……あはは、悪いね いつも格好悪いことばっか言ってて

  あいつをもっと幸せにできるよう、明日からも頑張らねえと」

イ「……私たちにできることがあったら、なんでも言ってくださいよ

  みんな二人がいなくなったら死ぬほど寂しいんですから」

フ「そうしてもらえると助かるよ

  俺一人じゃどうにも力不足だからさ」

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