時計塔

イ「今日はいい天気だなあ」

ケ「そうね」

イ「お外に遊びに行ったら楽しいだろうなあ」

ケ「そうね」

イ「誰か一緒に行ってくれる人はいないかなあ」

ケ「人はいつだって独りぼっちなのよ」

イ「……」

ケ「……」

イ「ああああああ!

  一緒に行きましょうよおおお!」

ケ「うっさいわね、なんでわざわざ用もないのに

  外を出歩かなきゃいけないのよ」

ケ「そんなにうろつきたいなら

  休日返上で毎日働けばいいじゃない」

イ「うわああああああああ!」

?「うわぁ!」

キ「ふう、驚いた ケティくん、何があったんだい?

  なぜかイーリくんが絶叫しながら廊下に飛び出して来たんだけど」

ケ「……はぁ」


ケ「ったく、叫ぶやつがあるか

  それとも何? あんたの村の風習?」

イ「キースさんに、無駄な心配をかけちゃったみたいですね」

ケ「みたいですね、じゃないわよ あんなの誰でも心配するわ

  保護者の私が変な目で見られるんだから」

ケ「んで、どこに行きたいのよ

  私、夜は仕事あるから近場にしなさいよ」

イ「だったら時計塔あたりを回ってみたいです」

ケ「はあ? ここから五分もかからないとこじゃない

  わざわざ休みの日に回るとか馬鹿じゃないの?」

イ「どうしろって言うんですか……」


イ「んー、でっかい時計ですね」

ケ「そりゃそうよ、時計塔だもの」

イ「まさにこの街の時間を司る塔、って感じですよね

  でも、もしこの時計が壊れたりしたらどうなるんだろ」

ケ「そうね……新しく作られる時計は

  この時計塔を基準にしてるって聞いたことあるわ」

イ「塔の中を見学できるみたいですよ

  ちょっと行ってみましょうよ」

ケ「ま、どうせここまで来たんだし

  入ってみるのもいいかもしれないわね」


イ「ほえー、歯車がいっぱい……

  いつもの風景の裏にこんなのが潜んでいたなんて」

ケ「人くらい簡単に轢き殺せるわね、このデカさだと

  時の流れの前には人間は無力、ってことかしら」

イ「でもこれだけ大きいと、すぐ時間がズレちゃいそうですよね

  ほら、精密な動きとかできなさそうですし」

ケ「逆に、大きいからこそ影響を受けにくいってこともあるんじゃないの?

  私たちが押してみたところでビクともしないでしょうし」

イ「んー、難しい問題ですね」

イ「あれ、こんなところに何かの写真が貼ってますね

  ええとなになに、世界基準時刻……?」

ケ「世界各国との交流を円滑に行うために

  我が国の光路通信技術が用いられています、ね」

ケ「この街に他の国のことを考える思慮があるなんて、驚きだわ

  国交断絶でもしてんのかと思ってた」

イ「他の国……山の向こうにあるんでしたっけ

  いつか行ってみたいなあ」

ケ「……ま、夢見ない方がいいと思うわよ

  この国から出るなんて、私たちの命じゃ何個あっても足りない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る