トーブ

巣食う者・1

(音・雷)

イ「すっごい雨だなあ」

マ「ええ〜、今日は歌劇の新作を見に行くつもりだったのに〜

  なんでこーゆー日に限って大雨なんだよ!」

イ「残念……これじゃ開演は無理そうですね」

マ「うー、せっかくフェゼさんに無理言って

  休みの日を調整したのに! 台無しだよ!」

イ「今日はもうここでゆっくりしましょうよ

  たしか遊戯室に歌劇の雑誌があったような」

マ「さっすがキースさん、わかってるぅ!」

マ「幸い上演期間はそんなに短くないみたいだし

  見に行くのはまた次の機会にしよっか」

イ「はい、楽しみにしてますね!」


ケ「ああああああ、もう、くそったれが!」

マ「うわ、なんかすっごい剣幕で帰ってきた

  しかも泥だらけだし」

ケ「コソ泥の鬼ごっこに付き合わされたんだよ!

  やっと捕まえたと思ったら今度はレスリングだ、ふざけんじゃねえ」

マ「うわ、すっげえキレてる」

ケ「むかついてしょうがないから、風呂入って落ち着いてくる

  部屋汚したくないから着替えとってきて、お願いね」

(音・ドア)

マ「あはは、はぁ……ま、働いてきた人には逆らえないよね

  じゃ、ケティの部屋行ってくるから、先に行ってて」

イ「ん、わかりました」


イ「えーと、たしかこの辺りに……

  あれれないや、誰かが持って行ったのかな」

イ「んー、もうちょっと探してみよう

  ふんふん、あれ? この本棚、なんか窪みがあるような」

イ「おお? なんか小汚い本が隠してあったぞ

  なになに、『バードウォッチング入門』?」

イ「出版日20年前だし、なんでこんな本がここに?

  それに、わざわざ隠す必要なんて……」

(音・写真落ちる)

イ「あれ? 何か中に挟まってたみたいだ

  古い写真? 男の人が二人写ってる」

イ「警備隊の制服を着てて、背景は時計塔みたいだ

  それにこの左の人って……」

グ「なーに散らかしてんだよ、ちびっ子

  ここは幼稚園じゃねえんだぞ」

イ「あ、グロキアさん! ちょうどいいところに」

グ「なんだよ気色悪い

  片付けなら手伝わねえぞ?」

イ「あの、この写真って、グロキアさんのですよね」

グ「……どこで見つけた、これ」

イ「本棚の奥に隠されてた本の中から

  やっぱりグロキアさんですか、じゃあこの隣の人は?」

グ「それは五年前、なんかの記念に撮らされた写真だ

  警備隊何十周年とかだったか?」

グ「んで、隣にいるそいつは俺の同僚だった人間だ

  トーブっていう間抜けな名前のな」

イ「同僚だった?」

グ「ああ、三年前に突然失踪したがな」

イ「そんな、失踪ってどこに!?」

グ「わかんねえから失踪なんだろうが」

グ「俺の方が年上だが入隊はあっちが早くてな

  歳が近かったせいか妙に馴れ馴れしい奴だ」

グ「そのせいで、記念写真までセット扱いにされたってわけだ

  おかげで延々と奴の居場所について問い詰められたさ」

イ「それで、理由はなんだったんですか?」

グ「奴のことが気になってしょうがない、って顔だな

  ま、ケティのやつに訊いた方がいいと思うぜ」

イ「ケティさんに、ですか?」

グ「あいつの指導係がその写真の男だったはずだ

  ちょうど、お前をケティが世話してるみたいにな」

イ「なるほど、それにしてもなんでこの写真をこんなところに……」


マ「お待たせー、いやーごめんねイーリちゃ……

  うわあなんだこの有様!」

マ「ちょっと、イーリちゃん! 副班長!

  早く片付けなさい!」

グ「はぁ? なんで俺まで」

マ「つべこべ言わない!」

グ「ちっ、やっぱり柄に合わねえことはするべきじゃねえな

  やっぱりちびっ子に関わるとロクなことがねえ」


イ(警備隊からの失踪……今でも消息不明って

  いったい何が起こったんだろう)

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