うろつき・東

秘境巡り2・東部

イ「もしもし」

ネ「なに……休日の朝から」

イ「リクタリアの境界線巡り、行こう」

ネ「ああ、そういやそうだっけ

  待ってて、準備する……ふああ」

イ「なんか調子悪そう、どうしたの?」

ネ「昨日うっかり館内の立ち入り禁止区間に入っちゃって

  それでキースさんにしっかり怒られた」

イ「それで寝不足なの」

ネ「うん、なんかキースさんに怒られると

  逆に怖くてさ、寝付けなくて」

イ「そんな、怨霊みたいな……」

ネ「いや、いい人なのはわかってんだけど

  時々目が笑ってないっていうか」

イ「うーん、やっぱり外出るのしんどい」

ネ「正直、寝かしといてくれると、ありがたい」

イ「わかった じゃあ一人で行く」

ネ「悪いな、いつか埋め合わせする」

イ「ん、晩御飯のおかずね」

ネ「え、ちょっとまっ」

イ「行ってきま〜す」

ネ「あいつ……やり方がマクロンさんやケティさんに似てきたな」


イ「やっぱり東部はいいな〜

  人が多いぶん道がしっかりしてて歩きやすい」

イ「それに、食べ物の店もいっぱいあって楽しいや」

イ「ん〜、昼ご飯に買ったコロッケサンドも美味しいし」

(音・警笛)

イ「あれ、なんか開けたところに出た」

イ「……おお、でっかい壁がある

  それも、見渡す限り続いてる壁だ」

(音・警笛)

(音・エンジン音)

イ「それに、車みたいなのがいっぱい通ってる

  街の中まで入れないくらい大きい」

男「ん、嬢ちゃんなにやってるんだい?

  学校サボってくるような場所じゃないぞ、ここは」

イ「あ、いえ 今日は特別に休みなんで」

男「ふ〜ん、まあ良いや」

イ「このあたりは来た事なかったし

  折角だから、見ておこうかなって」

男「ん、そうかもねえ 俺も輸送業界に入らなきゃ

  モヌド区域への大門なんか見ることもなかったかも」

男「ほら、あれ あのでっかい門の外はもうモヌドだ

  リクタリア以外の土地なんて、想像もできないよ」

イ「ええと、お兄……さん?」

男「おっさんでいいよ もう30前だし」

イ「おっ……さんは門の外に出たことあるの?」

男「俺なんかじゃ無理だよ、冗談にもならないさ

  外で実際に交易できるのは限られたエリートだけさ」

男「それに、外の世界に行ってみたいなんて言ったら

  先輩たちに笑われちまうよ」

イ「興味ないの?」

男「まあ好奇心はあるけどさ

  こんなに良い街を知っちゃってるからね」

男「新しい世界に飛び込めるほど

  今の暮らしを嫌いになれないっていう感じかな」

イ「……?」

男「だって、モヌドって野生生物とかいるし

  病院もないっていうじゃん」

男「好奇心で死ぬかもしれない世界に飛び込むのは

  あまりにリスクが大きいよなって」

イ「ああ、そういう」

(音・警笛)

男「お、もう昼休みも終わりだわ、働くとするかぁ

  じゃな、学校はちゃんと行けよ!」

イ「死ぬかもしれない世界、かぁ」

イ「壁一枚しか離れてないのに

  なんでこんなに遠く感じるんだろう」

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